53 / 281
ファイルⅢ:行方不明調査
#10
しおりを挟む
暗闇の中、彼は見張り台の上に腰を下ろしていた。咥えている煙草の煙が、横に靡いている。煙草の煙は風速を測る為には丁度いい。
耳を澄ますと、誰かが梯子を上って来る。咄嗟に腰にあるハンドガンを取り出す。
「待って、私!」
アキラの声に、胸を撫で下ろし、銃を仕舞った。彼の隣に座り、先程の事を謝った。彼は無言のままだった。色々話してみたが、彼は頷いたり、相槌は打つものの、向こうから話出すことはなかった。
「どうして、話さないの?」
とうとう、訊ねてしまった。それでもやはり、無言だった。
「あなたは死なないでね…。私、あなたの事、燃やしたくないから…。」
彼は小さく頷いた。
その言葉を思い出し、指先の感覚が戻った。次第に意識もはっきりし始めた。幸い、刺されてはいない。頭はクラクラするが、脚は動く。痛み止めか麻酔が効いているのか、腹の感覚はない。それでも、脚が動けば問題ない。立ち上がり、病室を出た。
「あんたすげぇな。」
病室の前にある長椅子に横になっていた、青年が声を発した。
「そんな身体で…。それを言い当てた、あの人もすげぇわ。」
そう言いながら起き上がり、彼にジャケットを放った。
柏木さんの自宅では、リンさんも揃い、本格的に調査が始まった。
美歌さんは日下部さんのスマホやウォッチの解析を。リンさんは三人の傷の位置や怪我の仕方などから、犯人像を絞りこんでいる。柏木さんは、日下部さんと天木さんの過去の捜査資料を一から調べ直している。工藤刑事は天木さんに連絡が取れるか試みている。
「あの…。」
殺伐とした空間で最初に声を発したのは、リンさんが連れてきた、浩史さんだった。
「ん?」
「凄く、居づらいんですけど…。」
「そうよね…。クドーさん除いて、一人だけアマキ班だからね…。でも、その内、アミちゃんも来るから。」
柏木さんが美歌さんから貰った、資料を眺めつつ答えた。柏木さん、多分間違っていないけど、そういう意味じゃない…。そう思ったのは、工藤刑事だけでない…。
「で?俺は何を協力すれば良いんですか?」
少々呆れ気味に訊ねた。
「ちょっと待ってて、もうちょっとで上がって来るから。その間、ツッチーみたいに寛いでて。」
と、リビングの椅子を三つも使い、寝床代わりにしている、スーツ男を指で指した。イビキこそ掻いてはいないが、アイマスクをして、耳栓までしている。美歌さんが何回か揺すっていたが、起きる気配がない…。
「ラストホームズって、どうしてこんなに癖強い人たちばっかなんすか…。」
その言葉には、工藤刑事も思わず頷いた。
しばらくの間、資料を捲る音や、キーボードを叩く音が響いていた。
浩史さんも、何か吹っ切れたのか、椅子の上で、ウトウトしていた。
すると、何も脈絡もなく、急に土屋さんが起きた。椅子から立ち上がり、リンさんに水を一杯注文していた。
その時だった。柏木さんのスマホに着信が入った。
それを受け取り、『了解』とだけ返事して切った。
「ツチヤさん、よく眠れました?」
柏木さんが椅子を片付けながら訊ねた。
「ばっちり。」
そう言った後、浩史さんを起こし、部屋を出て行った。
「何?」
「二人には、昨日のアマキちゃん達が調べてた案件を洗い直して貰ってる。」
「今起きたばっかりで、大丈夫なんですか?」
「今起きたばかりだからこそ、ツッチーの力が最大限使える。」
そう言えば、以前、頭が回らないくらいが丁度良いと言っていた。その言葉の意味が工藤刑事には理解できていなかった。
それに、天木さん、日下部さん、柏木さんの三人の力は明白だが、土屋さんだけは、よく解らない。それなりに癖の強い、ラストホームズの三名とその配下の人たちをまとめ上げる。ただそれだけしか知らない。
「土屋さんって、どんな人なんですか?」
工藤刑事の質問に、一同が彼女の顔を見た。何かまずかったのか…。
「き、聞いちゃダメでした?」
すると、柏木さんがゆっくりと口を開いた。
「ツッチーは、あたしたちとは違って、別次元の力があるの。」
「別次元?」
「エンパスって知ってる?」
耳を澄ますと、誰かが梯子を上って来る。咄嗟に腰にあるハンドガンを取り出す。
「待って、私!」
アキラの声に、胸を撫で下ろし、銃を仕舞った。彼の隣に座り、先程の事を謝った。彼は無言のままだった。色々話してみたが、彼は頷いたり、相槌は打つものの、向こうから話出すことはなかった。
