探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅡ:誘拐事件

#2

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 親子の後を付け始めてから、五分ほど経った。その間、親子は色んな店に入ったり、ゲームセンターに寄ったりはしていたが、何かを買ったり、遊んだりしているわけではなかった。ショッピングモールも中盤に差し掛かった時だった。急に柏木さんが、来た道を引き返した。
 「どうしたんですか?」
 工藤刑事が柏木さんに問う。
 「前に居るカップル、あれアマキちゃんチームのアミちゃんとコージ君。」
 振り返ると、確かに、カップルが腕を組んで歩いていた。
 「それだけじゃなくて、上もの通路の方。あの、オタクみたいな男、リュー君チームのオカ君。で、今すれ違った、主婦が私のチームのリンちゃんです。」
 「え、アマキさんが連絡入れてから、まだ五分しかたってませんよ!」
 少しトーンを落としながら喋ったが、語尾の方が強くなってしまった。
 「たまたま、このショッピングモールに居たんだよ。私たちも何回か会ってるし、すれ違ってる。」
 「でも、そんな素振り今までしてませんよね…。」
 「そんな素振りしたら、仲間だってばれちゃう。私たちはプロだよ。そして、相手にしてるのも当然プロ。生半可な方法では絶対やらない…。」
 天木さんが完璧主義と言うだけはあると思った。

 「で、どこに向かってるんですか?」
 「とりあえず、アマキちゃんのところ。指示貰わないと…。」
 そう言いつつ、一番近場にあった出入り口から外の駐車場に出た。金曜だが、結構な台数の車が止まっていた。しかし、奥の隅の方に、見たことのある、外車のクロカンが停まっていた。
 柏木さんは、迷うことなくその車に向かっていく。
 「天木さん、今日車で来たんですか?」
 「そうだよ。ていうか、アマキちゃん電車とかバスとか、公共の乗り物嫌いだから。」
 「そうなんだ…。」
 柏木さんが後部座席のドアを開ける。天木さんは助手席に座り、何やらノートタイプのパソコンをカタカタといじっていた。
 「どうだった?」
 「特に、動きなし。コージ君たちに任せて、帰ってきた。アマキちゃんは?」
 「ツッチーはやっぱり無理だって、ミヤマがホームズでお留守番。リューが今クジラ連れてくる…。よし、繋げた。」
 天木さんが、パソコンをセンターコンソールに置いた。画面には先ほどのショッピングモール内の映像が見えていた。端の方には先ほどの親子の顔も映っている。

 「アミちゃん、聞こえる?」
 天木さんがパソコンに向かって話しかける。すると、画面が左右に揺れた。
 「オッケー。じゃ、おかっちは?」
 カメラが動き、オタク男が遠くにうっすらと移った。画質が悪く、よく見えないが、胸の前で親指を立てているのが何となくだが分かった。
 「おかっち、今日のテーマはオタクファッション?」
 天木さんが笑いを堪えながら聞いた。
 『うるさいっすね…。帰りますよ。』
 パソコンから男性の声が聞こえた。
 「ごめんごめん。リンちゃんは今日お買い物?」
 『そうよ、夕飯はカレーにしようと思って、食材買いに来たの。』
 「カレーか…。あたしも食べたくなってきた。」
 リンさんの返事に、柏木さんが反応した。
 『それより班長、先ほどお隣にいらしたのは?』
 「警視庁のクドーケージだよ。この間のひったくりの件で、私が面倒見たケージさん。」
 『あぁ、なるほど。』
 オカさんでもない、男性の声が入ってきた。多分消去法的に『コージ君』だろう。

 「意外と、皆さんリラックスしてますね…。」
 工藤刑事が柏木さんに耳打ちする。
 「これが、アマキちゃん流です。伊達に頭良いわけでも、あんな見た目してるわけじゃないです。」
 耳打ちする様に答えてくれた。
 「へぇ…。そう言えば、土屋さんの班の人はまだ来てないんですか?」
 その質問に答えたのは、天木さんだった。
 「ツッチーはワンマンだよ。まぁ正確に言えば、私とリューとカエがツッチー班。ちなみに、一番班員が多いのはリューの班。正規メンバーだけでも、七人いる。」
 「へぇ…。」
 「来たかな?」
 天木さんがルームミラーを見ながら、声を上げた。
 駐車場の入り口から現れたのは、大きいトレーラー車だった。
 
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