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ファイルⅥ:詐欺捜査
#19
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車から降りてきたのは、日下部さんと、あとは知らない男性の二人だった。
その男性は、降りてきたというより、日下部さんに無理やり引き摺り降ろされた感じだった。
「連れてきました。」
日下部さんがそう言うと、京子さんの前に男を突き出した。
見た目は少しチャラめの30代前半といった年齢だ…。名前や顔こそは知らない物の、その男が、何者なのかは察しが付いた…。
当の本人を目の前にすると、流石に怒りが沸々と込み上げてくる…。
「ご苦労様です。」
「全く…。何なんですか、こんな所まで連れて来て…。」
男は、ぶつくさと文句を垂らしていたが、京子さんは、それを無視し、私たちに向き直った。
「彼が、お察しの通りの人物、園部真です。
ただ、今日一日だけの捜査では、完璧な証拠を掴むまでは行きませんでした。
なので、弁護士や警察に突き出すという事までは、できません…。
ですので、彼をどうするかをあなた方お二人に決めて頂きたい。」
そこまで話すと、京子さんは隣のベンチに腰を下ろし、今度は男に向かって、話を始めた。
「園部さん。あなたは、何も理解していない様ですが、自分が何をしたのかくらいは、覚えてませんか?」
「俺は、あんた等に何かした覚えはねぇぞ…。」
本当に理解していない様だった。私は、名前も顔も声も知らなかった、この男を憎んでいたというのに…。
「佐野智実。この名前を聞いても、分かりませんか?」
「佐野…智実…。」
迷惑そうだった顔が、一気に土気色になった。声のトーンや震え具合からして、明らかに動揺していた。
「当然覚えていますよね?
それとも、自分がお金をむしり取った人の名前くらい、忘れましたか?」
京子さんが、更に追い打ちをける…。
「し、知らねぇ…。」
ここにきて、白を切り始めた…。証拠がないとは言え、京子さん等探偵は、プロだ…。それは、私がよく知っている…。そんな彼等が辿り着いた人物…。間違いは無い筈だ…。
「白を切っても良いけど、最後に自分の首を絞めるのは、貴方自身になるよ…。」
「…。」
今度は黙秘…。どこまで自分勝手な男なんだ…。ここまで来たら、怒りを通り越して、呆れを感じる…。
京子さんも同じだったのか、深いため息を吐いた。
すると、日下部さんが、ジャケットの胸ポケットから、一枚の写真の様な物を取り出した。
「智実さんが、大事そうに持っていました。」
皺になり、所々折り目が付き、掠れている写真だ…。私は、見なくても分かる。あの日、シャワーの音が鳴り響く浴室で、彼女が握りしめて居た物だ…。
その男性は、降りてきたというより、日下部さんに無理やり引き摺り降ろされた感じだった。
「連れてきました。」
日下部さんがそう言うと、京子さんの前に男を突き出した。
見た目は少しチャラめの30代前半といった年齢だ…。名前や顔こそは知らない物の、その男が、何者なのかは察しが付いた…。
当の本人を目の前にすると、流石に怒りが沸々と込み上げてくる…。
「ご苦労様です。」
「全く…。何なんですか、こんな所まで連れて来て…。」
男は、ぶつくさと文句を垂らしていたが、京子さんは、それを無視し、私たちに向き直った。
「彼が、お察しの通りの人物、園部真です。
ただ、今日一日だけの捜査では、完璧な証拠を掴むまでは行きませんでした。
なので、弁護士や警察に突き出すという事までは、できません…。
ですので、彼をどうするかをあなた方お二人に決めて頂きたい。」
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「俺は、あんた等に何かした覚えはねぇぞ…。」
本当に理解していない様だった。私は、名前も顔も声も知らなかった、この男を憎んでいたというのに…。
「佐野智実。この名前を聞いても、分かりませんか?」
「佐野…智実…。」
迷惑そうだった顔が、一気に土気色になった。声のトーンや震え具合からして、明らかに動揺していた。
「当然覚えていますよね?
それとも、自分がお金をむしり取った人の名前くらい、忘れましたか?」
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「白を切っても良いけど、最後に自分の首を絞めるのは、貴方自身になるよ…。」
「…。」
今度は黙秘…。どこまで自分勝手な男なんだ…。ここまで来たら、怒りを通り越して、呆れを感じる…。
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すると、日下部さんが、ジャケットの胸ポケットから、一枚の写真の様な物を取り出した。
「智実さんが、大事そうに持っていました。」
皺になり、所々折り目が付き、掠れている写真だ…。私は、見なくても分かる。あの日、シャワーの音が鳴り響く浴室で、彼女が握りしめて居た物だ…。
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