探偵注文所

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
47 / 281
ファイルⅢ:行方不明調査

#4

しおりを挟む
 「随分とヘンタイチックだね…。生憎、こういう事は悔しいことに、慣れてるから…。」
 嘘だった。悲鳴を上げたいのを必死で堪えた。状況が分からない以上、目的を聞き出すのが先決だった。外からの光も、時計もない。奴らの人数はざっと見えるだけで、六人。奥に階段があり、そこにはさらに、人影らしき姿も二つ見える。
 情報が欲しかった。だが、彼等もプロだ…。そう簡単にはボロを出さなかった。
 「別に、私たちは君に危害を加えるつもりはない…。それに、私が興味あるのは、君のその頭だ。」
 「頭?」
 分からない訳がない。こういう状況でこそ、私の頭は喜んでいた。彼等が説いて欲しいというのは、とあるデータのパスワード。昨日の朝、駅近くで売っていた新聞に、金融企業の不祥事についての疑惑に対する記事が載っていた。そして、今、目の前に居るこの男の、胸についているこのバッジ、あの金融企業とはまた違う、別の金融企業の社章だ。
 そのデータの中に、多分だが、その証拠となるものが、入っているに違いない。
 「君ならこれが解けるだろう…。」
 そう言ってパソコンの画面を見せてきた。そこには思った通りの、パスワードを書き込む欄が表示されている。ただ、ヒントがない。分かるのは、文字数と英数字、記号を掛け合わせていると言う事。大文字と小文字、数字だけで、十桁の文字列だけで、約八四京通り。更に記号、二十五種類だとすると、約二千五百京通り…。ノーヒントで割り出せというのは無理がある。
 「時間は与えよう。ただその間、ここからは出さない。見張りとして、彼をここに置いておく。」
 そう言われて、出てきたのは、高身長の男だった。威圧感がすごい。だが、バッジをつけてないところを見ると、彼等が雇った。と言った所だろう。

 腕のテープをはがされ、多少は自由になったが、扉の前には彼が居た。眠っている様に、地面に腰を降ろし、首を垂らしているが、あのガタイと威圧感からは逃れられそうにない。
 仕方なく、パソコンの前に腰を降ろした。しかし、残念だ。二千五百京分の一、もう解けてしまった。ただ、答えが分からない。それを知らない限り、このパスワードは開かない。どうしたものか…。
 その時だった。階段の方から、誰かが来た。さっきのねっとりとした話し声ではない…。若い二人の男だった。若いと言っても、二十代前半と言ったところだろう。
 気持ちの悪い薄ら笑いを浮かべながらこちらに近づいてくる…。
 「やぁ。涼子ちゃん…だっけ?」
 「そうだけど…。」
 「一人じゃ大変そうだと思って、手伝いに来たんだよ。」
 嘘だ。その裏がある顔は、何度も見てきた。ただ、どの道助からないことも知って居る。
 だから、できるだけ、彼等を刺激しない様に、時間を稼ぐ。その間に、思考を巡らせる。
 「ほら、俺らが手伝ってあげるから、ちょっとだけ…。」
 こんな時に思考を巡らせるのは、やっぱり無理だ。そう言えば、辞めたとは言え、年齢的には女子高生だし、見た目もその道の人たちにとっては、格好の餌だ。せっかく彼から助けられたのに、これまた残念だ…。本来なら走馬灯の様な物が見えるのだろうが、何も浮かばない…。強いて言うなら、幼い頃、妹と一緒に遊んだ記憶のみ…。それすらも、霞んでいく…。

 伸ばされた、男の手は私に触れることはなかった。最初は何が何だか分からなかったが、男たちは、数メートルほど吹き飛んでいた。
 目の前には、さっきまで扉の前で眠っていた、あの男が仁王立ちしている。口には火をつけたばかりの煙草を銜えていた。
 「な、なにすんだ!」
 「てめぇ、雇われの癖に…。」
 吹き飛んだ二人が、犬の遠吠えの如く声を上げる。それでも、お構いなしに煙草を蒸かす。灰を落とした後、彼が口を開いた。
 「それはこっちの台詞だ。俺はこの娘が集中する様にと言い使った。お前らの今の行動はそれに反すると思った。だから、蹴り飛ばした。それだけだ。」
 「お、覚えておけよ…。日下部。」
 そんな捨て台詞、実際言う人いるのかと、感心してしまった…。
 まだ少々残っている吸殻を床に落とし、思いっきり踏み、すり潰した。
 「覚えててやるから、暇潰しくらいにはなってくれ。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

レトロな事件簿

八雲 銀次郎
ミステリー
昼は『珈琲喫茶れとろ』と夜は『洋酒場レトロ』の2つの顔を持つ店で、バイトをする事になった、主人公・香織。 その店で起こる事件を、店主・古川マスターと九条さん等と、挑む。 公開予定時間:毎週火・木曜日朝9:00 本職都合のため、予定が急遽変更されたり、休載する場合もあります。 同時期連載中の『探偵注文所』と世界観を共有しています。

ファクト ~真実~

華ノ月
ミステリー
 特別編からはお昼の12時10分に更新します。  主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。  そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。  その事件がなぜ起こったのか?  本当の「悪」は誰なのか?  そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。  こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!  よろしくお願いいたしますm(__)m

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷では不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

天使の顔して悪魔は嗤う

ねこ沢ふたよ
ミステリー
表紙の子は赤野周作君。 一つ一つで、お話は別ですので、一つずつお楽しいただけます。 【都市伝説】 「田舎町の神社の片隅に打ち捨てられた人形が夜中に動く」 そんな都市伝説を調べに行こうと幼馴染の木根元子に誘われて調べに行きます。 【雪の日の魔物】 周作と優作の兄弟で、誘拐されてしまいますが、・・・どちらかと言えば、周作君が犯人ですね。 【歌う悪魔】 聖歌隊に参加した周作君が、ちょっとした事件に巻き込まれます。 【天国からの復讐】 死んだ友達の復讐 <折り紙から、中学生。友達今井目線> 【折り紙】 いじめられっ子が、周作君に相談してしまいます。復讐してしまいます。 【修学旅行1~3・4~10】 周作が、修学旅行に参加します。バスの車内から目撃したのは・・・。 3までで、小休止、4からまた新しい事件が。 ※高一<松尾目線> 【授業参観1~9】 授業参観で見かけた保護者が殺害されます 【弁当】 松尾君のプライベートを赤野君が促されて推理するだけ。 【タイムカプセル1~7】 暗号を色々+事件。和歌、モールス、オペラ、絵画、様々な要素を取り入れた暗号 【クリスマスの暗号1~7】 赤野君がプレゼント交換用の暗号を作ります。クリスマスにちなんだ暗号です。 【神隠し】 同級生が行方不明に。 SNSや伝統的な手品のトリック ※高三<夏目目線> 【猫は暗号を運ぶ1~7】 猫の首輪の暗号から、事件解決 【猫を殺さば呪われると思え1~7】 暗号にCICADAとフリーメーソンを添えて♪ ※都市伝説→天使の顔して悪魔は嗤う、タイトル変更

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...