探偵注文所

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
82 / 281
ファイルⅤ:探し物

#9

しおりを挟む
 気が付くと、大分日が傾き、辺りが夕焼け色に染まっていた。
 話が少し弾み、時間の経過を忘れていた。喋ることが、楽しいと思えたのは、何気に、今日が初めてかもしれない…。
 しかし、未だに、ストーカーらしき人物は、現れていない。
 幾ら低燃費とは言え、エンジンをかけっぱなしという訳にもいかない。暑さを和らげるため、深く息を吐いたその時、アパートに近付く人影があった…。
 見た目は『いかにも』という様な風貌で、キャップとサングラス、マスクをしている…。
 服装も、黒いワイシャツとチノパンと性別すら判別付かない…。
 郵便受けを物色し始めた辺りで、ストーカー犯と確定し、取り押さえることにした。
当然、相場さんには、合図するまでは中に居る様にと、指示はした。
この時点で、犯人は女性と予想は付けていたが、万が一に備えた。
 車から降りようとしたとき、スマホが鳴った。相沢からだった。
 『大変な事が解った。従姉のお姉さん、『川村瑞穂』は今年に入って、引っ越している。
 そして何より、半年前にその出版社を寿退社している。』
 「寿…退社…。」
 『結婚相手は『杉本隼』。相場さんの、元カレだ。』
 その瞬間だった。イヤホンの向こうから相場さんの悲鳴が聞こえた。部屋の入り口の方に、目をやると、ドアが丁度閉まる所だった。
 油断した…。郵便受けを物色する、サングラスの人物に気を取られて、そっちを見ていなかった…。
 急いで、アパートに駆け寄ると、サングラスの人物が、振り返り、アパートの入り口の前に、立ちはだかった。
 
 「どいてくれない?今急いでるんだけど。」
 なるべく刺激しない様に、会話を試みたが、返事がない…。
 力尽くで、押しのけようとしたが、簡単に振り払われた…。
 筋肉の付き方からして、多分男性。杉本隼だろう。
 耳元のイヤホンでは、相場さんと別の女性の声が、聞こえている。
 「杉本隼であってる?ストーカーは二人居た。いや、正確には二人で一人だった、違う?
 手紙を書いたのは、川村さんだけど、全て実行していたのは、貴方だった。」
 そこまで言うと、男が震えだした。なるほど、彼には、罪悪感があったのか…。
 「し、仕方なかったんだよ…。そ、そうしないと、俺が…。」
 震えた声でそう呟いた後、ポケットにしまっていたであろう、果物ナイフの様な物を取り出し、こちらに向けて来た。
 私も仕方なく、上着の内側に隠してある、数本のデザインナイフに手を掛ける…。
 
 男性の握る果物ナイフに敵うかと言われれば、答えは否だ…。
 デザインナイフを抜く。そんな暇さえ与えてくれず、杉本はナイフを抱え、突進してきた。何とか躱したが、私のデザインナイフは地面に落ち、刃が折れた…。
 算段はあるが、極限まで追い込まれている、男を制することは、不可能…。
 あろうことか、二撃目を避けた時、脚を痛めた…。完全に詰んだ…。
 流石の私でも、死を覚悟したその時、男の背後から、バイクの爆音が二つ、近づいて来た…。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ランネイケッド

パープルエッグ
ミステリー
ある朝、バス停で高校生の翆がいつものように音楽を聴きながらバスを待っていると下着姿の若い女性が走ってきて翠にしがみついてきた。 突然の出来事に唖然とする翆だが下着姿の女性は翠の腰元にしがみついたまま地面にひざをつき今にも倒れそうになっていた。 女性の悲壮な顔がなんとも悩めかしくまるで自分を求めているような錯覚さえ覚える。 一体なにがあったというのだろうか?

尖閣~防人の末裔たち

篠塚飛樹
ミステリー
 元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。  緊迫の海で彼は何を見るのか。。。 ※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※無断転載を禁じます。

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生だった。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

エリカ

喜島 塔
ミステリー
 藍浦ツバサ。21歳。都内の大学に通う普通の大学生。ただ、彼には、人を愛するという感情が抜け落ちていたかのように見えた。「エリカ」という女に出逢うまでは。ツバサがエリカと出逢ってから、彼にとっての「女」は「エリカ」だけとなった。エリカ以外の、生物学上の「女」など、すべて、この世からいなくなればいい、と思った。そんなふたりが辿り着く「愛」の終着駅とはいかに?

あの人って…

RINA
ミステリー
探偵助手兼恋人の私、花宮咲良。探偵兼恋人七瀬和泉とある事件を追っていた。 しかし、事態を把握するにつれ疑問が次々と上がってくる。 花宮と七瀬によるホラー&ミステリー小説! ※ エントリー作品です。普段の小説とは系統が違うものになります。   ご注意下さい。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...