探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅢ:行方不明調査

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 日下部さんと天木さん、この二人はそんなに仲が悪いイメージはなかった。むしろ、一緒に居る事が多く、この間のひったくり事件の捜査や発砲事件の時を思い返してみても、意見が対立することはなかった。
 「なんか、揉めてるみたいですけど、良いんですか?」
 「いつもの事だよ。あの二人、性格も特色も真逆だから、当然意見の対立が起きない訳がない。」
 そう言われればそうだ。天木さんはホームズの頭脳と言われるほどで、彼女には見えている世界が違う。日下部さんは、どちらかと言うとホームズの大黒柱的な存在で、彼が居るとホッとすることはある。
 「頭がよくて何でも自分の頭の中で解決できるアマキちゃんと、心配性で何でも自分の力があればできるリュー君。お互い何でもできるからこそ、あの二人は仲も良いし、自分の考えも言い合える。ホームズには一番大事な所ですね。」
 宮間さんがそう述べた。
 「あれ?カエ?来てたの?」
 天木さんがこちらの存在に気付いて、近づいてきた。日下部さんも後に続くが、どうも、納得いっていない様だった。
 天木さんと日下部さんはそれぞれココアとコーヒーを受け取り、それぞれの所定の位置に座った。
 「今回は何で喧嘩してるの?」
 「今私の追ってる事件が、山に関係してて。それの調査に行こうとしたら、危険だから、俺が行くってリューが言うから…。」
 不貞腐れた様に、口を尖らせた。リンさんも呆れた様に頷く。
 「リュー君だって、アマキちゃんの事心配してるんだから、もうちょっと話し合ってみたら?」
 柏木さんが諭すように話す。これでは、どちらが年上だか分からない…。
 「話し合いには及びませんよ、リュー君仕事です。」
 宮間さんが、お握りを持ってきながら、彼に向かって声を掛けた。持っていたパソコンを閉じ、コーヒーを一気に飲み干す。
 「無理だと思ったら、連絡下さいね。」
マグカップをカウンターに置く序で、天木さんへそう声を掛けて出て行った。
天木さんも「はーい」とだけ返事をした。

 この時、彼の制止ちゃんと聞き入れていればと今になって悔やまれる。

 その後、天木さんもココアを飲み終え、現場に向かった。
 都心からかなり離れた山の中で、捜査は行われていた。捜査と言っても、事件が実際起きているかどうかの調査だった。警察に、この山の崖から人が落ちたとの通報があり、それを調べるものだった。この山には崖がたくさんあり、一つ一つ調べるにはかなりの重労働。だから地理的プロファイリングも得意とする彼女には、ぴったりの案件だった。
 通報場所はこの近くにある公衆電話から。今どきスマホが普及しているのに、わざわざ公衆電話からとは面白い。
 彼女が絞り出した場所は五カ所。しかも奇麗に東・西と二手に分かれている。西には熊谷明日夏(クマ)と浅石京子みやこ(アミ)が。東には小野田浩史ひろし(コージ)がそれぞれ向かった。
 本部の川縁付近の駐車場には天木さんとミカちゃんが待機していた。
 ミカちゃんは、元ホワイトハッカーをやっている。本来なら、カシワギ班のシステム解析者として陰ながら活動しているが、今は天木さんの下で、分析について学んでいる。
 「それにしても、目ぼしい情報が上がってきませんでしたね。」
 クマちゃんたちが、最後の報告をしてきた直後ミカちゃんが口を開いた。そう、結局デマ通報だったわけだ。電車等で痴漢冤罪が起きる様に、こういった虚偽の通報も一定数存在する。状況報告の仕方や電話の話し方などで、大体の真偽は分かるらしいが、念の為と言う事で、こういった調査はよくある。
 「無駄骨でも、死人が存在しなくて御の字。」
 「しかし、何で虚偽の通報なんかするんすかね?」
 一足先に戻ってきていたコージが疲れた様な声を上げた。二ヵ所の崖を巡ってもらったのだから、無理もない。後部座席にあるスーパーのレジ袋に手を入れ、缶ココアを取り出した。それを、彼に向かって放る。
 「疲れた時は甘い物が良いよ。」
 「ありがとうございます…。でも、せめて水かスポドリにして下さいよ…。」
 その時、天木さんのスマホが鳴った。宮間さんからだった。仕事中にしては珍しいと思った。
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