29 / 281
ファイルⅠ:連続ひったくり事件
#20
しおりを挟む
太田の逮捕から三日が立っていた。取調の結果、太田はストーカの犯行も認め、別件でも聴取を受けている。美紀さんも、3年前のことや今回のことをすべて話してくれ、彼女は情状酌量の余地ありと判断され、厳重注意とし、釈放された。
しかし、今日は金曜日で、工藤刑事は非番だった。いつものスーツとは違い、ジーンズパンツにストライプのシャツとそれなりのカジュアルな格好だった。約束通り、天木さんとショッピングに出かけるため、駅の改札辺りで待ち合わせていた。時刻は一〇時で、ラッシュも終わり、駅は少々落ち着きを取り戻していた。
工藤刑事も人と、しかも同じ女性と出かけるのは久々だった。三課は盗犯つまり、ひったくり以外にも窃盗や空き巣、万引きまでも捜査する。当然犯罪件数も多く、毎日至る所で事件が起きている。花形の一課や金銭関係の二課とは違い、ドラマや小説にするには、少し物足りなさがある部署である。しかし、どれも犯罪には変わりない。刑事をやっている以上、犯罪にケチを付けられるわけがなかった。ましてや、この間の連続ひったくり事件の様に、多からず少なからず、傷ついている人は居る。それに、とやかく言うことはできない。
「クドー!」
それほど多くない群衆だが、彼女の背丈だと、ぱっと見ではわからない。だが、今回は違った。今どきの若者というべき服装をした、少し派手目の女性が目についた。その隣に、青いカーディガンを羽織った、天木さんが手を振っていた。相変わらず、袖口は幾らか余っていた。
「天木さん、柏木さんも!」
「本当は、一人で来る予定だったけど、ファッションといえばカエかと思って、拾ってきた。」
子どもの様な無邪気な顔で、説明してくれた。
「拾ったって、アマキちゃん、あたし忙しかったんだけど…。」
そうやら、柏木さんは無理やり連れてこられた様で、少し不機嫌だった。
「忙しいって、どうせプラモ作るだけでしょ…。」
天木さんがやれやれと言わんばかりに、ため息交じりに首を振った。
「そういえば、柏木さんこの間プラモ作ってましたね。」
「そうだけども、今日は違います。」
語尾を伸ばしながら反論した。
「今日はみっちゃんたちの家の掃除しようと思ったんです。」
「りっちゃん?」
工藤刑事の頭に『?』が浮かぶ。
「ミナミヌマエビのみっちゃんです。」
「カエの家にはこんなでっかい水槽あって、熱帯魚とか小っちゃいエビとか泳いでる!」
天木さんが両手を広げて水槽の大きさを表す。工藤刑事も熱帯魚等に詳しいわけではないが、テレビ等で、一匹数万円の魚が紹介されていた時を思い出した。
「そんなに大きい水槽置くスペースあるんですか?」
「アマキちゃん大げさなんだよ…。大きいって言っても、六〇センチ水槽だから言うほど大きくないし、熱帯魚も、グッピーとかメダカくらいだからね。」
柏木さんもやれやれと言わんばかりに、訂正する。
「へぇ、多趣味なんですね。」
工藤刑事が率直な感想を述べた。
「カエは、こう見えて完璧主義だから仕方ないよ。それより早く、行こ。」
子どもがせがむ様に工藤刑事の腕をぐいぐいと引っ張る。
しかし、この時彼女たちは知らなかった。この平和な一日が一変して最悪な一日になるとは、思いもしなかった。
しかし、今日は金曜日で、工藤刑事は非番だった。いつものスーツとは違い、ジーンズパンツにストライプのシャツとそれなりのカジュアルな格好だった。約束通り、天木さんとショッピングに出かけるため、駅の改札辺りで待ち合わせていた。時刻は一〇時で、ラッシュも終わり、駅は少々落ち着きを取り戻していた。
工藤刑事も人と、しかも同じ女性と出かけるのは久々だった。三課は盗犯つまり、ひったくり以外にも窃盗や空き巣、万引きまでも捜査する。当然犯罪件数も多く、毎日至る所で事件が起きている。花形の一課や金銭関係の二課とは違い、ドラマや小説にするには、少し物足りなさがある部署である。しかし、どれも犯罪には変わりない。刑事をやっている以上、犯罪にケチを付けられるわけがなかった。ましてや、この間の連続ひったくり事件の様に、多からず少なからず、傷ついている人は居る。それに、とやかく言うことはできない。
「クドー!」
それほど多くない群衆だが、彼女の背丈だと、ぱっと見ではわからない。だが、今回は違った。今どきの若者というべき服装をした、少し派手目の女性が目についた。その隣に、青いカーディガンを羽織った、天木さんが手を振っていた。相変わらず、袖口は幾らか余っていた。
「天木さん、柏木さんも!」
「本当は、一人で来る予定だったけど、ファッションといえばカエかと思って、拾ってきた。」
子どもの様な無邪気な顔で、説明してくれた。
「拾ったって、アマキちゃん、あたし忙しかったんだけど…。」
そうやら、柏木さんは無理やり連れてこられた様で、少し不機嫌だった。
「忙しいって、どうせプラモ作るだけでしょ…。」
天木さんがやれやれと言わんばかりに、ため息交じりに首を振った。
「そういえば、柏木さんこの間プラモ作ってましたね。」
「そうだけども、今日は違います。」
語尾を伸ばしながら反論した。
「今日はみっちゃんたちの家の掃除しようと思ったんです。」
「りっちゃん?」
工藤刑事の頭に『?』が浮かぶ。
「ミナミヌマエビのみっちゃんです。」
「カエの家にはこんなでっかい水槽あって、熱帯魚とか小っちゃいエビとか泳いでる!」
天木さんが両手を広げて水槽の大きさを表す。工藤刑事も熱帯魚等に詳しいわけではないが、テレビ等で、一匹数万円の魚が紹介されていた時を思い出した。
「そんなに大きい水槽置くスペースあるんですか?」
「アマキちゃん大げさなんだよ…。大きいって言っても、六〇センチ水槽だから言うほど大きくないし、熱帯魚も、グッピーとかメダカくらいだからね。」
柏木さんもやれやれと言わんばかりに、訂正する。
「へぇ、多趣味なんですね。」
工藤刑事が率直な感想を述べた。
「カエは、こう見えて完璧主義だから仕方ないよ。それより早く、行こ。」
子どもがせがむ様に工藤刑事の腕をぐいぐいと引っ張る。
しかし、この時彼女たちは知らなかった。この平和な一日が一変して最悪な一日になるとは、思いもしなかった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編
sorarion914
ミステリー
「転生」しない。
「異世界」行かない。
「ダンジョン」潜らない。
「チート」存在しない。
ちょっぴり不思議だけど、ちゃんとリアルな世界に足をついて生きてる。
そんな人達の話が読んでみたい――という、そこの変わった貴方。
いらっしゃいませ。
お待ちしておりました……(笑)
注・本作品はフィクションです。作中に登場する人物及び組織等は実在する物とは異なります。あらかじめご了承下さい。
駅のホームから落ちて死んだ男の死をキッカケに、出会った二人の男。野崎は、刑事として仕事に追われ、気が付けば結婚15年。子供は出来ず、妻との仲も冷え切っていた。そんなある日、野崎は大学時代の恩師から、不思議な力を持つ宇佐美という男を紹介される。誰にも心を開かず、つかみどころの無い宇佐美に初めは戸惑う野崎だが、やがて彼が持つ不思議な力に翻弄され、それまでの人生観は徐々に崩れていく。対する宇佐美もまた、自分とは真逆の生き方をしている野崎に劣等感を抱きながらも、その真っすぐな気持ちと温かさに、少しずつ心を開いていく。
それぞれの人生の節目に訪れた出会い。
偶然のように見える出会いも、実はすべて決まっていたこと。出会うべくして出会ったのだとしたら…あなたはそれを運命と呼びますか?
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
エスポワールで会いましょう
茉莉花 香乃
BL
迷子癖がある主人公が、入学式の日に早速迷子になってしまった。それを助けてくれたのは背が高いイケメンさんだった。一目惚れしてしまったけれど、噂ではその人には好きな人がいるらしい。
じれじれ
ハッピーエンド
1ページの文字数少ないです
初投稿作品になります
2015年に他サイトにて公開しています
籠の鳥はそれでも鳴き続ける
崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる