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ファイルⅡ:誘拐事件
#13
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次に、目が覚めた時は病院のベッドの上だった。どうやら、丸一日眠っていた様で、今は時刻十七時。夕日は見えないが、空を赤く染めているのが、見て取れる。
大したことないと思っていたが、五針も縫う怪我だった。今は薬も効いていて痛みは、ほとんどない。窓の前に果物が入ったバスケットが置かれている。きっと誰かが来てくれたのだろう。
こういう時に頭に浮かぶのが、自宅でお腹を空かせているであろう、エビたちや観葉植物の事。本来なら昨日、水槽の掃除をする予定だった。今日はテーブルヤシとパキラの枝の剪定をする予定だった。あの子たちは元気だろうか…。
そんなことを、ぼんやりと考えていた。
病室のドアを開けたのは、リンさんだった。
エビたちの世話はミカちゃんとミヤマさんがしてくれているらしい。あの保護した女の子は実の母親が迎えに来てくれ手、無事に帰った。それを聞いて安心した。
アマキちゃんとツチヤさんは事情聴取を受け、リュー君は頭を冷やすために、ホームズに軟禁されている。
クドーさんは、一度は責任問題を問われたが、非番だったことと、事情が事情であったため、一週間の謹慎で済んだ。
そんな話をリンゴの皮を剥いて貰いながら教えてもらった。
「結局、私も守られたってわけか…。」
「何言ってるんですか。班長はまだ十八なんですから、大人が守るのが当たり前ですよ。」
剥き終わったリンゴの一切れを口に突っ込まれた。流石主婦。剥き方が奇麗で丁寧だ。
事件の真相は、父親の武器の売買と密輸だった。あのスタッフ二人は父親の仲間で警備員が受け取り人だったらしい。彼等からしたあの火薬の匂いは薬莢だった。証拠にポケットから実弾が装填された弾倉が押収された。
女の子は父親の離婚した元奥さんとの実の子で、月に一度の面会に合わせて、怪しまれない様に銃の売買を行っていたらしい。
リュックには三丁の拳銃と、銃弾が五十発ほど。赤く光っていた物はレーザーポインターだった。
防火シャッターが閉まったのは、設備の点検らしく、その日は日中に動作点検を行っていた。通信機器が使えなくなったのは、その所為だ。ミカちゃんがそれに気付き、内部の防犯カメラをジャックし、すぐさまミヤマさんに報告し、警察と救急を呼ばせた。土屋さんのスマートウォッチは、別行動開始の時点で、通信を試みていたらしい。
リョータ君はあたしが、折り返してきたことに気付き、何かしらフォローできるように、後を追ってきていたため、閉じ込めに居合わせてしまった。
でも、一つだけ不思議な事があった。それはあたしの隠れていた背後の非常通路に、彼らの仲間の警備員役が一人、居たことだ。
それなら、まだ分かるが、完全に気を失った状態だったらしい。他の警備員役二人曰く、そこに居たもう一人は、リュー君並みに強いらしく、出てこないことに不思議に思っていた。タケ君たちが駆け付けた頃にはもう、その状態だったため、リュー君がやったのだろうと思っていたが、彼が出てきたのは、二階だ。
警察の調べだと、通路の幅は人がすれ違うのでやっとのほど。ましてやその男もかなりの巨漢。取り調べの結果もよく分からず、気付いたら倒れていたらしい。
「それだけ不思議なんですよね…。班長がやったとも思わないし…。声かけられた後に気を失ったみたい。で、右頬を殴られた痕があったみたい。」
リュー君より強い人はあたしの知って居る中では一人しか知らない。しかも、そんなに喧嘩慣れした巨漢を一発で倒したとなると…。いや、止そう…。それは、憶測にしかすぎないから。
「それにしても、工藤って刑事さんすごいですね。」
「そうだね。お礼しなきゃ…。」
撃たれる直前、本来ならば腕ではなく、胸に当たる筈だった。彼を突き飛ばした後、背中を引っ張られた。お陰で、身体ではなく、腕を掠っただけだった。
でも、一番賞賛すべきは、リンさんだった。あたしが隠れていた時、一番最初に目が合った。それでも、ずっと気付かないふりをしていた。それだけでなく、あたしが飛び出しやすい様に、タイミングを見計らっていてくれた。
改めて、この班でよかったと思った。
「リンさんも、ありがとうございました。」
ベッドの上だったが、頭を下げた。
「班長…。」
そう呟いた後、クスッと笑いだした。
「お二人とも、聞きました?」