「どうして、話さないの?」
とうとう、訊ねてしまった。それでもやはり、無言だった。
「あなたは死なないでね…。私、あなたの事、燃やしたくないから…。」
彼は小さく頷いた。
その言葉を思い出し、指先の感覚が戻った。次第に意識もはっきりし始めた。幸い、刺されてはいない。頭はクラクラするが、脚は動く。痛み止めか麻酔が効いているのか、腹の感覚はない。それでも、脚が動けば問題ない。立ち上がり、病室を出た。
「あんたすげぇな。」
病室の前にある長椅子に横になっていた、青年が声を発した。
「そんな身体で…。それを言い当てた、あの人もすげぇわ。」
そう言いながら起き上がり、彼にジャケットを放った。
柏木さんの自宅では、リンさんも揃い、本格的に調査が始まった。
美歌さんは日下部さんのスマホやウォッチの解析を。リンさんは三人の傷の位置や怪我の仕方などから、犯人像を絞りこんでいる。柏木さんは、日下部さんと天木さんの過去の捜査資料を一から調べ直している。工藤刑事は天木さんに連絡が取れるか試みている。
「あの…。」
殺伐とした空間で最初に声を発したのは、リンさんが連れてきた、浩史さんだった。
「ん?」
「凄く、居づらいんですけど…。」
「そうよね…。クドーさん除いて、一人だけアマキ班だからね…。でも、その内、アミちゃんも来るから。」
柏木さんが美歌さんから貰った、資料を眺めつつ答えた。柏木さん、多分間違っていないけど、そういう意味じゃない…。そう思ったのは、工藤刑事だけでない…。
「で?俺は何を協力すれば良いんですか?」
少々呆れ気味に訊ねた。
「ちょっと待ってて、もうちょっとで上がって来るから。その間、ツッチーみたいに寛いでて。」
と、リビングの椅子を三つも使い、寝床代わりにしている、スーツ男を指で指した。イビキこそ掻いてはいないが、アイマスクをして、耳栓までしている。美歌さんが何回か揺すっていたが、起きる気配がない…。
「ラストホームズって、どうしてこんなに癖強い人たちばっかなんすか…。」
その言葉には、工藤刑事も思わず頷いた。
しばらくの間、資料を捲る音や、キーボードを叩く音が響いていた。
浩史さんも、何か吹っ切れたのか、椅子の上で、ウトウトしていた。
すると、何も脈絡もなく、急に土屋さんが起きた。椅子から立ち上がり、リンさんに水を一杯注文していた。
その時だった。柏木さんのスマホに着信が入った。
それを受け取り、『了解』とだけ返事して切った。
「ツチヤさん、よく眠れました?」
柏木さんが椅子を片付けながら訊ねた。
「ばっちり。」
そう言った後、浩史さんを起こし、部屋を出て行った。
「何?」
「二人には、昨日のアマキちゃん達が調べてた案件を洗い直して貰ってる。」
「今起きたばっかりで、大丈夫なんですか?」
「今起きたばかりだからこそ、ツッチーの力が最大限使える。」
そう言えば、以前、頭が回らないくらいが丁度良いと言っていた。その言葉の意味が工藤刑事には理解できていなかった。
それに、天木さん、日下部さん、柏木さんの三人の力は明白だが、土屋さんだけは、よく解らない。それなりに癖の強い、ラストホームズの三名とその配下の人たちをまとめ上げる。ただそれだけしか知らない。
「土屋さんって、どんな人なんですか?」
工藤刑事の質問に、一同が彼女の顔を見た。何かまずかったのか…。
「き、聞いちゃダメでした?」
すると、柏木さんがゆっくりと口を開いた。
「ツッチーは、あたしたちとは違って、別次元の力があるの。」
「別次元?」
「エンパスって知ってる?」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

レトロな事件簿
八雲 銀次郎
ミステリー
昼は『珈琲喫茶れとろ』と夜は『洋酒場レトロ』の2つの顔を持つ店で、バイトをする事になった、主人公・香織。
その店で起こる事件を、店主・古川マスターと九条さん等と、挑む。
公開予定時間:毎週火・木曜日朝9:00
本職都合のため、予定が急遽変更されたり、休載する場合もあります。
同時期連載中の『探偵注文所』と世界観を共有しています。
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる