探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅠ:連続ひったくり事件

#17

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 目的地に着いたのは、正午頃だった。
 都心から少し離れた所にある、とある墓地だった。
 そこに、田中美紀がいた。
 「田中美紀さんですか?」
 少し驚いたようにこちらを向いた。
 「ひったくり事件の四件目の被害者、田中美紀さんですね…。」
 「警察の方ですか?」
 「探偵やってる、天木です。今回の事件を追ってます。」
 「探…偵…。」
 彼女の目は訝し気だった。
 「安心してください。警察には、真実は話してません。」
 「…。」
 彼女は黙りこくった。
 「今、三年前の事故件、ウチのチームで調べなおしてる。」
 「…今更どうして?」
 「あなたが、必死で訴えたのを感じました。」
 そう言って、カバンからUSBメモリーを取り出す。
 「これ、昨日あの自販機のカメラに映っていたあなたの真実です。
 あなたのお兄さん、田中良樹さんはあの交差点で事故に遭って亡くなった。ここか先は、貴方が自分で話すべきだと思います。」
 それでも、話そうとはしなかった…。この空気は私には少し、キツイ。
 「当時、警察はろくな捜査をせずに、貴方の両親は、訴訟を起こした。そこまでは、私も把握してます。それ以降のことも。」
 「そこまで知ってるなら、何故警察に報告しないんですか?」
 彼女が初めて、反応した。
 指先が、少し、震えていた。
 「あなたが、嘘を付いてまで、隠したことだから。」
 「…。」

 彼女の隣に立ち、目の前にある、墓石に目をやった。
 「お兄さんが眠てるんだね…。」
 「…天木さんは、誰か大事な人を失ったことありますか?私にとっては、兄はヒーローでした。部活のことも勉強のことも、全部私のことを応援してくれてました。」
 美紀さんが墓石の石段に座り、こちらを見つめた。その目には、先が映っていなかった。
 「私は、そんな兄を殺してしまった…。」
 「三年前あなたは、ストーカー被害に遭っていた。」
 「よく調べましたね。そうです。あの日も、学校から帰宅途中に、誰かからつけられて、あの交差点に差し掛かった時に、肩を掴まれて、それを振りほどいた拍子に…。
 私は、それが誰だったかわからないまま、急いで、帰宅しました。
その後でした。兄が事故に遭ったと聞いたのは…。」
 彼女は涙一つ流さないで、すらすらと答えてくれた。
 「ストーカー被害のこと、両親には?」
 「兄にしか相談してないです。」
 彼女が首を横に振りながら、答えた。
 「当時の報道や捜査員は逃げていく人影を見たと言う、情報を元に捜査していた。だけど、ある日突然不慮な事故ということで、片が付いた。
 事情を知らないあなたの両親は、当然捜査が不服ということを訴訟した。でも、裁判所も警察も、事故の一点張りだった。」
 それは、貴方がその人影だって知って居たから。
 当時、貴方はまだ中学生だったあなたを、保護するため…。」
 「えぇ、当時の刑事さんが、私に教えてくれました。いっそのこと、捕まえてくれればよかったのに…。」
 彼女は俯いた。

 「辛くなかったですか?」
 「え?」
 彼女が頭を上げて、聞き返してきた。
 「今まで、人の顔色や視線をうかがいながら、生きていくのは、辛くなかったですか?」
 ぽかんとしたまま、聞き入っているのをよそに、彼女の隣に腰を下ろした。
 「私はね、少し人と違うところがあってね、そういうのがあると、いじめが起きる。私は、小学の時から、ずっ と、クラスメイトや先生、両親にも人としては扱われず生きてきた。」
 「両親にも…。」
 呟くように、聞き返してくる。
 「うん…。色々なことが羨ましかった…。普通に話すのが。普通に笑うのが。普通に勉強できることが。“普通”が私にとっては一番の難題だった。
 それでも、妹が一人居てね。その子だけは、私を“姉”とずっと慕ってくれた。そんな私の癒しも両親から取り上げられて、ある日、夜逃げされた…。今でも夜目を瞑るとその時のことが鮮明に映し出される…。」
 「…酷い…。」
 「その時の後遺症で、私も人の顔色や目を見て話したりする様になった。」
 「今の私と同じなのに…私よりも何というか…辛い…ですね。」
 彼女が言葉に詰まりながら、答えてくれた。
 「でも、私を見つけてくれた人が居てね。その人から私の力が欲しいって誘われて、今探偵やってる。」
 気が付くと、指輪を触っていた。
 「助けられたんですね。」
 彼女の声が、少し安心したようだった、
 「そう、助かった。だから、今度は私が助ける。」
 そういうと私は、リューに電話を入れた。
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