探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅢ:行方不明調査

#10

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 暗闇の中、彼は見張り台の上に腰を下ろしていた。咥えている煙草の煙が、横に靡いている。煙草の煙は風速を測る為には丁度いい。
 耳を澄ますと、誰かが梯子を上って来る。咄嗟に腰にあるハンドガンを取り出す。
 「待って、私!」
 アキラの声に、胸を撫で下ろし、銃を仕舞った。彼の隣に座り、先程の事を謝った。彼は無言のままだった。色々話してみたが、彼は頷いたり、相槌は打つものの、向こうから話出すことはなかった。
 「どうして、話さないの?」
 とうとう、訊ねてしまった。それでもやはり、無言だった。
 「あなたは死なないでね…。私、あなたの事、燃やしたくないから…。」
 彼は小さく頷いた。
 
 その言葉を思い出し、指先の感覚が戻った。次第に意識もはっきりし始めた。幸い、刺されてはいない。頭はクラクラするが、脚は動く。痛み止めか麻酔が効いているのか、腹の感覚はない。それでも、脚が動けば問題ない。立ち上がり、病室を出た。
 「あんたすげぇな。」
 病室の前にある長椅子に横になっていた、青年が声を発した。
 「そんな身体で…。それを言い当てた、あの人もすげぇわ。」
 そう言いながら起き上がり、彼にジャケットを放った。

 柏木さんの自宅では、リンさんも揃い、本格的に調査が始まった。
 美歌さんは日下部さんのスマホやウォッチの解析を。リンさんは三人の傷の位置や怪我の仕方などから、犯人像を絞りこんでいる。柏木さんは、日下部さんと天木さんの過去の捜査資料を一から調べ直している。工藤刑事は天木さんに連絡が取れるか試みている。
 「あの…。」
 殺伐とした空間で最初に声を発したのは、リンさんが連れてきた、浩史さんだった。
 「ん?」
 「凄く、居づらいんですけど…。」
 「そうよね…。クドーさん除いて、一人だけアマキ班だからね…。でも、その内、アミちゃんも来るから。」
 柏木さんが美歌さんから貰った、資料を眺めつつ答えた。柏木さん、多分間違っていないけど、そういう意味じゃない…。そう思ったのは、工藤刑事だけでない…。
 「で?俺は何を協力すれば良いんですか?」
 少々呆れ気味に訊ねた。
 「ちょっと待ってて、もうちょっとで上がって来るから。その間、ツッチーみたいに寛いでて。」
 と、リビングの椅子を三つも使い、寝床代わりにしている、スーツ男を指で指した。イビキこそ掻いてはいないが、アイマスクをして、耳栓までしている。美歌さんが何回か揺すっていたが、起きる気配がない…。
 「ラストホームズって、どうしてこんなに癖強い人たちばっかなんすか…。」
 その言葉には、工藤刑事も思わず頷いた。

 しばらくの間、資料を捲る音や、キーボードを叩く音が響いていた。
 浩史さんも、何か吹っ切れたのか、椅子の上で、ウトウトしていた。
 すると、何も脈絡もなく、急に土屋さんが起きた。椅子から立ち上がり、リンさんに水を一杯注文していた。
 その時だった。柏木さんのスマホに着信が入った。
 それを受け取り、『了解』とだけ返事して切った。
 「ツチヤさん、よく眠れました?」
 柏木さんが椅子を片付けながら訊ねた。
 「ばっちり。」
 そう言った後、浩史さんを起こし、部屋を出て行った。
 「何?」
 「二人には、昨日のアマキちゃん達が調べてた案件を洗い直して貰ってる。」
 「今起きたばっかりで、大丈夫なんですか?」
 「今起きたばかりだからこそ、ツッチーの力が最大限使える。」
 そう言えば、以前、頭が回らないくらいが丁度良いと言っていた。その言葉の意味が工藤刑事には理解できていなかった。
 それに、天木さん、日下部さん、柏木さんの三人の力は明白だが、土屋さんだけは、よく解らない。それなりに癖の強い、ラストホームズの三名とその配下の人たちをまとめ上げる。ただそれだけしか知らない。
 「土屋さんって、どんな人なんですか?」
 工藤刑事の質問に、一同が彼女の顔を見た。何かまずかったのか…。
 「き、聞いちゃダメでした?」
 すると、柏木さんがゆっくりと口を開いた。
 「ツッチーは、あたしたちとは違って、別次元の力があるの。」
 「別次元?」
 「エンパスって知ってる?」

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