探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅢ:行方不明調査

#12

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 エントランスまで下りると、筋骨隆々のガタイが良い男性と京子さんが待っていた。
 「お久しぶりです。カエデさん、リンさん。」
 男性の方が先に、声を掛けてきた。体格とは裏腹に、言葉遣いは丁寧だった。
 「ごめんね、こんな昼間から呼び出しちゃって。彼は、クサカベ班副班長のアッキー。」
 「秋山です。よろしくどうぞ。」
 自己紹介も終わり、全員車に乗り込んだ。

 「どうも曖昧だな…。」
 崖を見下ろしながら、呟いた。昨日、天木が調べていた場所だ。
 崖と言っても、山ほどある。報告者は、場所も名前も言わなかった。それが、事実かどうかの調査…。いかにも、天木が好きそうな、案件だ。
 「ですよね…。いくら天木さんでも、今回は一杯食わされましたね…。」
 「いや、そこじゃない。アマキの調査が。」
 「え?」
 「アマキが地理的プロファイリングして、場所を絞ったんだろ?
 じゃぁ、どうして、あいつが動かなかった。」
 天木がシミュレーションするときは、必ず、現場に出向く。特に、初めて来た場所ならば、特に。もっとも、地図上では分からない、細かな地形がある、こんな山中なら尚更。
 と言う事は、天木はこの場所に一度来ている。しかも、この山を知り尽くしている…。
 だが、俺はそれを知らない…。
 「まぁ、アマキさんも本気にしてなかったんじゃないですかね?」
 「それはが一番ありえねぇ。あのワガママ娘が、リューの専売特許を差し置いて、自分で引き受けた案件だ。手を抜くなんぞ、あり得ない…。」
 その時、近くの電線にカラスが一羽止まった。
 「コージ、走れるか?」
 「そのつもりで、今日はちゃんと、ランニングシューズ履いてきました。」
 「この山、徹底的に調べるぞ。」

 結局誰も居なくなった事務所内は、静まり返っていた。だが、静かにコーヒーを啜る男が一人。彼がここに来なくなってから、早いもので、もう二年が経った。
 「少し、痩せたみたいだけど、元気でした?」
 「相変わらずですよ。」
 だが、本来の彼なら、私に敬語は使わない。姿形はそうでも、私の知る彼ではない。
 「やっぱり、戻ってはいませんか…。君。」
 無言で彼は頷いた。懐かしさと言うのは、とてもいい感情であり、落ち着きが出て来る。
 彼が今、ここに来た理由も、もしかしたら、そうなのかもしれない。
 「そういえば、アマキちゃんに会ったらしいですね。どうでした?結構、可愛かったでしょ。」
 その質問に、小さく微笑み、一言だけ、短く答えた。
 「緊張した…。」

 足は動いたが、まだ走れない。車のアクセルも踏めないため、運転は、彼に任せていた。
 「班長に、アマキさんを追えと言われました。俺が知って居る中で、あんたが一番可能性あると思いました。どこに向かいます?」
 亮太の質問には、はっきりとは答えられない。だが、調べたいことが一つあった。そのために、俺の車が欲しかった。
 「ホームズ専用の地下駐車場。」
 「了解。」
 そう言い、イヤホンマイクから、柏木楓のスマホに電話を掛けた。
 「リューさん回収しました。こちらも、捜査開始します。」
 『了解。』
 それだけ聞き、イヤホンマイクを外そうとした。
 『気を付けてね…。』
 普段の彼女からは、まず聞くことができないであろう、とても弱弱しい声だった。いつも、こちらが気に掛けていたが、いつの間にか、逆になってしまった。
 「任せな。」

 「アマキさん、聞こえます?」
 仮ではあるが、捜査拠点となっている、柏木宅の一室で、美歌が天木に連絡を入れる。
 『うん、ばっちり。』
 繁華街にでも居るのか、周りからが何やら、賑やかだ。
 「こっちも、ばっちりです。では、報告を開始します。」
 『お願い。』
 「土屋慎介。コージ君を連れて、昨日の案件の再調査を開始。
 日下部竜司。リョータ君に接触後、情報の解析を開始。
 柏木楓。負傷中の為、“特殊”調査の指揮を開始。
 天木涼子。私とクマちゃんで“特殊”捜査を開始。
 。“特殊”捜査班の指揮を開始。
 こんなところですかね?何か質問はありますか?ラストホームズの皆さん。」
 「「「「「ない。」」」」」

 「久しぶりだな、シノ。元気だったか?」
 「まぁね。それより、カッシーは腕大丈夫なのかい?」
 「お陰様で。それより、直接会いに行くなんて、流石に大胆だね。アマキちゃん。」
 「しかも、俺が気を失っている時に…。」
 「だって、我慢できなかったんだもん…。」
 「おしゃべりはここまで。各々、課題をばら撒いたと思う。それを調べてくれ、そして、情報を攪乱させてくれ。」

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