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ファイルⅤ:探し物
#1
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朝から事務所に向かう為、鮨詰め状態の電車に乗っていた。運よく、先頭車両の壁際に乗れ、背中を預けられた。
乗ってから、数分経った頃、何やらブザーと共に、電車は速度を緩め、急ブレーキに近い形で、止まった。
進行方向に背を向けて、壁に寄りかかっていたものだから、一気に人の波が、圧となって押し寄せた。
『前を走る車両に、トラブルが発生したため、緊急停止いたしました。』
お決まりのアナウンスが流れた後、会社や学校に連絡を入れる人や、SNSに呟く人が続出する。当の私も、宮間に連絡を入れた。
特に急いでいる訳でもないが、長時間このサウナ状態は勘弁してほしい。
音楽を聴こうと、イヤホンを耳に入れようとしたとき、車内で悲鳴が上がった。女性の声だった。
声のした方を見ると、何やら数人で揉めている様だった。その中の一人の、男性の声は聞き覚えがあった。
人をかき分け、声のする、ドアの前の方へと向かった。
「あんた、今腰触ったでしょ!」
「してないです…。」
「嘘つくんじゃねぇよ!ゴラァ!」
「嘘じゃないです…。」
見るからに不良そうな男女に、日下部が絡まれていた。話の内容から察するに、日下部が女性に痴漢したらしい。
だが、残念だ…。彼が、そんな事できるはずがない。確信があったからこそ、その間に割って入った。
「リュー君、どうしたの?」
「カシワギさん…。居たんですか…。」
「まぁね。」
白々しく、何も聞いていなかった風を装い、彼等から言質を取る。
「俺の女に、手ぇ出しやがってよぉ。この落とし前、どうつけるんだ、あぁ?」
そんな汚い言葉ならべなくても、意味は通じるし、それで自分を強いと思わせているなら、びっくりだ…。
「どんな風に?」
「ここら辺。」
女性が腰の辺りを摩る様に示した。シャツがめくれていない辺りから、直接触ったとは考えられない。なら、服の上から女性の腰を触って、何のメリットがあるのか…。
「更には、お尻まで鷲掴みにされて…。」
上乗せされてるではないか…。
「それは本当ですか?」
「ミサキが嘘つくわけねぇーだろうが!」
男の方には聞いていないが、これで確信した。まぁ、元々疑っていた訳ではないが、このカップルが嘘を付いていることを立証したかった。
しかし、当の本人は、面倒くさそうに、欠伸を一つした。
全く緊張感のないのは、ある意味、彼の長所ではあるが、こういう時はせめて、欠伸くらいは、我慢してほしい…。
「鷲掴みねぇ…。それはこの人には無理だと思う。」
「あぁ?じゃぁ証拠出してみろや!」
「良いけど、文句言わないでね?」
「上等だ。」
了承を貰ったところで、男性にどちらでも良いから、腕を出す様に指示した。
男性は訳が分からない様子で、グチグチ言いながらも、左腕を伸ばしてきた。
「じゃぁ、リュー君、軽く握ってあげて。」
「…。」
彼も黙って従い、男性の腕を握った。その直後、男性は唸る様な悲鳴を上げた。男性の腕は決して太っている訳ではないが、握られた周りの皮膚は、盛り上がり、相当な力が掛かっているのは、一目瞭然だ。
流石に耐えきれないのか、引き離そうとするが、彼の腕はびくともしない。
「リュー君そろそろ話してやって、折れちゃうから…。」
「…。」
ハッとしたのか、彼は腕を離した。男性は腕を押さえ、目には涙を浮かべている。腕は、この一瞬で、紫色に変色していた。
「解った?彼はこう見えて、握力100㎏を超す、怪物。普段は、調整できるから、トマトも食べられるし、缶コーヒーも普通に飲める。
ただ、今は怪我が最近治ったばかりだから、調整が効かなくて、昨日もスチール缶、気付かずに、握り潰していた。
だから、今の彼に鷲掴みされたら、引きちぎられるんじゃない?」
「な…。」
「そうまでは行かずとも、『キャー』だけで済むはずがないでしょ?
