探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅡ:誘拐事件

#6

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 「カシワギさん達、別行動し始めましたよ。」
 少々薄暗いトレーラーの中でアマキに報告した。その声は心配から来るものだった。
 「そっか。じゃカエに任せよ。」
 「…。」
 「もー、リューは心配しすぎ。」
 「もし何かあったら…。」
 「大丈夫、私がそう判断した。危険なら意地でも私が止めてる。」
 彼も信じていないわけでもない。ただ、もしもの時があった場合…。そこを考えているだけ。世の中、何が起きるかわからないのだから。だからこそ、今一度、首や肩、指などを動かし、鳴らす。いつでも走れる様に。いつでも、拳を握れる様に…。

 クドーさんと別れてから、色々な店を調べたが、何か変わったことや違和感がある訳ではなかった。
 ミカちゃんからも何も情報が上がってきていない。あたしはアマキちゃん程頭が良いわけでもないし、リュー君の様に調査能力がある訳ではない。ホームズに来てから、多少は自分の遣りたい事ができる様になった。だけど、他のラストホームズたちの化物じみた力の前には委縮していた。いつもそうだった。
あたしが正式にホームズに勤め始めたのは三年前で、今居るメンバーの一番最後に加わった。なのにあたしは、ツチヤさんの後釜みたいなポジションについてしまった。
正直、自信なんてなかった。それでも、リョータ君たちは信じてついてきてくれる。それに応えられなければ、申し訳が立たない。

 『カシワギさん、聞こえる?』
 イヤホンマイクから聞こえたのは、リュー君の声だった。
 「リュー君…。何ですか?」
 『大丈夫、今近くにアマキさん居ないから。』
 「相変わらず心配性ですね…。」
 『それは、もちろん。でも、君も今心配してるんじゃないかな?』
 「…。」
 『大丈夫、俺が付いてます。』
 「うん。」
 そう言い終え、通話が切れた。今の言葉が何となくザッキーに似ていた。
 “君ならどうする。”
 あたしなら…。
 その時だった。偶然に近いかもしれない。もはや、必然なのかもしれないが、今すれ違った店のスタッフから少しだが、火薬の匂いがした。最悪のシナリオが一瞬にして思い浮かんだ。急いで、今来た道を引き返す。
 
 柏木さんと別れてから、十分ほど経った。親子は他人もほとんどいない様なショッピングモールの最奥に居た。ここは、店舗もテナント募集中のところばかりで、人通りもほとんどいない。未だ親子に変化はない。
すると、警備員が親子に近づき、外に出る様に促す。が、そうはいかなかった。このショッピングモールのスタッフが警備員を制する。
 さらに、工藤刑事の背後の防火シャッターが閉まる。まるで、閉じ込める様に…。
 リンさんとリョータさんも閉じ込められてしまった。通信機器も圏外になっており、連絡を取る手段がなくなってしまった。他の二人色々試みたが、駄目だった。
 すると、急に娘さん以外、全員が笑いだす。一般市民は、リンさんとリョータさん以外居ないのが、幸いだった。
 「おや、君たちは運が良い…。」
 スタッフの一人がこちらに気付き、声を掛ける。
 「警察です。説明して頂けますか?」
 工藤刑事がカバンから警察手帳を示す。
 「これは、御無礼を…。じゃぁ…。」

 「アマキさん、リンさんのカメラの通信が途絶えました。多分、妨害電波。」
 流石に、そこまで想定していなかったのか、慌てて彼女もモニターを食い入る様に見る。
 「コージ君、聞こえる?あの親子どうなった?」
 『分かりません。ただ、防火シャッターが急に降りてきて、中の様子が分かりません。』
 「防火シャッター…。カエは?」
 「ダメです、通信できません。」
 『アマキちゃん?聞こえる?とんでもないことが分かった。』
 クマちゃんからの通信だった。
 話を聞き終わるか終わらないかの辺りで、リューがトレーラーの扉を蹴破る。自分の六輪車の屋根を踏み越え、ショッピングモールへと向かう。中に乗っていた、タケたちは訳が分からないと言った表情だった。アマキが追いかける様に、指示するが、50M五秒台で走る彼には、流石の二人も追いつかない。
 
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