探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅢ:行方不明調査

#18

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 「彼は相沢君。アマキ班の通信参謀役。普段は、ミカちゃんとかリューさんに出番奪われがちだけど、“解析”に関しては、負けず劣らずよ。」
 そう言って、部屋のドアの前で相沢不在のまま、紹介された。朝とは言え、夏が近づくこの時期。もう既に蝉たちが鳴き始めている。
 待つ様に言われてから、五分も経っていないが、流石に汗が噴き出てくる…。
 「大丈夫だとは思うけど、少し気を付けてね…。ソウ君、警察嫌いだし、癖もラストホームズと遜色ないくらいだから…。」
 警察嫌い…。大きく分けて二通りある。一つは、過去に警察の対応や、職務質問等で不快な思いをした人がいたり、そういう話を聞くことで、不信感を得る人。
 もう一つは、法律や堅苦しいイメージが強く残り、話や意見が通らないと最初から決めつけてしまう、よく学生の人に多い。
 彼はどちらかは、分からないが、学生ではない事は確かだ。
 「それって、私嫌われたりしませんよね?」
 「多分大丈夫。警察嫌いと言うか、『警察』って言う『組織』が嫌い。あの人、元科警研に居たから。」

 科学警察研究所。科捜研の方が聞き覚えがあるかもしれないが、位的には、科警研の方が、上だ。
 現場から採取された、遺留品から真相を解明する。それは、どちらも同じことだが、科捜研では扱えない様な分析は、全て科警研に回される。
 更には、裁判所や検察長から依頼を受けたものの鑑定もやっている、国立の研究所。
 そのため、研究者にとっても高嶺の花。競争倍率も高く、毎年採用試験をやっている訳ではない為、入ること自体、一般人は不可能だ。
 そこに居たと、京子はサラッと言ったが、頭脳や技術力は、柏木や天木と変わらないんじゃないだろうか…。
 「そんなすごい人が…どうしてこんな民間企業に?」
 「『こんな』は余計…。多分クドーさんも知ってるんじゃない?四年前の、警察庁の裏金騒動。
 ここじゃ、詳しい事は言えないけど、彼はそれに関わっていた。」
 工藤刑事が、警察になって日は浅いが、その案件は知って居る。
 連日、テレビや雑誌なんかで、大騒ぎになっていた。結局、そんな事実はなかったとして、次第に収まった。
 「お待たせ。」
 ドアが開き、彼が出てきた。着替えただけでなく、ボサボサだった髪が整っていた。コンタクトを入れたのか、眼鏡も外していた。

 アパートの駐車場まで降り、とあるスポーツカーの前に来た。しかし、このスポーツカー見たことがあった…。
 「あの、この車って…もしかして、久本さんの…。」
 「はい、借りパク中です。」
 「返してやりなよ…。そして、警察相手によく堂々と言えるね…。」
 「昨日返す予定だったのに、入院しちゃうから…。
 それと、この車二人乗りなんだ。アミ、分かるよな?」
 最後の一言は、何かの漫画かアニメで聞いたことがあるが、放っておく…。
 中を見ると確かに、シートが運転席含めて、二つしかない…。
 「だったら、その隣のあんたの車、早く開けなよ!」
 警察嫌いと言うから、敵対心むき出しなのかと思ったが、当てが外れた…。
 研究者とは、変人しかいないとよく聞くが、彼がもしかしたら、その代表なのかもしれない…。
 
 相沢がぶつくさ言いながら、隣の白いセダンのドアロックを外し、乗り込んだ。
 「まったく…。今どんな状況か分かってるの?」
 「解らねぇよ…。だから今から分析しときに行くんだろ?」
 その言葉に、京子も思わず黙り込んだ。
 「天木涼子の失踪。
 日下部竜司の強行調査。
 土屋慎介との音信不通。
 そして、柏木楓がアマキ班とクサカベ班の副班長二人引き連れて、調査開始。
 全てが、異例尽くしだ。
 こんな状況を、理解しろなんて、無理な話だ。」
 車を走らせながら、そう答えた。状況は把握している。だが、それが解らない。如何にも、研究者らしい答え方だ。
 今まで、小言を並べていた京子も、ぐうの音も出ない様だった。
 「相沢さん、これからどこに行くんですか?」
 「研究室。目には目を、歯には歯を、ラストホームズには、ラストホームズを。」
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