探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅥ:詐欺捜査

#10

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 向かった先は、倉庫だった。広さは10畳程度で、貸出用の端末や管理用の資料が保管されている。10畳とは言いつつ、物が多いため、二、三人入れば立つところが無くなる。
 宮城上司はその一角にある、大きめのロッカーの様な物を一台、弄り始めた。
 すると、奇麗な青色のLEDが所々から光りだし、数十基ものファンが雄叫びを上げた。
 ロッカーの中を見ると、大小様々な細長い筐体が無数に差し込まれていた。更に、それを覆い隠す様に、ケーブル群が所々のポート、ハブと繋がれており、目で追うのは困難だ。
 「これ、ブレードサーバですか?何だってこんなものがここに?」
 サーバーには大きく分けて3種類存在し、ブレードサーバはその内の一つだ。
 しかし、ウチの大部分のサービス及び、システムを維持しているのは、ラックサーバーで賄われている。そのため、このビル内に、ブレードサーバなる物があるのが、凄く珍しい。
 「『最終兵器』と言えば、カッコいいんだろうけど、ただの負の遺産です。」
 宮城上司が言うには、10年近く前に今あるサーバをこれに切り替えて運用する予定だったが、初期費用が思った以上に高かったことと、テスト運用で幾つか不備が見つかり、結局お蔵入りになったらしい。
 「これは、その時、テストで使っていた物の一台です。不備とは言え、普通に使う分には問題ありません。」
 そう言いながら、入り口近くのラテラルから、ノートパソコンを三台取り出し、サーバに接続した。
 「時間がありません、笹井さんとお二方のどちらかは、手伝って下さい。」
 私と同時期に入社した、七瀬という男性が残り、もう一人は宮城上司から、ある物を預かり、部屋を出て行った。
 このブレードサーバとノートパソコンは、今まで電源も入っておらず、ずっと眠っていた。と言う事は、RAMスクレーパーに感染していない。
 「私と七瀬君はサーバを保持しつつ、まだ感染しきっていない他サーバの発見と保護。
 笹井さんは、根源を発見し駆除、お願いします。貴女ら、出来ますよね?」
 指示された以上、やるしかない…。

 その後、何とか発見と駆除に成功した。『AKIRA』というファイルに紛れていたのだ。それを、ちゃんと調査し、初期段階で駆除できていれば、こんな事態に見舞われなかった。
 しかし、何故か、私が調査を怠ったこととして、上層部には報告されていた。宮城上司や七瀬たちも反論し、『AKIRA』ファイルの所有者だった、天木等にファイルがどう言う物か説明され、何とか疑いは解けた。
それでも、こんな所に居ては、自分は成長できないと思い、辞職した。辞表を叩きつけた直後、篠崎さんから運が悪かっただけ、と慰められたのがきっかけで、今に至る…。

他人の上に立つ者は、下に居る人の力を遠ざけてはならない。私がそこに勤めていた時に、学んだことだった。
 日下部とは、一緒に仕事をすることは、殆どないが、彼は、私の知る本当の『上司』だと思っている。
 当然、天木や柏木、宮間等もそうなのだが、日下部は、他人を『心配』でき、それでいて、身体を張って、守ってくれる事も多々ある。
 班は違えど、彼が居れば安心できる。結局は、それで充分だと思っている。
 「私は、リューさんの事、別格だとは思った事ありません。アマキさんも、カシワギさんも…。
 少なくとも、私の中では、リューさんは、劣等を感じる様な必要はないと思います。」

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