100 / 281
ファイルⅥ:詐欺捜査
#16
しおりを挟む
自宅から、5分程歩いたところに、小さな公園がある。私が小さい頃は、ブランコなどの遊具もあったのだが、2~3年前に、老朽化が原因で撤去されてしまった。今では、砂場と水飲み場、ベンチと時計があるだけで、閑散としている。
「それは大変だったねぇ…。」
公園の入り口近くにあったベンチに三人で腰を下ろした。時刻は16時半を刻み、日も傾き始めていた。
夏至も終わり、後はお盆を待つだけの7月。本来なら、夏の大会に向けて忙しくなっていた筈だ…。
大変だった。私の話を聞いた、家族を含めた皆がそう言う…。楽器が、ある日突然吹けなくなった。そう言われても、現実味が湧かないのかもしれない。私自身、理解するのにかなりの時間を要したわけだから、仕方がない…。
スポーツの世界に、イップスがあるように、音楽の世界にも、それは存在する。フォーカルジストニアの原因は未だよくわかっておらず、確立された治療法も存在せず、カウンセリングの様な物を行っている。更に、精神的な病気の為、治るかどうかは私自身にある…。
ただ、今は治そうとういう気には、とてもなれない。
「私、音楽に嫌われたんですかね…。」
嫌われるという事が、これ程凶悪で恐怖的な物だとは思いもしなかった。そんな事を悩んだ時点で、どうにかなる物でもなかったが、少しでも、『音楽が出来ない』に言い訳が欲しかった。
嫌われたのなら、諦めが付く…。
「それは、私でも分からないねぇ…。ただ、好きだったものが、離れて行く時は、何かが無くなったときだよ…。」
おばあさんがゆっくりとした口調で、諭す様に話し始めた。
私とおばあさんの間に座っていた男の子が、 目をこすり始め、私に凭れ掛かってきた。
「この子には父親がいなくて、母親とも一緒に暮らせなくて…。」
この子は、隼也というらしい。彼の母親は三年ほど前に、結婚詐欺に遭い、お金だけむしり取られ、捨てられた。
母親の両親は既に他界しており、頼れる親類も居なかった。更には、身重になっており、どうすることも出来なかった…。
やっとの思いで産んだは良いものの、お金もなく、産まれて間もない彼を、施設に泣きながら預けに来たらしい。
「『私が充分稼げるまで、お願いします。』って、冬の寒い時期に来て…。この子にはセーター巻かせて、自分は薄着で…。」
母親は、休みの日とかを利用して、彼に会いに来ているらしい…。
「この子は当然母親の事は好きだろうし、母親もまたしかり…。どっちかが欠ける事は、あってはならない…。好きだった物が無くなれば、お互い苦しいだろうし、託された周りも辛い…。
貴女も、もしかしたら、知らないうちに、無くした物があるんじゃない?」
少し、情けなく感じた…。
「それは大変だったねぇ…。」
公園の入り口近くにあったベンチに三人で腰を下ろした。時刻は16時半を刻み、日も傾き始めていた。
夏至も終わり、後はお盆を待つだけの7月。本来なら、夏の大会に向けて忙しくなっていた筈だ…。
大変だった。私の話を聞いた、家族を含めた皆がそう言う…。楽器が、ある日突然吹けなくなった。そう言われても、現実味が湧かないのかもしれない。私自身、理解するのにかなりの時間を要したわけだから、仕方がない…。
スポーツの世界に、イップスがあるように、音楽の世界にも、それは存在する。フォーカルジストニアの原因は未だよくわかっておらず、確立された治療法も存在せず、カウンセリングの様な物を行っている。更に、精神的な病気の為、治るかどうかは私自身にある…。
ただ、今は治そうとういう気には、とてもなれない。
「私、音楽に嫌われたんですかね…。」
嫌われるという事が、これ程凶悪で恐怖的な物だとは思いもしなかった。そんな事を悩んだ時点で、どうにかなる物でもなかったが、少しでも、『音楽が出来ない』に言い訳が欲しかった。
嫌われたのなら、諦めが付く…。
「それは、私でも分からないねぇ…。ただ、好きだったものが、離れて行く時は、何かが無くなったときだよ…。」
おばあさんがゆっくりとした口調で、諭す様に話し始めた。
私とおばあさんの間に座っていた男の子が、 目をこすり始め、私に凭れ掛かってきた。
「この子には父親がいなくて、母親とも一緒に暮らせなくて…。」
この子は、隼也というらしい。彼の母親は三年ほど前に、結婚詐欺に遭い、お金だけむしり取られ、捨てられた。
母親の両親は既に他界しており、頼れる親類も居なかった。更には、身重になっており、どうすることも出来なかった…。
やっとの思いで産んだは良いものの、お金もなく、産まれて間もない彼を、施設に泣きながら預けに来たらしい。
「『私が充分稼げるまで、お願いします。』って、冬の寒い時期に来て…。この子にはセーター巻かせて、自分は薄着で…。」
母親は、休みの日とかを利用して、彼に会いに来ているらしい…。
「この子は当然母親の事は好きだろうし、母親もまたしかり…。どっちかが欠ける事は、あってはならない…。好きだった物が無くなれば、お互い苦しいだろうし、託された周りも辛い…。
貴女も、もしかしたら、知らないうちに、無くした物があるんじゃない?」
少し、情けなく感じた…。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
日常探偵団2 火の玉とテレパシーと傷害
髙橋朔也
ミステリー
君津静香は八坂中学校校庭にて跋扈する青白い火の玉を目撃した。火の玉の正体の解明を依頼された文芸部は正体を当てるも犯人は特定出来なかった。そして、文芸部の部員がテレパシーに悩まされていた。文芸部がテレパシーについて調べていた矢先、獅子倉が何者かに右膝を殴打された傷害事件が発生。今日も文芸部は休む暇なく働いていた。
※誰も死なないミステリーです。
※本作は『日常探偵団』の続編です。重大なネタバレもあるので未読の方はお気をつけください。
赭坂-akasaka-
暖鬼暖
ミステリー
あの坂は炎に包まれ、美しく、燃えるように赤い。
赭坂の村についてを知るべく、男は村に降り立った。 しかし、赭坂の事実を探路するが、男に次々と奇妙なことが起こる…。 ミステリーホラー! 書きながらの連載になるので、危うい部分があります。 ご容赦ください。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための10の技
MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。
私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。
すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。
そんな方に言いたいです。
アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。
あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。
アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。
書いたまま放ったらかしではいけません。
自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。
一条家の箱庭
友浦乙歌@『雨の庭』続編執筆中
ミステリー
加藤白夜(23)は都心に豪邸を構える一条家の住み込み看護師だ。
一条家には精神を病んだ住人が複数名暮らしている。
お抱えの精神科医針間と共に一条家の謎を紐解いていく先に、見えるものとは?
ケース1 一条瑠璃仁×統合失調症
ケース2 一条勝己×解離性同一性障害
ケース3 一条椋谷×健康診断
ケース4 渡辺春馬×境界例(予定)
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる