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ファイルⅡ:誘拐事件
#5
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店内に入って五分ほどで、親子は出てきた。リンさんの報告だと、特に何かを買っていた、訳ではなかった。普通に見ると何の変哲もない親子そのものだった。
「天木さんは火薬の匂いがしたって言ってましたけど、本当なんですかね。」
対岸の店舗側との連絡通路の上から見下ろしている工藤刑事が柏木さんに訊ねる。
「それは事実。でも、一言に火薬と言っても種類があるからね。玩具や花火になんか使われる黒色火薬。銃火器とかに使われる、無煙火薬。今言ったのは、量にもよるけど、爆破力より推進力、つまり、爆発したところで、大きい音と光、火の手が回る程度。リンさんがちゃんとマークしてくれてるから、クドーさんが思ってる最悪の事態ってのは避けられる。」
近くにあった自販機からコーラを購入しまたベンチに腰掛ける。
「もしそれが爆薬だった場合、このショッピングモールごとドッカーンです。」
左手で爆発の様子を簡易的に表す。
「ドカーンって、良いんですかこんなに吞気で。」
「それを今調べてるんじゃん。別に吞気にしてるわけじゃないよ。」
通路の手すりに肘を置き、親子を見る様に指を指す。
すると、右側から革ジャンを着た若い青年が、スマホをいじりながらやってくる、父親からは死角ではない、だが女の子は前をよく見ていなかったのか、青年の足にぶつかった。
転倒こそはしなかったものの、少しよろけた。青年も流石に気付き、女の子と父親に誤っていた。そんなやり取りが、たった一分の間に起きた。
しばらくすると、青年がスマホをいじり、電話をする仕草をした。それとほぼ同時に柏木さんのスマホが鳴る。
「ぶつかったね。そっちは?おつけー、アマキちゃんに報告しておく。そのままリンさんと追跡よろしく。じゃ。」
今度は、腕時計に話し始める。
「聞こえた?それとも見えた?そう。多分私の予想だと、火薬は多分大したことないと思う。うん。最悪、水かけちゃえば何とかなる。判断はアマキちゃんに任せる。はーい。」
「今のは?」
工藤刑事が訝しげに柏木さんに聞く。
「今ぶつかったのが、ウチのチームのリョータ君。さっき駆けつけてくれた。」
得意気に話す。
「ぶつかったと言う事は、それほど爆破の心配がないと言う事。もしかしたら、匂いだけで、実際持ってない可能性もある。」
「そうだと良いですね…。」
「そうだね。」
工藤刑事の予想だが、この状況、天木さんなら、多分笑っていると思う。二日しか一緒に行動してなかったが、彼女は、たとえ窮地な状況だろうが、難しい状況だろうが、必ず笑う。最初に会った時もそうだった。
でも、今隣に居る少女は違った。自分のチームの部下や、天木さんにと話す声は嬉しそうだったが、顔は不安そうだった。無理もない。彼女はあの天木さんからも、完璧主義者と言われる女性。ただの『可能性』話では事を進めたくないのだろう。
「どうやって、調べます?」
「え?」
彼女が目を丸くしてこちらを見つめる。
「こうなったら、とことん付き合いますよ。貴女が満足いく様な捜査に。」
「アマキちゃんが任せた理由が分かった気がする…。」
彼女がぼそっと言ったが、工藤刑事には聞こえていなかった。
「じゃぁ、お願いしようかな…。」
そういうと、さっきまでとは違うスマホを取り出す。さらに、工藤刑事にまだ、パッケージされたままの、イヤホンマイクを一つ差し出す。
「新品だから大丈夫。」
それを耳に着けると、柏木さんが電話を掛ける。
「リョータ君、リンさん、ミカちゃん、聞こえる?ちょっと、調べて欲しい事がある。あの親子が立ち寄った店、全部調べて欲しい。徹底的に。」
柏木さんの指示に、三人が反応する。
「了解。」
男性の声だった。
「カエデさんがそう言うと思って、私はもう既に、動いてます。」
今度は女性の声だったが、リンさんの声ではない。
「私は、このまま追跡を続けます。」