更には彼、とてもシャイだから、女性の身体はもちろん、知り合いの私と話すのだって、いっつもこんな感じ。
何か質問は?」
どうやら、ぐうの音も出ない様だ。
そうこうしているうちに、電車は動き出し、次の駅で止まった。カップルは慌てた様に、電車を降り、足早に去っていった。
乗ってから、数分経った頃、何やらブザーと共に、電車は速度を緩め、急ブレーキに近い形で、止まった。
進行方向に背を向けて、壁に寄りかかっていたものだから、一気に人の波が、圧となって押し寄せた。
『前を走る車両に、トラブルが発生したため、緊急停止いたしました。』
お決まりのアナウンスが流れた後、会社や学校に連絡を入れる人や、SNSに呟く人が続出する。当の私も、宮間に連絡を入れた。
特に急いでいる訳でもないが、長時間このサウナ状態は勘弁してほしい。
音楽を聴こうと、イヤホンを耳に入れようとしたとき、車内で悲鳴が上がった。女性の声だった。
声のした方を見ると、何やら数人で揉めている様だった。その中の一人の、男性の声は聞き覚えがあった。
人をかき分け、声のする、ドアの前の方へと向かった。
「あんた、今腰触ったでしょ!」
「してないです…。」
「嘘つくんじゃねぇよ!ゴラァ!」
「嘘じゃないです…。」
見るからに不良そうな男女に、日下部が絡まれていた。話の内容から察するに、日下部が女性に痴漢したらしい。
だが、残念だ…。彼が、そんな事できるはずがない。確信があったからこそ、その間に割って入った。
「リュー君、どうしたの?」
「カシワギさん…。居たんですか…。」
「まぁね。」
白々しく、何も聞いていなかった風を装い、彼等から言質を取る。
「俺の女に、手ぇ出しやがってよぉ。この落とし前、どうつけるんだ、あぁ?」
そんな汚い言葉ならべなくても、意味は通じるし、それで自分を強いと思わせているなら、びっくりだ…。
「どんな風に?」
「ここら辺。」
女性が腰の辺りを摩る様に示した。シャツがめくれていない辺りから、直接触ったとは考えられない。なら、服の上から女性の腰を触って、何のメリットがあるのか…。
「更には、お尻まで鷲掴みにされて…。」
上乗せされてるではないか…。
「それは本当ですか?」
「ミサキが嘘つくわけねぇーだろうが!」
男の方には聞いていないが、これで確信した。まぁ、元々疑っていた訳ではないが、このカップルが嘘を付いていることを立証したかった。
しかし、当の本人は、面倒くさそうに、欠伸を一つした。
全く緊張感のないのは、ある意味、彼の長所ではあるが、こういう時はせめて、欠伸くらいは、我慢してほしい…。
「鷲掴みねぇ…。それはこの人には無理だと思う。」
「あぁ?じゃぁ証拠出してみろや!」
「良いけど、文句言わないでね?」
「上等だ。」
了承を貰ったところで、男性にどちらでも良いから、腕を出す様に指示した。
男性は訳が分からない様子で、グチグチ言いながらも、左腕を伸ばしてきた。
「じゃぁ、リュー君、軽く握ってあげて。」
「…。」
彼も黙って従い、男性の腕を握った。その直後、男性は唸る様な悲鳴を上げた。男性の腕は決して太っている訳ではないが、握られた周りの皮膚は、盛り上がり、相当な力が掛かっているのは、一目瞭然だ。
流石に耐えきれないのか、引き離そうとするが、彼の腕はびくともしない。
「リュー君そろそろ話してやって、折れちゃうから…。」
「…。」
ハッとしたのか、彼は腕を離した。男性は腕を押さえ、目には涙を浮かべている。腕は、この一瞬で、紫色に変色していた。
「解った?彼はこう見えて、握力100㎏を超す、怪物。普段は、調整できるから、トマトも食べられるし、缶コーヒーも普通に飲める。
ただ、今は怪我が最近治ったばかりだから、調整が効かなくて、昨日もスチール缶、気付かずに、握り潰していた。
だから、今の彼に鷲掴みされたら、引きちぎられるんじゃない?」
「な…。」
「そうまでは行かずとも、『キャー』だけで済むはずがないでしょ?
更には彼、とてもシャイだから、女性の身体はもちろん、知り合いの私と話すのだって、いっつもこんな感じ。
何か質問は?」
どうやら、ぐうの音も出ない様だ。
そうこうしているうちに、電車は動き出し、次の駅で止まった。カップルは慌てた様に、電車を降り、足早に去っていった。
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