探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅠ:連続ひったくり事件

#20

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 太田の逮捕から三日が立っていた。取調の結果、太田はストーカの犯行も認め、別件でも聴取を受けている。美紀さんも、3年前のことや今回のことをすべて話してくれ、彼女は情状酌量の余地ありと判断され、厳重注意とし、釈放された。
 
 しかし、今日は金曜日で、工藤刑事は非番だった。いつものスーツとは違い、ジーンズパンツにストライプのシャツとそれなりのカジュアルな格好だった。約束通り、天木さんとショッピングに出かけるため、駅の改札辺りで待ち合わせていた。時刻は一〇時で、ラッシュも終わり、駅は少々落ち着きを取り戻していた。
 工藤刑事も人と、しかも同じ女性と出かけるのは久々だった。三課は盗犯つまり、ひったくり以外にも窃盗や空き巣、万引きまでも捜査する。当然犯罪件数も多く、毎日至る所で事件が起きている。花形の一課や金銭関係の二課とは違い、ドラマや小説にするには、少し物足りなさがある部署である。しかし、どれも犯罪には変わりない。刑事をやっている以上、犯罪にケチを付けられるわけがなかった。ましてや、この間の連続ひったくり事件の様に、多からず少なからず、傷ついている人は居る。それに、とやかく言うことはできない。
 
 「クドー!」
 それほど多くない群衆だが、彼女の背丈だと、ぱっと見ではわからない。だが、今回は違った。今どきの若者というべき服装をした、少し派手目の女性が目についた。その隣に、青いカーディガンを羽織った、天木さんが手を振っていた。相変わらず、袖口は幾らか余っていた。
 「天木さん、柏木さんも!」
 「本当は、一人で来る予定だったけど、ファッションといえばカエかと思って、拾ってきた。」
 子どもの様な無邪気な顔で、説明してくれた。
 「拾ったって、アマキちゃん、あたし忙しかったんだけど…。」
 そうやら、柏木さんは無理やり連れてこられた様で、少し不機嫌だった。
 「忙しいって、どうせプラモ作るだけでしょ…。」
 天木さんがやれやれと言わんばかりに、ため息交じりに首を振った。

 「そういえば、柏木さんこの間プラモ作ってましたね。」
 「そうだけども、今日は違います。」
 語尾を伸ばしながら反論した。
 「今日はみっちゃんたちの家の掃除しようと思ったんです。」
 「りっちゃん?」
 工藤刑事の頭に『?』が浮かぶ。
 「ミナミヌマエビのみっちゃんです。」
 「カエの家にはこんなでっかい水槽あって、熱帯魚とか小っちゃいエビとか泳いでる!」
 天木さんが両手を広げて水槽の大きさを表す。工藤刑事も熱帯魚等に詳しいわけではないが、テレビ等で、一匹数万円の魚が紹介されていた時を思い出した。
 「そんなに大きい水槽置くスペースあるんですか?」
 「アマキちゃん大げさなんだよ…。大きいって言っても、六〇センチ水槽だから言うほど大きくないし、熱帯魚も、グッピーとかメダカくらいだからね。」
 柏木さんもやれやれと言わんばかりに、訂正する。
 「へぇ、多趣味なんですね。」
 工藤刑事が率直な感想を述べた。
 「カエは、こう見えて完璧主義だから仕方ないよ。それより早く、行こ。」
 子どもがせがむ様に工藤刑事の腕をぐいぐいと引っ張る。

 しかし、この時彼女たちは知らなかった。この平和な一日が一変して最悪な一日になるとは、思いもしなかった。
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