「クドーさんも、追跡お願い。クドーさんはホームズのメンバーでも一般人でもない。だから、天木さんの指示を受けない。だから、クドーさんの良い様に動いてください。」
柏木さんがさっきとは違う顔つきになっていた。
「天木さんは火薬の匂いがしたって言ってましたけど、本当なんですかね。」
対岸の店舗側との連絡通路の上から見下ろしている工藤刑事が柏木さんに訊ねる。
「それは事実。でも、一言に火薬と言っても種類があるからね。玩具や花火になんか使われる黒色火薬。銃火器とかに使われる、無煙火薬。今言ったのは、量にもよるけど、爆破力より推進力、つまり、爆発したところで、大きい音と光、火の手が回る程度。リンさんがちゃんとマークしてくれてるから、クドーさんが思ってる最悪の事態ってのは避けられる。」
近くにあった自販機からコーラを購入しまたベンチに腰掛ける。
「もしそれが爆薬だった場合、このショッピングモールごとドッカーンです。」
左手で爆発の様子を簡易的に表す。
「ドカーンって、良いんですかこんなに吞気で。」
「それを今調べてるんじゃん。別に吞気にしてるわけじゃないよ。」
通路の手すりに肘を置き、親子を見る様に指を指す。
すると、右側から革ジャンを着た若い青年が、スマホをいじりながらやってくる、父親からは死角ではない、だが女の子は前をよく見ていなかったのか、青年の足にぶつかった。
転倒こそはしなかったものの、少しよろけた。青年も流石に気付き、女の子と父親に誤っていた。そんなやり取りが、たった一分の間に起きた。
しばらくすると、青年がスマホをいじり、電話をする仕草をした。それとほぼ同時に柏木さんのスマホが鳴る。
「ぶつかったね。そっちは?おつけー、アマキちゃんに報告しておく。そのままリンさんと追跡よろしく。じゃ。」
今度は、腕時計に話し始める。
「聞こえた?それとも見えた?そう。多分私の予想だと、火薬は多分大したことないと思う。うん。最悪、水かけちゃえば何とかなる。判断はアマキちゃんに任せる。はーい。」
「今のは?」
工藤刑事が訝しげに柏木さんに聞く。
「今ぶつかったのが、ウチのチームのリョータ君。さっき駆けつけてくれた。」
得意気に話す。
「ぶつかったと言う事は、それほど爆破の心配がないと言う事。もしかしたら、匂いだけで、実際持ってない可能性もある。」
「そうだと良いですね…。」
「そうだね。」
工藤刑事の予想だが、この状況、天木さんなら、多分笑っていると思う。二日しか一緒に行動してなかったが、彼女は、たとえ窮地な状況だろうが、難しい状況だろうが、必ず笑う。最初に会った時もそうだった。
でも、今隣に居る少女は違った。自分のチームの部下や、天木さんにと話す声は嬉しそうだったが、顔は不安そうだった。無理もない。彼女はあの天木さんからも、完璧主義者と言われる女性。ただの『可能性』話では事を進めたくないのだろう。
「どうやって、調べます?」
「え?」
彼女が目を丸くしてこちらを見つめる。
「こうなったら、とことん付き合いますよ。貴女が満足いく様な捜査に。」
「アマキちゃんが任せた理由が分かった気がする…。」
彼女がぼそっと言ったが、工藤刑事には聞こえていなかった。
「じゃぁ、お願いしようかな…。」
そういうと、さっきまでとは違うスマホを取り出す。さらに、工藤刑事にまだ、パッケージされたままの、イヤホンマイクを一つ差し出す。
「新品だから大丈夫。」
それを耳に着けると、柏木さんが電話を掛ける。
「リョータ君、リンさん、ミカちゃん、聞こえる?ちょっと、調べて欲しい事がある。あの親子が立ち寄った店、全部調べて欲しい。徹底的に。」
柏木さんの指示に、三人が反応する。
「了解。」
男性の声だった。
「カエデさんがそう言うと思って、私はもう既に、動いてます。」
今度は女性の声だったが、リンさんの声ではない。
「私は、このまま追跡を続けます。」
「クドーさんも、追跡お願い。クドーさんはホームズのメンバーでも一般人でもない。だから、天木さんの指示を受けない。だから、クドーさんの良い様に動いてください。」
柏木さんがさっきとは違う顔つきになっていた。
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