すると、またドアが開いた。リョータ君とミカちゃんが入ってきた。
「え?あれ?二人も来てたんだ。」
しかし、彼等もリンさん同様、クスクスと笑っていた。
大したことないと思っていたが、五針も縫う怪我だった。今は薬も効いていて痛みは、ほとんどない。窓の前に果物が入ったバスケットが置かれている。きっと誰かが来てくれたのだろう。
こういう時に頭に浮かぶのが、自宅でお腹を空かせているであろう、エビたちや観葉植物の事。本来なら昨日、水槽の掃除をする予定だった。今日はテーブルヤシとパキラの枝の剪定をする予定だった。あの子たちは元気だろうか…。
そんなことを、ぼんやりと考えていた。
病室のドアを開けたのは、リンさんだった。
エビたちの世話はミカちゃんとミヤマさんがしてくれているらしい。あの保護した女の子は実の母親が迎えに来てくれ手、無事に帰った。それを聞いて安心した。
アマキちゃんとツチヤさんは事情聴取を受け、リュー君は頭を冷やすために、ホームズに軟禁されている。
クドーさんは、一度は責任問題を問われたが、非番だったことと、事情が事情であったため、一週間の謹慎で済んだ。
そんな話をリンゴの皮を剥いて貰いながら教えてもらった。
「結局、私も守られたってわけか…。」
「何言ってるんですか。班長はまだ十八なんですから、大人が守るのが当たり前ですよ。」
剥き終わったリンゴの一切れを口に突っ込まれた。流石主婦。剥き方が奇麗で丁寧だ。
事件の真相は、父親の武器の売買と密輸だった。あのスタッフ二人は父親の仲間で警備員が受け取り人だったらしい。彼等からしたあの火薬の匂いは薬莢だった。証拠にポケットから実弾が装填された弾倉が押収された。
女の子は父親の離婚した元奥さんとの実の子で、月に一度の面会に合わせて、怪しまれない様に銃の売買を行っていたらしい。
リュックには三丁の拳銃と、銃弾が五十発ほど。赤く光っていた物はレーザーポインターだった。
防火シャッターが閉まったのは、設備の点検らしく、その日は日中に動作点検を行っていた。通信機器が使えなくなったのは、その所為だ。ミカちゃんがそれに気付き、内部の防犯カメラをジャックし、すぐさまミヤマさんに報告し、警察と救急を呼ばせた。土屋さんのスマートウォッチは、別行動開始の時点で、通信を試みていたらしい。
リョータ君はあたしが、折り返してきたことに気付き、何かしらフォローできるように、後を追ってきていたため、閉じ込めに居合わせてしまった。
でも、一つだけ不思議な事があった。それはあたしの隠れていた背後の非常通路に、彼らの仲間の警備員役が一人、居たことだ。
それなら、まだ分かるが、完全に気を失った状態だったらしい。他の警備員役二人曰く、そこに居たもう一人は、リュー君並みに強いらしく、出てこないことに不思議に思っていた。タケ君たちが駆け付けた頃にはもう、その状態だったため、リュー君がやったのだろうと思っていたが、彼が出てきたのは、二階だ。
警察の調べだと、通路の幅は人がすれ違うのでやっとのほど。ましてやその男もかなりの巨漢。取り調べの結果もよく分からず、気付いたら倒れていたらしい。
「それだけ不思議なんですよね…。班長がやったとも思わないし…。声かけられた後に気を失ったみたい。で、右頬を殴られた痕があったみたい。」
リュー君より強い人はあたしの知って居る中では一人しか知らない。しかも、そんなに喧嘩慣れした巨漢を一発で倒したとなると…。いや、止そう…。それは、憶測にしかすぎないから。
「それにしても、工藤って刑事さんすごいですね。」
「そうだね。お礼しなきゃ…。」
撃たれる直前、本来ならば腕ではなく、胸に当たる筈だった。彼を突き飛ばした後、背中を引っ張られた。お陰で、身体ではなく、腕を掠っただけだった。
でも、一番賞賛すべきは、リンさんだった。あたしが隠れていた時、一番最初に目が合った。それでも、ずっと気付かないふりをしていた。それだけでなく、あたしが飛び出しやすい様に、タイミングを見計らっていてくれた。
改めて、この班でよかったと思った。
「リンさんも、ありがとうございました。」
ベッドの上だったが、頭を下げた。
「班長…。」
そう呟いた後、クスッと笑いだした。
「お二人とも、聞きました?」
すると、またドアが開いた。リョータ君とミカちゃんが入ってきた。
「え?あれ?二人も来てたんだ。」
しかし、彼等もリンさん同様、クスクスと笑っていた。
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