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ファイルⅢ:行方不明調査
#15
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工藤刑事が病院に着いた時、タイミングよく、久本の意識が戻った。
だがまず、日下部の病室に向かった。報告通り、もぬけの殻だった。繋がれていた筈の点滴用のチューブや心拍数を計るセンサー等、無造作に放り出されている。
「すみません…。少し、目を離した時にもう…。」
看護師さん数名が謝罪した。集中治療室治療室とは言え、四六時中目を光らせている訳ではない。
日下部は病衣に着替えさせられていた。更に、頭には包帯を巻いている。気が付かない訳がない。よって、病院を一人で抜けることは不可能だ。なら、協力者が居たことになる。
「あの身体で、動けたんですか?」
工藤刑事は主治医に訊ねたが、首を横に振った。
「ですが、今日改めて、全体のレントゲンを撮ったにですが、過去に、何度も骨折した後がありました。
しかも、脚や腕だけでなく、肋骨や顎まで…。
更には、手術後も多く、見ているだけで痛々しかったですよ…。
彼の過去に何があったかは、分からないですが、下手すると、痛みに慣れているのかもしれません…。」
痛みに慣れる…。そんな事が実際あって良いのかは、分からない。
だが、工藤刑事には、心当たりがあった。ひったくり事件の時、太田に何度も殴られていたが、意に介していなかった。
医者が無理かもしれないと言った、約十二時間後には目を覚まし、病院を抜けだした。
普通なら不可能だが、彼なら…。そう思えてしまうのが、工藤刑事には恐ろしかった。
あの時、柏木が念を押した時もそんな感情だったのだろうか…。
「クドーさん、私、看護師さん達からもっと話聞いてくるから、キューちゃんの所行って下さい。」
「じゃぁ、お願いします。」
「協力したいのは山々ですが、気を失う直前の記憶が曖昧で…。」
ベッドを起こし、そう答えた。
「断片的な記憶でも良いので、何か分かる事があれば、お願いします。」
「そう言われましても…。ただ、背中に強い衝撃を受けたのは覚えています。あの感覚だと、スタンガンでしょうね…。」
そこは、昨日の診察で分かっていた事だった。もっと決定的な情報が欲しかった。
「とにかく、あの時は、ミヤマさんに連絡貰って、たまたま一緒にジムに居た、タケと二人で向かったんですけど、現場には誰も居なかったんですよ。結局デマかと思って、帰ろうとしたんですよ。」
「誰も?それって、日下部さんもですか?」
「はい、幾らリューさんでも、ヤーさん相手は流石にきついですからね…。片付けたにしても、警察も来ていませんでしたから。」
「ま、待って下さい!それって、一丁目の方の話ですよね?緑流会の事務所がある辺り…。」
「ん?違いますよ。俺らが向かったのは、二丁目の商店街の方ですよ?」
どう言う事だ?彼等が倒れていた所は、一丁目の緑流会の事務所がある、丁度目の前。先程、工藤刑事が居た場所だ。
あの男たちも、その様な事を…。
いや、言っていない…。あの人たちは、『リューさんが来てくれて』と言っていた。つまり、現場に来たのは、日下部さん一人…。
そして、昨日の夜、彼等三人が運ばれた時、それを誰も不思議に思わなかった…。
更にもう一つ、引っ掛かる事があった。
「その連絡貰ったのって、本当に宮間さんでした?」
「確かに、ミヤマさんの声でしたよ。電話番号も間違いありません。」
そう言って、掛けてあった上着から、スマホを取り出し、着信履歴を見せた。確かに、宮間からの着信が二件入っていた。
「一件目はマナーモードにしていて、気が付きませんでした。立て続けに二回も掛かってきたので、急ぎかと思って、出たんです。」
これで確信した。二件目は、宮間本人ではない。
「久本さん、その電話内容、録音しています?」
「一応、メンバーから掛かってきたものは、全部録音しています。
でも、どうしてですか?」
「私、その時、ホームズのお店に居ました。宮間さんが、岡本さんと久本さんに、電話を掛けているの、見ているんですよ。
