探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅢ:行方不明調査

#11

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 エンパス。共感力が高くい人をそう呼ぶ。共感力とは、他人の気持ちや感情、時には体調までが、まるで、自分の事のように感じられてしまう。言い換えれば、感情移入しやすいと言えば、分かりやすいだろうか。
 小説やドラマの登場人物に自分を重ね合わせ、それで感極まって、涙することは、そう珍しくないだろう。
 しかし、エンパスの人たちは、それが日常的に起こる。他人と話しているとき。残酷なニュースを見ているとき。また、感情だけでなく、体調なども共感されてしまうため、病院なども苦手。さらに酷いと、霊的な力にも影響を受けることもあるらしい。

 「あたしも、ネットに載ってる様な事しか言えないけど、そんな感じかな。」
 柏木さんがスマホを見ながら説明してくれた。
 「よくテレビとかで、『動物と話せる人』とか、『霊視』とか出て来るけど、それなんじゃないかとか言われてますね。」
 リンさんも作業の手を止めて、追加の説明をする。
 「だけど、ツッチーはそのエンパスの中でも極上。他人は勿論、他の動物の感情や気持ち、体調もデフォルトで伝わってくる。その範囲も尋常じゃない。渋谷のスクランブル交差点に立てば、見えてる人、聞こえる声の全てが感じるらしい。
 それに、一度リンクさせてしまえば、暫くの間、離れていても、伝わるらしい。」
 工藤刑事も話は聞いたことはあった。だが、実際、そんな人が居るのか。しかし、そんな人が実際居たら、警察の捜査は幾らか楽になるだろう。そんな邪なことを考えた。
 「クドーさんの事も当然色々、伝わってるはず。好きな人とかも。」
 「え?」
 その言葉反応したのは、工藤刑事ではなく、美歌さんだった。
 「クドーさん、好きな人居るんですか?」
 「い、居ませんよ!」
 「ホントですか~?」
 すごく楽しそうな、表情で工藤刑事を見つめる。天木さんの純粋で無邪気な、表情とは違い、彼女の顔は、何かを期待して居そうな顔だ…。
 「そ、そんなことより、何かわかったんですか?」
 「話を逸らすなんて、アヤシイですね…。」
 そう言いつつ、自分の席に戻った。何だったのだろうか…。
 「あの子、恋バナが大好きだから、気を付けた方が良いよ。」
 「班長が振ったんでしょう。」
 リンさんの突っ込みに、柏木さんがクスクス笑う。
 その時、チャイムが鳴った。
 『お待ちどうさま。』
 インターフォンからは、男性の声が聞こえた。工藤刑事の聞いたことがない声だった。
 それに今、この声の主は、柏木さんに対して、『班長』と呼んだ。
 「よし、じゃぁクドーさん、支度して、行くよ。」
 持っていた資料を、クリアファイルに纏め始めた。
 「行くって、どこへ?それに、今の人は?天木さん捕まるまで、待ったほうが…。」
 「そのアマキちゃんが、捕まっていたらどうする?」
 声のトーンが変わった。工藤刑事もそこまでは想定していなかった。
 「今回、不自然だと思わない?リュー君が任務中にやられた。それに対して、あたしたちは、捜査を開始する。そこまでは、普通だと思う。
 でも、今回はアマキちゃんも任務中に起きた事件。それに、当然アマキちゃんが主体で捜査を開始する。
 どうも、出来すぎてる気がしてね。」
 一気に空気が重くなった。確かにそうだ。二人が言い争っていた辺りで、都合よく、日下部さんが居なくてはならない、仕事が入った。二人を引き離した様にも感じられる。
そうだとすると、何の目的で…。
 「でも残念…。あたしたちの事、相当勉強して、今回の計画練ったみたいだけど、チェックメイトには程遠い…。
 日下部竜司をそう簡単には倒せない。
 天木涼子は考えなしでは動かない。
 土屋慎介を理解できていない。」
 柏木さんが、ジーンズの上着を羽織り、ドスのかかった声で発した。
 「誰かは知らないけど、ラストホームズを無礼なめ過ぎた。」
 工藤刑事は、この時初めて、『柏木楓』という人物に、恐怖を感じた。彼女の怒りが、嫌と言うほど伝わる。
 「クドーさんにはもう一つ、教えてあげる。“特殊”調査班の真骨頂を…。」
 
 「もう良いですよ。」
 三人が出て行ったのを確認し、ミカちゃんに合図を貰った。流石にこの時期、日中の布団の中は熱い…。
 「危うく茹蛸になる所だった…。」
 「まさか、クドーさんが来るとは思いませんでした…。」
 「うん…。じゃぁ、危険だけど、お願いしていい?」
 彼女は二つ返事で了承した。
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