探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅢ:行方不明調査

#4

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 「随分とヘンタイチックだね…。生憎、こういう事は悔しいことに、慣れてるから…。」
 嘘だった。悲鳴を上げたいのを必死で堪えた。状況が分からない以上、目的を聞き出すのが先決だった。外からの光も、時計もない。奴らの人数はざっと見えるだけで、六人。奥に階段があり、そこにはさらに、人影らしき姿も二つ見える。
 情報が欲しかった。だが、彼等もプロだ…。そう簡単にはボロを出さなかった。
 「別に、私たちは君に危害を加えるつもりはない…。それに、私が興味あるのは、君のその頭だ。」
 「頭?」
 分からない訳がない。こういう状況でこそ、私の頭は喜んでいた。彼等が説いて欲しいというのは、とあるデータのパスワード。昨日の朝、駅近くで売っていた新聞に、金融企業の不祥事についての疑惑に対する記事が載っていた。そして、今、目の前に居るこの男の、胸についているこのバッジ、あの金融企業とはまた違う、別の金融企業の社章だ。
 そのデータの中に、多分だが、その証拠となるものが、入っているに違いない。
 「君ならこれが解けるだろう…。」
 そう言ってパソコンの画面を見せてきた。そこには思った通りの、パスワードを書き込む欄が表示されている。ただ、ヒントがない。分かるのは、文字数と英数字、記号を掛け合わせていると言う事。大文字と小文字、数字だけで、十桁の文字列だけで、約八四京通り。更に記号、二十五種類だとすると、約二千五百京通り…。ノーヒントで割り出せというのは無理がある。
 「時間は与えよう。ただその間、ここからは出さない。見張りとして、彼をここに置いておく。」
 そう言われて、出てきたのは、高身長の男だった。威圧感がすごい。だが、バッジをつけてないところを見ると、彼等が雇った。と言った所だろう。

 腕のテープをはがされ、多少は自由になったが、扉の前には彼が居た。眠っている様に、地面に腰を降ろし、首を垂らしているが、あのガタイと威圧感からは逃れられそうにない。
 仕方なく、パソコンの前に腰を降ろした。しかし、残念だ。二千五百京分の一、もう解けてしまった。ただ、答えが分からない。それを知らない限り、このパスワードは開かない。どうしたものか…。
 その時だった。階段の方から、誰かが来た。さっきのねっとりとした話し声ではない…。若い二人の男だった。若いと言っても、二十代前半と言ったところだろう。
 気持ちの悪い薄ら笑いを浮かべながらこちらに近づいてくる…。
 「やぁ。涼子ちゃん…だっけ?」
 「そうだけど…。」
 「一人じゃ大変そうだと思って、手伝いに来たんだよ。」
 嘘だ。その裏がある顔は、何度も見てきた。ただ、どの道助からないことも知って居る。
 だから、できるだけ、彼等を刺激しない様に、時間を稼ぐ。その間に、思考を巡らせる。
 「ほら、俺らが手伝ってあげるから、ちょっとだけ…。」
 こんな時に思考を巡らせるのは、やっぱり無理だ。そう言えば、辞めたとは言え、年齢的には女子高生だし、見た目もその道の人たちにとっては、格好の餌だ。せっかく彼から助けられたのに、これまた残念だ…。本来なら走馬灯の様な物が見えるのだろうが、何も浮かばない…。強いて言うなら、幼い頃、妹と一緒に遊んだ記憶のみ…。それすらも、霞んでいく…。

 伸ばされた、男の手は私に触れることはなかった。最初は何が何だか分からなかったが、男たちは、数メートルほど吹き飛んでいた。
 目の前には、さっきまで扉の前で眠っていた、あの男が仁王立ちしている。口には火をつけたばかりの煙草を銜えていた。
 「な、なにすんだ!」
 「てめぇ、雇われの癖に…。」
 吹き飛んだ二人が、犬の遠吠えの如く声を上げる。それでも、お構いなしに煙草を蒸かす。灰を落とした後、彼が口を開いた。
 「それはこっちの台詞だ。俺はこの娘が集中する様にと言い使った。お前らの今の行動はそれに反すると思った。だから、蹴り飛ばした。それだけだ。」
 「お、覚えておけよ…。日下部。」
 そんな捨て台詞、実際言う人いるのかと、感心してしまった…。
 まだ少々残っている吸殻を床に落とし、思いっきり踏み、すり潰した。
 「覚えててやるから、暇潰しくらいにはなってくれ。」
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