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ファイルⅡ:誘拐事件
#4
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それぞれ着替え終わり、車の外に出た。着替えたと言っても工藤刑事はそんなに変わってはいない。柏木さんはだいぶ地味になった。
先ほど出た一階の出入り口ではなく、二階のバルコニー用の出入り口から、親子を見下ろせる位置から監視を再開する。
「雑談ついでに、聞いていいですか?」
工藤刑事が、柏木さんに聞いた。決して先ほどコミュ障と思われたのが癪だったわけではない。
「もしかして、さっきのコミュ障って言われたの、根に持ってる?」
「い、いえ決してそんなこと…。」
「冗談。で、何?」
「この間、宮間さんから聞いたんですけど、ザッキーさんってどんな方だったんですか?」
「あぁ、そういう事か…。」
「そういう事って?」
「何でもない。それより、ザッキーさんね。彼は、私を理解してくれた二人目の人。」
「理解?」
「あたしは、さっき言った通り多趣味で完璧主義。何でもかんでも手を付けては、飽きることなくのめり込んで、結局極めてしまう。この意味がクドーさんには分かる?」
親子から視線を逸らすことなく、ただ淡々と話して良く。
「きっと分からないよね。飽きっぽい完璧主義者って矛盾してる存在なんて。」
「それは…。」
「分からないよ、あたしでも分からなかったもん…。」
柏木さんの念を押した様な言葉は、少し弱弱しかった。その間に、例の親子は雑貨売り場に入って行った。続いてリンさんも入店していく。
「リンさん、何買ったか探って。」
腕時計に話しかけた後、通路にあったベンチに腰を下ろした。
「あたしはね、小さいころから好奇心旺盛な子だった。見るもの、触れるもの、感じるもの全てが、あたしにとっては興味があるものだった。工作も家事も勉強も…。
そうなると次第に親が疲れてきちゃってね。小学校上がった時からかな?母親が急変して、あたしの興味持ちそうなものは全て取り上げて、手元に残ったのは、教科書とノートくらい。当然だよね、女の子なのに料理ならまだしもプラモとか弄ってたら可笑しいもん…。」
「…。」
工藤刑事は返す言葉もなかった。気軽に聞いたつもりだったが、こんな重苦しいことになるとは、思いもしなかった。
「その時は、勉強すれば認めてくれると思った。でもそれも、火に油を注いだものだった。当然勉強すれば成績が上がるし、テストも常に高得点。でも母はそれをさらに追い詰めた。唯一お父さんがあたしのことを理解してくれて、好きにさせてくれてた。でも、小三の夏に事故で亡くなった。そこからはもう、自分の好きに生きることはできなかった。出来るだけ、何もしない様に生活した。家に帰ったら、宿題して、出されたご飯食べて、お風呂入って寝る。テレビも見たら興味惹かれるものが多いから、私だけ家に居る時のほとんどは自室で過ごした。当然本もダメだから、あるのは本当に教科書とノートと辞典くらいだった。次第にあたしは居ない者になっていた。」
柏木さんは天木さんと少し似ている様で、全然違う人生を歩んできた。天木さんは知ることで人を傷つける事を知った。それで、両親からも逃げられ、一時は引きこもりになった。
でも、彼女は自分で自分を押し殺し、偽って生きてきた。自分のやりたいことも、自分の趣味も全てを犠牲にしてでも、親から見放されまいと、必死で生きてきた。しかも、まだ小学生で…。
「ごめんね、暗い話で。」
「いえ。大丈夫です。天木さんの話も聞きましたから。」
答えになっていない気がした。
「それで中三の時、ひょんなことから不良たちから絡まれて、たまたま通りかかったザッキーに助けられて、ホームズに確保された。いくらあたしでも、あの時は怖かったなぁ…。それで、ザッキーとよく話す様になって、『君は自由だ』って言われたとき、ありきたりだけど、救われたね…。で、これ貰った。」
柏木さんが、スマホを取り出す。そのスマホに小さいイルカのマスコットが付いていた。
「初めて背中押された。だから、ザッキーはあたしにとって、本当の親みたいな人…。」