お二人には繋がらず、仕方なく、亮太さんに電話していました。
だから、立て続けに二回は掛けていないんですよ。」
だがまず、日下部の病室に向かった。報告通り、もぬけの殻だった。繋がれていた筈の点滴用のチューブや心拍数を計るセンサー等、無造作に放り出されている。
「すみません…。少し、目を離した時にもう…。」
看護師さん数名が謝罪した。集中治療室治療室とは言え、四六時中目を光らせている訳ではない。
日下部は病衣に着替えさせられていた。更に、頭には包帯を巻いている。気が付かない訳がない。よって、病院を一人で抜けることは不可能だ。なら、協力者が居たことになる。
「あの身体で、動けたんですか?」
工藤刑事は主治医に訊ねたが、首を横に振った。
「ですが、今日改めて、全体のレントゲンを撮ったにですが、過去に、何度も骨折した後がありました。
しかも、脚や腕だけでなく、肋骨や顎まで…。
更には、手術後も多く、見ているだけで痛々しかったですよ…。
彼の過去に何があったかは、分からないですが、下手すると、痛みに慣れているのかもしれません…。」
痛みに慣れる…。そんな事が実際あって良いのかは、分からない。
だが、工藤刑事には、心当たりがあった。ひったくり事件の時、太田に何度も殴られていたが、意に介していなかった。
医者が無理かもしれないと言った、約十二時間後には目を覚まし、病院を抜けだした。
普通なら不可能だが、彼なら…。そう思えてしまうのが、工藤刑事には恐ろしかった。
あの時、柏木が念を押した時もそんな感情だったのだろうか…。
「クドーさん、私、看護師さん達からもっと話聞いてくるから、キューちゃんの所行って下さい。」
「じゃぁ、お願いします。」
「協力したいのは山々ですが、気を失う直前の記憶が曖昧で…。」
ベッドを起こし、そう答えた。
「断片的な記憶でも良いので、何か分かる事があれば、お願いします。」
「そう言われましても…。ただ、背中に強い衝撃を受けたのは覚えています。あの感覚だと、スタンガンでしょうね…。」
そこは、昨日の診察で分かっていた事だった。もっと決定的な情報が欲しかった。
「とにかく、あの時は、ミヤマさんに連絡貰って、たまたま一緒にジムに居た、タケと二人で向かったんですけど、現場には誰も居なかったんですよ。結局デマかと思って、帰ろうとしたんですよ。」
「誰も?それって、日下部さんもですか?」
「はい、幾らリューさんでも、ヤーさん相手は流石にきついですからね…。片付けたにしても、警察も来ていませんでしたから。」
「ま、待って下さい!それって、一丁目の方の話ですよね?緑流会の事務所がある辺り…。」
「ん?違いますよ。俺らが向かったのは、二丁目の商店街の方ですよ?」
どう言う事だ?彼等が倒れていた所は、一丁目の緑流会の事務所がある、丁度目の前。先程、工藤刑事が居た場所だ。
あの男たちも、その様な事を…。
いや、言っていない…。あの人たちは、『リューさんが来てくれて』と言っていた。つまり、現場に来たのは、日下部さん一人…。
そして、昨日の夜、彼等三人が運ばれた時、それを誰も不思議に思わなかった…。
更にもう一つ、引っ掛かる事があった。
「その連絡貰ったのって、本当に宮間さんでした?」
「確かに、ミヤマさんの声でしたよ。電話番号も間違いありません。」
そう言って、掛けてあった上着から、スマホを取り出し、着信履歴を見せた。確かに、宮間からの着信が二件入っていた。
「一件目はマナーモードにしていて、気が付きませんでした。立て続けに二回も掛かってきたので、急ぎかと思って、出たんです。」
これで確信した。二件目は、宮間本人ではない。
「久本さん、その電話内容、録音しています?」
「一応、メンバーから掛かってきたものは、全部録音しています。
でも、どうしてですか?」
「私、その時、ホームズのお店に居ました。宮間さんが、岡本さんと久本さんに、電話を掛けているの、見ているんですよ。
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