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ファイルⅢ:行方不明調査
#5
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呆然と彼の姿を見ていた。今、助けられたのか?何で?雇われているとは言え、ここまで自由にできる人なのか?
「さっさと続けろ。」
彼は、こちらを見向きもせずに、先ほどの扉の前に腰を降ろした。
「あ、ありがとう…。」
「…。」
返事がない。また眠ったのかそれとも無視されているのか…。そんなことより、この状況をどうにかしなければ…。部屋中を、考え事をしている風を装い、歩き回った。壁はコンクリート。階段の踊り場に鉄格子付きの窓がある。だが、外は真っ暗の様だ。パソコンの時計を見るに、夜の八時前。本来なら親が心配して探していたりするのだろうが、残念なことに私にはそんな親が居ない。逃げられる算段を考えるが思いつかない。いや、正確には幾つか思いついているが、成功する確率は低すぎる。
すると、遠くの方から怒鳴り声が聞こえてきた。しかも、一人二人じゃない。暫くすると、怒鳴り声は悲鳴に変わり、どんどんこちらに近づいてくる。その声が、一番近くに来た時、階段から男が一人、転げ落ちてきた。その衝撃で、背中を痛めたらしく、起き上がれない。
「骨の無い奴らですね…。」
「まったく…。」
その階段の上から降りてきた男二人の声は聞いたことがあった。その男二人と目が遭った。
「涼子ちゃん、無事でしたか。」
「心配したんだよ。」
「あ、うん…。」
彼等は少し安心した様な声を上げた。だが、それもつかの間。扉の前に座っていた彼が、いつの間にか、私の隣に立っていた。
「退屈凌ぎ。」
そう呟くと、躊躇なく、ザッキーに殴りかかって行った。ギリギリで避けたものの、当たって居たら、ひとたまりもない…。
「危ないな、君。」
「…。」
「そうか…。じゃぁ、少し遊ぼうか。」
それから十分ほど、死闘していたのではないだろうか。宮間は加勢することなく、いち早く、私の元に来て、ケガが無いかを確認した。最終的に、彼が地面に伏せられる形で、ザッキーが勝利した。
「強いな、あんた。」
男が息も途切れ途切れに、言った。
「昔、人に教わったんだよ。」
「なるほどな…。行くなら行け、その扉は地上に続いてる。俺はもう少し、寝て行く。」
その後、事務所に無事に戻った。ザッキーは怪我こそはしていた物の、それなりに言い訳が効きそうなくらいだった。
私は、自分の手が震えていることに気が付いた。止まらない…。仕舞いには、床にへたり込んでしまった。今まで、怖いという感覚がマヒしてしまっていたのかもしれない。
私の様子に気が付いたザッキーが『大丈夫か』と声を掛けてきた。
返事を返したが、足に力が入らなかった。
「あ、あれ?立てないや…。」
今まで、弱みなど見せられなかった。見せればそこを突かれる。馬鹿にされ、罵られる。だから焦った。彼等はそんな事はしないとはわかっている。でも、身体がそうさせた。その困惑でさらに、頭が焦り始める。
ふわりと身体が何かに包まれた。整髪剤なのか香水なのか分からないが、アロマの様な香りがした。
「落ち着きな。怖かったんだろうから、ゆっくりで良い。」
ザッキーの声が耳元で響いた。優しかった。たった一言で、私の見ていた世界が、変わった。今まで、そんな優しい言葉、聞いたことがなかった。肩越しで申し訳なかったが、しゃくり上げながら泣いた。ただただ、怖かった事を知ってほしかった。彼は何も言わずに、頭をなでてくれるだけだった。それが心地よかった。
暫く泣いた後、彼に抱えられるように立たせてもらった。でも、彼の事を放すことはできなかった。この安心感を独り占めしておきたかった。
「さっさと続けろ。」
彼は、こちらを見向きもせずに、先ほどの扉の前に腰を降ろした。
「あ、ありがとう…。」
「…。」
返事がない。また眠ったのかそれとも無視されているのか…。そんなことより、この状況をどうにかしなければ…。部屋中を、考え事をしている風を装い、歩き回った。壁はコンクリート。階段の踊り場に鉄格子付きの窓がある。だが、外は真っ暗の様だ。パソコンの時計を見るに、夜の八時前。本来なら親が心配して探していたりするのだろうが、残念なことに私にはそんな親が居ない。逃げられる算段を考えるが思いつかない。いや、正確には幾つか思いついているが、成功する確率は低すぎる。
すると、遠くの方から怒鳴り声が聞こえてきた。しかも、一人二人じゃない。暫くすると、怒鳴り声は悲鳴に変わり、どんどんこちらに近づいてくる。その声が、一番近くに来た時、階段から男が一人、転げ落ちてきた。その衝撃で、背中を痛めたらしく、起き上がれない。
「骨の無い奴らですね…。」
「まったく…。」
その階段の上から降りてきた男二人の声は聞いたことがあった。その男二人と目が遭った。
「涼子ちゃん、無事でしたか。」
「心配したんだよ。」
「あ、うん…。」
彼等は少し安心した様な声を上げた。だが、それもつかの間。扉の前に座っていた彼が、いつの間にか、私の隣に立っていた。
「退屈凌ぎ。」
そう呟くと、躊躇なく、ザッキーに殴りかかって行った。ギリギリで避けたものの、当たって居たら、ひとたまりもない…。
「危ないな、君。」
「…。」
「そうか…。じゃぁ、少し遊ぼうか。」
それから十分ほど、死闘していたのではないだろうか。宮間は加勢することなく、いち早く、私の元に来て、ケガが無いかを確認した。最終的に、彼が地面に伏せられる形で、ザッキーが勝利した。
「強いな、あんた。」
男が息も途切れ途切れに、言った。
「昔、人に教わったんだよ。」
「なるほどな…。行くなら行け、その扉は地上に続いてる。俺はもう少し、寝て行く。」
その後、事務所に無事に戻った。ザッキーは怪我こそはしていた物の、それなりに言い訳が効きそうなくらいだった。
私は、自分の手が震えていることに気が付いた。止まらない…。仕舞いには、床にへたり込んでしまった。今まで、怖いという感覚がマヒしてしまっていたのかもしれない。
私の様子に気が付いたザッキーが『大丈夫か』と声を掛けてきた。
返事を返したが、足に力が入らなかった。
「あ、あれ?立てないや…。」
今まで、弱みなど見せられなかった。見せればそこを突かれる。馬鹿にされ、罵られる。だから焦った。彼等はそんな事はしないとはわかっている。でも、身体がそうさせた。その困惑でさらに、頭が焦り始める。
ふわりと身体が何かに包まれた。整髪剤なのか香水なのか分からないが、アロマの様な香りがした。
「落ち着きな。怖かったんだろうから、ゆっくりで良い。」
ザッキーの声が耳元で響いた。優しかった。たった一言で、私の見ていた世界が、変わった。今まで、そんな優しい言葉、聞いたことがなかった。肩越しで申し訳なかったが、しゃくり上げながら泣いた。ただただ、怖かった事を知ってほしかった。彼は何も言わずに、頭をなでてくれるだけだった。それが心地よかった。
暫く泣いた後、彼に抱えられるように立たせてもらった。でも、彼の事を放すことはできなかった。この安心感を独り占めしておきたかった。
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