探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅤ:探し物

#10

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 どんどん近づき、一台は、アパートの入り口の前に停め、ヘルメット外し、相場さんの部屋に向かった。
 もう一台は私と男を遮る様に停車させた。バイクの車種で、亮太だと分かった。
 「班長、助けに来ました。」
 彼はそう言うと、ヘルメットを取り、バイクから降りた。
 男は多少怯んではいたものの、目つきや顔色は先ほどと、殆ど変わらない。
 「い、痛い目見たくなきゃ、何もしないでくれ!」
 男は震えた声で、そう叫んだ。
 「そう言う訳にはいかない。少しでも罪が軽い方が良いだろ?」
 亮太も譲らない。こういう事態に、陥ったときは、まずは武装解除を促す。言葉で不可能なら、やむを得ず、実力行使で。それが、ホームズのやり方だった。実力行使は、それなりの戦闘技術が無いと、選べない。
 だから、基本はこういう事を見越した上で、人員の選抜をやらなければならない。
 「う、うるせぇ!」
 何を血迷ったのか、男はナイフを突き立てたまま、亮太に襲い掛かった。
 しかし、ナイフは気付くと、男の手を離れ、宙を舞った。
 亮太の回し蹴りが、手中にあったナイフだけを当て、弾き飛ばしていた。
 実の所、彼が来た時点で、この勝負、あの男の負けだ。浅野亮太。プロファイラーでありながら、日下部を除き、ホームズ一、喧嘩が強い。
 実際、カシワギ班が出来る前は、日下部班の副班長をやっていた。
 男は、それでも怯まず、今度は拳を握っていた。何が男を駆り立てているのか…。

 すると、鼻に何か付く様な匂いがした。ほうじ茶の様な、独特な香ばしい香り…。
 「リョータ君、ガンジャ!」
 「了解!」
 そう叫ぶと、男に強烈なボディブローを入れた。男はスイッチが切れた様に、大人しくなり、倒れ込んだ。
 ガンジャ…大麻の隠語。
 ナイフや暴行での障害なら、私たちのさじ加減で、どうにでもできるが、薬物の乱用となれば、実刑は間逃れない。そのため、錯乱している状態で、取り押さえが困難と判断した場合、行動不能にさせるのが、ウチのやり方だ。
 「いつまで座ってるんですか…。」
 亮太が手を差し出してきた。取り敢えず礼を言い、立ち上がった。
 すると、部屋の方から、相場さんとは違う悲鳴が聞こえた。
 「どうやら、向こうも終わったみたいですね…。」
 
 工藤刑事が来るまでは、さほど時間は掛からなかった。警察が現場検証もろもろしている間、相場さんは一応と言う事で、病院に搬送されていった。
 私たちは、軽い事情聴取をそれぞれされた。
 
 川村は、4月の中頃に隣に移り住み、常に相場さんの行動を、観察していたらしい。
 アパートの入り口に近づかずに、彼女の部屋に侵入で来たのは、そう言う事だった。
 「しかし、不思議なんですよね…。あの川村って女、交渉中に急に耳押さえて悲鳴上げだしたんですよね…。」
 彼女がパトカーに乗せられるとき、こっそりと匂いを嗅いだが、薬物らしい匂いはしなかった。目つきは、完全に精神がやられていた人のそれだった。
 抑えていた方の耳には、盗聴器の音声を聞くためのイヤホンをしていたらしい。
 
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