探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅤ:探し物

#6

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 車を30分程走らせ、到着したのは、お台場海浜公園。平日の日中と言う事もあり、人はちらほらといる程度で、比較的に空いていた。
 実の事を言うと、ここに来たのは初めてだったりする。だから、よくネットやテレビ等で目にする自由の女神のレプリカは、初めましてだった。思いのほか、小さいものだ…。
 「綺麗ですね。」
 手すりに手を付き、対岸にあるビル群たちを眺めながら、相場さんが言った。
 「こっちに来てから、忙しいばっかで、全然こういう所にきていなから、少し新鮮です。」
 「たまには、息抜きも大事だよね…。あたしも、今の仕事しだしてから、全然…。」
 手すりに肘を掛け、もたれ掛かり空を仰いだ。天気は良く、視界に入る雲は、小さい物ばかり…。
なんて都合の良い言葉なのだろう。話してから気付いたが、多分『忙しい』と言うのは、自分も彼女も、言い訳なのだろう…。
 「上京するとき、親には猛反対されて、東京の専門行くより、地元に居た方が安心だって何度も言われて…。
それでもやっぱり、私には『東京』って言うのがすごい憧れで、行ってみたいって言うのが強かったんですよね…。
 だから、今回みたいな事、なかなか相談できなくて…。」
 景色を見て、少しでも楽になったのか、ぽつぽつと話し始めた。
 強がりとは、意外ともろいもので、親しい人より、全く知らない他人との方が、話しやすかったりする。
 亮太が私に彼女を預ける様にしたのは、こういう事もあるのだろう…。
 だが、そんな彼女が、羨ましかった…。上京するときには、親に心配され、こうやって吐き出せる機会が、偶然にもできて…。

 相場さんが大変だと言うのに、そんなことを考えては、質が悪いどころか、ストーカーと変わらない…。
 自分の感情を押し殺しさえすれば、その分誰かが喜び、楽になれる…。それは、小さい頃から、知らぬ間に叩きこまれた、教育だった。
 「柏木さんはどうして、探偵やってるんですか?」
 そう改めて聞かれると、何故だろう…ホームズに入る時は、無我夢中で、ただあの環境から抜け出したい一心だった。
 「わかんない…。」
 不思議とポロっと口を付いて出ていた…。焦って、言い直そうとしたが、考えていることとは、全く別の事が付いて出て来る…。
 「の家庭環境は、あまりよろしく無かったから、将来何になりたいとか考えてなくて…。」
 やってしまった…。相談員が、マイナスな事言ってどうする…。ましてや、私の身の上話など…。
 「そうですか…。でも、私は柏木さんが羨ましいです。」
 「え?」
 「だって、さっきの亮太さんって方、ずっと『ウチの班長来るんで、怖い物なし』って言ってました。私と一つしか違わないのに、『班長』って呼ばれるなんて、よっぽど人望が厚いとできませんよ。
 それと、彼が電話した時間、何時だか覚えてます?12時35分ですよ?それまでは、多分ご飯食べてるから~って、待ってたんですよ?
 そこまで思いやれる人から、頼ってもらえるなんて、凄いですよ。」

 怖い物なしと言うのは、多分相場さんを落ち着かせるため…。時間を知って居たのは、きっと日頃から、そう言う習慣が私にあって…。
 これも言い訳だ…。他人の事を羨んだ感情と、自分で選んだ道だからと、押し潰した感情が、入交り、自然と他人の思いまで、言い訳とすり替え、自分の感情を押し殺すように仕向けて来た…。
 ここに来て、親に束縛されていた影響が、知らぬ間に、自分を蝕んでいた…。身体は自由になっていたが、精神まではまだ、自由にはなって居なかった…。
 彼女に、いや、他人に初めて『羨ましい』と言われた所為なのか。それとも、今まで逸らしてきた感情を、直で受けてしまった所為なのかは分からないが、顔が火照って来るのを感じた。
 風邪をひいた時とは違う、何かこう…モヤモヤする様な、そんな感じだった。
 「でも、やっぱり可笑しいですね。本来は依頼人から頼まれた、物や人を探すのが仕事なのに、自分の事も探しきれてないなんて、ちょっと、面白いですね。」
 クスクスと笑う彼女の顔が、少しだけ輝いて見えた…。
 「笑うのは失礼…。ねぇ、さっきのストーカーからの手紙、もう一度見せて。」
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