探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅣ:天木涼子の捜査記録

#1

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 「糖尿病?」
 この間の事件で、日下部が治療のため、再度入院になった。
 そのついでに、メンバーの健康診断もしてしまえと、宮間の提案で、急遽決まった。
 この病院は、血液検査も即日に分かるらしく、朝から半日かけて、色々な検査をした。
 「このまま行くと、って話。A1cはギリギリ基準値内だけど、血糖値が若干高めだね…。」
 医師がパソコンで示した値は107と記入されている。
 知識として、糖尿病については、ある程度は知って居る。朝の空腹時血糖が110mg/dlを超えると、糖尿病と診断されるらしい…。
 もちろん、検査の為、朝食は抜いて来たし、昨夜21時以降は、何も食していない。当然、飲み物も水で我慢していたのだが…。
 「まぁ、それ以外、悪い所も特にないし、食事とか、飲み物、気を付けた方が良いね。
 確か、君の所の社長さん、元料理人って聞いたから、相談してみても良いかもね。」
 印刷された血液検査の結果表を受け取り、診察室を出た。
 待合室では、日下部が、病衣のままウトウトとしていた。
 彼も同じ検査結果の用紙を、脇に置いていた。
 こっそりと、覗くと血糖値は72 mg/dlと明記されていている。
 「終わった?」
 急に話かけられて、驚いたが、声は何とか押し殺せた…。
 「あ、うん。リューはどうだった?」
 「相変わらず、低血圧症。」
 「そ、そう…。」
 「アマキさんは?」
 「え?あ、あぁ…大丈夫だった。」
 「そうか、それは良かった。じゃぁ、俺はもう病室に戻る。」
 そう言って、ガードルスタンド(点滴を吊るす棒)を押して、廊下をのそのそと歩いて行った。

 事務所に来て、宮間にこっそりと相談しようと、目論んでいたが、リンの姉さんが居た…。まぁ、仕方ないと諦め、中に入った。
 二人とも挨拶してくれたが、改めて…。言いにくい…。
 「そう言えば、今日は健康診断でしたね?結果どうでした?」
 姉さん、察しが良いようで…。
 「えっと…。ま、まぁまぁかな…。」
 「ほっ!」
 その妙な掛け声とともに、手に持っていた結果表をひったくられた。
 慌てて振り向くと、柏木が用紙を舐める様に見ていた。
 腕はもう治ったみたいで、包帯も取れている…って、そうじゃなくて…。
 「か、返して!」
 手を伸ばすが、身長差に改めて怒りが湧く…。しかも、よりにもよって、柏木と言う、医療にも通ずる知識を、豊富に持ち合わせている、彼女に取られるとは…。
 「血糖値高めだね。」
 「うぅ…。だから見られたくなかったのに…。」
 「普段から、甘い物ばっかり食べてるからでしょ?」
 「そう言う、班長はどうだったんですか?昨日でしたよね?」

 姉さん、ナイスだ…。普段からコーラやフルーツゼリー食べているのだから、きっと同類に違いない…。
 「あたしは、体重が200g増えたけど、健康的だったよ。身長も2センチ伸びてたし。」
 まだ大きくなるのか?そして、姉さん、2センチ伸びたくらいで、感動しないでくれ…。
  いや、そうじゃなくて…。
 「血糖値は?」
 「確か、81くらいだったはず。」
 「コーラとか、ゼリー食べてるのに?」
 「最近はケガしてて動けなかったから、0カロリーばっかだったし、前は朝、普通にランニングとかしてたからね。
 ゼリーは1日に取る分の果物補ってるだけ。生でも良いんだけど、やっぱり食べやすい方が、良いからね。」
 やられた…。まさか、年下の同性に、ここまで差をつけられるとは…。私は太らない体質だと思っていたが、自然のルールには敵わないと言う事か…。
 「まぁ、このままだったら、ザッキーさんも相手してくれなくなるかもね…。」
 力なくソファに座り込んだ私に、更に追い打ちをかける。しかも、私にしか聞こえない、声のトーンで…。
 脳内で、『不健康なのはちょっと』と呟く彼の姿が思い浮かんだ…。
 
 待てよ…。彼に罵られるるのも…いや止そう…。
 「ニヤついてる所、申し訳ないけど、割と真面目にどうにかしないとですよ、アマキさん。」
 「では、そんなアマキちゃんにぴったりの案件が来てますが、どうします?」
 宮間が、1枚の写真をひらひらと、はためかせた。
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