柏木さんが懐かしそうにイルカを見つめる。ただ、工藤刑事には少し気になることがあった。
「あの、柏木さんって何歳ですか?」
「あたしは今年で一九よ。」
先ほど出た一階の出入り口ではなく、二階のバルコニー用の出入り口から、親子を見下ろせる位置から監視を再開する。
「雑談ついでに、聞いていいですか?」
工藤刑事が、柏木さんに聞いた。決して先ほどコミュ障と思われたのが癪だったわけではない。
「もしかして、さっきのコミュ障って言われたの、根に持ってる?」
「い、いえ決してそんなこと…。」
「冗談。で、何?」
「この間、宮間さんから聞いたんですけど、ザッキーさんってどんな方だったんですか?」
「あぁ、そういう事か…。」
「そういう事って?」
「何でもない。それより、ザッキーさんね。彼は、私を理解してくれた二人目の人。」
「理解?」
「あたしは、さっき言った通り多趣味で完璧主義。何でもかんでも手を付けては、飽きることなくのめり込んで、結局極めてしまう。この意味がクドーさんには分かる?」
親子から視線を逸らすことなく、ただ淡々と話して良く。
「きっと分からないよね。飽きっぽい完璧主義者って矛盾してる存在なんて。」
「それは…。」
「分からないよ、あたしでも分からなかったもん…。」
柏木さんの念を押した様な言葉は、少し弱弱しかった。その間に、例の親子は雑貨売り場に入って行った。続いてリンさんも入店していく。
「リンさん、何買ったか探って。」
腕時計に話しかけた後、通路にあったベンチに腰を下ろした。
「あたしはね、小さいころから好奇心旺盛な子だった。見るもの、触れるもの、感じるもの全てが、あたしにとっては興味があるものだった。工作も家事も勉強も…。
そうなると次第に親が疲れてきちゃってね。小学校上がった時からかな?母親が急変して、あたしの興味持ちそうなものは全て取り上げて、手元に残ったのは、教科書とノートくらい。当然だよね、女の子なのに料理ならまだしもプラモとか弄ってたら可笑しいもん…。」
「…。」
工藤刑事は返す言葉もなかった。気軽に聞いたつもりだったが、こんな重苦しいことになるとは、思いもしなかった。
「その時は、勉強すれば認めてくれると思った。でもそれも、火に油を注いだものだった。当然勉強すれば成績が上がるし、テストも常に高得点。でも母はそれをさらに追い詰めた。唯一お父さんがあたしのことを理解してくれて、好きにさせてくれてた。でも、小三の夏に事故で亡くなった。そこからはもう、自分の好きに生きることはできなかった。出来るだけ、何もしない様に生活した。家に帰ったら、宿題して、出されたご飯食べて、お風呂入って寝る。テレビも見たら興味惹かれるものが多いから、私だけ家に居る時のほとんどは自室で過ごした。当然本もダメだから、あるのは本当に教科書とノートと辞典くらいだった。次第にあたしは居ない者になっていた。」
柏木さんは天木さんと少し似ている様で、全然違う人生を歩んできた。天木さんは知ることで人を傷つける事を知った。それで、両親からも逃げられ、一時は引きこもりになった。
でも、彼女は自分で自分を押し殺し、偽って生きてきた。自分のやりたいことも、自分の趣味も全てを犠牲にしてでも、親から見放されまいと、必死で生きてきた。しかも、まだ小学生で…。
「ごめんね、暗い話で。」
「いえ。大丈夫です。天木さんの話も聞きましたから。」
答えになっていない気がした。
「それで中三の時、ひょんなことから不良たちから絡まれて、たまたま通りかかったザッキーに助けられて、ホームズに確保された。いくらあたしでも、あの時は怖かったなぁ…。それで、ザッキーとよく話す様になって、『君は自由だ』って言われたとき、ありきたりだけど、救われたね…。で、これ貰った。」
柏木さんが、スマホを取り出す。そのスマホに小さいイルカのマスコットが付いていた。
「初めて背中押された。だから、ザッキーはあたしにとって、本当の親みたいな人…。」
柏木さんが懐かしそうにイルカを見つめる。ただ、工藤刑事には少し気になることがあった。
「あの、柏木さんって何歳ですか?」
「あたしは今年で一九よ。」
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