探偵注文所

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
25 / 281
ファイルⅠ:連続ひったくり事件

#16

しおりを挟む
 「動機は、警察への復讐ってところか…。」
 土屋さんが自分の顎に手を置きながら言った。
 「田中良樹。田中美紀の実兄。彼は、三年前に事故で亡くなった。その時の警察の捜査が杜撰じゃなかったのかと、何度か訴訟を起こしている。
 太田、お前とその良樹は学生時代からの、親友だった。」
 日下部さんの車の屋根から降りてきた、柏木さんが、後部座席から女の子を連れてきた。
 「美紀ちゃん!」
 太田が少し、驚いたように叫んだ。
 「今日のお昼頃、私が見つけて確保した。」
 天木さんが、美紀さんの手を引っ張る様に、太田の前に連れてきた。


 あの朝の調査の後、私は本当に自宅に帰る予定だった。
 しかし、一つだけずっと引っかかっていた事があった。
 四件目の被害者が何故、これだけ分かりやすい嘘を彼女は述べたのか…。それが、昨日の時からずっと気になっていた。
 “彼ならきっと、分かったんだろう…。”
 そういう意味での昨日の言葉だった。
 でも今は、彼は居ない。だからこそ、昨日、私も嘘を付いた。彼ならそうすると思ったから。人の嘘に嘘を重ねることが、私にとっては難しい。
 さっきの交差点でやったのは、シミュレーションではない。彼の真似だった。彼は考え事をするとき、よく目を瞑っていた。
 気が付くと、さっきの住宅街の交差点に着いていた。
 雨は、傘を差すまでもない程になっていた。
 「ごめん、ザッキー…やっぱり、貴方には勝てない…。力使うね…。」
 そう心の中で呟き、またしても目を閉じた。
 脳内に昨日見た捜査資料が一瞬にして広がる。それだけじゃなく、それぞれの現場付近で見聞きしたことなども全て…。
 
 そして、思い出した。ここで、三年前に事故が起きていた事。小さくだが、新聞の記事にそれが乗っていた。
 急いでスマホを取り出す。
 「…カエ?」
 『どうしたの?』
 カエが出てくれた…。彼女は少し前まで、リューの配下の捜査班だった。
 「ツッチーまだ居る?」
 『居るけど、どうしたの?』
 「スピーカーモードにして、皆聞いて。
 今から調べて欲しい事がある。
 一つは、六件目の現場近くにあるウィークリーの犯人に繋がる様な決定的な証拠。」
 『証拠ってどうやって…。』
 カエが、落胆したような感じに聞いてくる。
 「何かしら“アト“が必ずあるはず。」
 『アト…。今まで、何が見つかってるんだ?』
 ツッチーがフォローしてくれた。
 「一件目、原付バイクの接触痕。第三、自転車のタイヤ痕。第五はまだ見てないから、分からない。でも、必ずあるはず…。」
 「任せて。アマキちゃんの班のメンバー何人か貸して。」
 カエが心強く返してくれる。
 「ありがと。二つ目は、三年前のとある事故について調べて欲しい…。」
 『事故?』
 ミヤマが不思議そうな声を上げる。
 『事故…。もしかして、四件目の住宅地付近の事故か?』
 「流石ツッチー。そう、その事故を徹底的に調べられるだけ、調べて。制限時間は一七時まで。」
 少し、わくわくしてきた。この、ひったくり事件はメッセージが隠されている…。
 私にとって、問題が餌の様な感覚…。難問な程、全てを解き明かしたくなる…。
 “全てを見つけて、全てを拾うのは、賢いとは言えないよ。”
 その言葉が、一瞬頭をよぎった…。彼が、私に最初に教えてくれたことだった…。
 『アマキ、余計な事考えんなよ。』
 ツッチーの声だった。
 『お前は無駄にプレッシャーに弱いところあるから、あまり気にするな。自分のやり方で、切り開いたんだろ?だったら、もっと自信持て、この俺がお前を全力でフォローしてやる。』
 彼のその応援はもう二年もずっと聞いてきたが、今日だけは、何故か一番心強かった。
 「ありがと、ツッチー。じゃぁ皆、私の手足になって。」
 『オーダー、心得ましたよ。』
 ミヤマが返事を返してくれた。

 私はその後、一旦ホームズに戻り、車を動かした。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小説投稿サイトの比較―どのサイトを軸に活動するか―

