探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅢ:行方不明調査

#16

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 事件発生から、もう数時間で、二四時間が経つ。
日下部は、車を特に動かすでもなく、エンジンも掛けずにいた。
 車内では、最近は動かしていなかった、システムを起動させた。
 起動完了までは多少時間はかかるが、今はこいつが必要だった。
 「悪いな。通信まで切らせてしまって。」
 「仕方ないですよ、リューさんのシステムが乗っ取られている以上、俺のこの通信機器が一番危ないですからね…。」
 「それはアミさんが管轄しているから、大丈夫だと思うが、分からんな…。」
 そうこうしている間に、六枚の薄型モニターが煌々と光りだした。
 画面には、ドラゴンを模った、ロゴマークの様な物が映し出された。
 『お久しぶりです。ミスターD。』
 車のスピーカーを介して、女性の声が響いた。しかし、その声は、人間の物ではなかった。ロボ声に近い、感情が感じられない。そんな声だった。
 「久しぶり、アキラ。」
 そう呟くと、彼の声を認証したのか、画面の表示が変わり、黒い背景に、緑色の文字が次々と現れ始めた。
 『本人認証に成功しました。指示を下さい。』
 「大量の通信記録から、俺たちのシステムに入り込んだやつを、炙り出してくれ。」
 『仰せの通りに。』
 そう言うと、パソコンファンの回転数が上がり始めた。
 それと同時に、運転席に座る亮太に鍵を放り投げた。
 「どこ行きます?」
 エンジンを掛けながら、そう訊ねてきた。
 「ツチヤさんに合流しましょう。あの人なら、何か掴んでいるかも。」
 「了解。」
 重い車体がゆっくりと動き出した。

 あの小屋から、直線距離で、三十メートルほど離れた所に、昨日天木たちが調べた崖の一つがあった。
 高低差も、それなりにあり、道なり距離だと、二倍近くありそうだった。
 崖を覗き込むが、川が流れているだけで、特に変わった所は無さそうだ…。
 周りも見渡すが、草木が生い茂っているだけで、何もない。
 「はずれですかね?」
 少し息が切れている、浩史がそう呟いた。
 「そうとは限らないな。これ、見てみろ。」
 近くにあった折れた木の枝を示した。今通ってきたところでも、調査の時に使った道でもない。まったく、別の道だった。
 折れている根本は、人の肩ほどの高さはある辺りだ。
 しかも、まだ真新しい。最近誰かがここを通ったとみるのが、普通だろう…。
 もう一度崖の真下を覗き込む。川は緩やかなカーブになっており、崖下の方は、医師や土が溜まり、小さくだが、川瀬になっている。
 「下までは見えんか…。」
 上空を飛ぶ、一羽のカラスに意識を集中させる。すると、その一羽が、崖の下に、ほぼ直角に落ちて行く。川面に当たる直前に羽ばたき直し、土屋の近くの木に戻ってきた。
 「俺はこの下に降りる。コージ、お前は昔の伝手から、黒沢金融に関して調べてくれ。」
 「降りるって…。相当危険ですよ…。」
 「ここに来た以上、危険なのは当たり前だ。行け。」
 「了解。」

 「なるほど…。じゃぁ、クドーさんの言う事が正しければ、私が話した人は一体…。」
 久本が、顎に手を置き、考え込む。スマホに録音された声を声紋分析に掛ければ、違いが分かるはずだ。だが、時間が掛かってしまう…。それに、それが分かった所で、被疑者に繋がる様な手がかりになるとは、限らない。
 「一応、声紋分析に掛けてみますので、データの提出にご協力お願いします。」
 「それでは遅いです。」
 久本からスマホを受け取ろうとしたとき、背後から岡本の声がした。
 フラフラながら、ベッドから身体を起こしていた。
 どうやら、今までの会話を聞いていた様だった。
 「それに、コードブックに直接ちょっかい掛けられていれば、声紋分析でも、意味がないですよ。」
 聞いたことがある。携帯やスマホで電話するとき、聞こえてくる声は、本人の物ではない。複数のサンプルの声を掛け合わせて、限りなく、本人の声に近づけた、合成音声だと。
 そのサンプルが各端末にデータとして、格納されている。そのデータを利用したのであれば、声真似などと、甘い話しではなくなる…。
 「俺なら、解析掛けられますよ。」
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