翠月 歩夢
エッセイ・ノンフィクション
小説家になろう エブリスタ カクヨム アルファポリス 上記の4つの投稿サイトを実際に使ってみての比較。 各サイトの特徴 閲覧数(PV)の多さ・読まれやすさ 感想など反応の貰いやすさ 各サイトのジャンル傾向 以上を基準に比較する。 ☆どのサイトを使おうかと色々試している時に軽く整理したメモがあり、せっかくなので投稿してみました。少しでも参考になれば幸いです。 ☆自分用にまとめたものなので短く簡単にしかまとめてないので、もっと詳しく知りたい場合は他の人のを参考にすることを推奨します。

「次元迷宮のレゾナンス」 超難解な推理小説

葉羽
ミステリー
天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)は、幼馴染の望月彩由美と平穏な日常を送っていた。しかし、街で発生した奇妙な密室殺人事件を境に、彼の周囲は不可解な現象に包まれていく。事件の謎を追う葉羽は、現実と虚構の境界が曖昧な迷宮へと迷い込み、異次元の恐怖に直面する。多層虚構世界に隠された真実とは? 葉羽は迷宮から脱出し、事件の真相を解き明かすことができるのか? ホラーと本格推理が融合した、未体験の知的興奮が幕を開ける。

後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~

絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

日常探偵団2 火の玉とテレパシーと傷害

髙橋朔也
ミステリー
 君津静香は八坂中学校校庭にて跋扈する青白い火の玉を目撃した。火の玉の正体の解明を依頼された文芸部は正体を当てるも犯人は特定出来なかった。そして、文芸部の部員がテレパシーに悩まされていた。文芸部がテレパシーについて調べていた矢先、獅子倉が何者かに右膝を殴打された傷害事件が発生。今日も文芸部は休む暇なく働いていた。  ※誰も死なないミステリーです。  ※本作は『日常探偵団』の続編です。重大なネタバレもあるので未読の方はお気をつけください。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

仮面の裏の虚像

Ms.ward 19
ミステリー
○作品紹介  変わりのない高校生活を送っている椎名悟。友人である佐藤誠一から問われた。「正義とは何か」それぞれの思いが交錯する中で突如起こった事件。椎名悟はあるきっかけで事件の真相を追うが、その最中で第二の事件。不可解な点が見られる事件の真相は何なのか。 ○主な登場人物 ・椎名悟→主人公 ・佐藤誠一→友人 ・桑原智久→友人 ・桜田椿→友人 ・桜田楓→桜田椿の妹 ・川上隼斗→生徒会長 ・山下大五郎→クラスの担任 ・安倍→大男 ○作者よりコメント  (注)この作品は、暴力シーンを含みます  物語の都合上、人物が多々登場します。困惑しないために名前を省略するときがあります。ご了承下さい。  出来るだけリアルに、フェアに書きたいと思って書いています。もし真相を自ら明かしたいと思われた方は最終章を読む前に推理することをお勧めします。なおミステリーは第1章の終盤から始まります。始めから読んでもらえれば幸いです。  因みに表紙画像がバベルの塔です。色々ある中から1番見やすいものを選ばせていただきました。  最後に、処女作ですので暖かい目で読んで頂ければ幸いです。

雨の庭【世にも奇妙なディストピア・ミステリー】

友浦乙歌@『雨の庭』続編執筆中
ミステリー
【イラストも新たになって書籍『雨の庭』文芸社から発売中!】 【コミカライズ版『雨の庭』Kindleその他電子書籍で発売中(連載)】 そこは生活に関するものが「天蔵(アマゾウ)」という通販サービスを通して何でも無料で手に入る楽園のような世界だった。 仕事も学校も試験もなんにもない――。 人々は毎日、時間もお金も心配せず楽しく過ごしている。 「でも、なんで無料なの??」 ふとこの世界に疑問を感じた律歌と北寺は、好奇心に任せてこの場所のすべてを探索することにする。 この世界は何なのか? 何故自分たちはこの世界に来たのか? 触れてはいけない領域に辿り着いた時、 次第に明らかになっていくのは――。 ディストピアの中の人間ドラマ! ※現在、続編『霞の庭』を構想中です。続きから載せていきますので「お気に入り登録」は解除せずにお待ちください。 ※カクヨム、小説家になろう、エブリスタ、マグネット等でも公開しています。 ※イラストはあざらふさんに、タイトルロゴはKyoさんに依頼して描いていただきました。 ※お気に召した場合ブックマークや感想をいただけると創作の活力になります。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...