探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅠ:連続ひったくり事件

#13

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 「はい、工藤です。」
 日下部さんが、渡してきたスマホに耳を当てた。
 『クドー、靴買いに行きたいから、明日出てこれる?』
 電話越しに、少し眠そうな声で言う。
 「明日って、この事件が終わるまでは無理ですよ、天木さん…。」
 「うん、だから今日で終わらせる。」
 「え?」


 事件が起きてから、一ヶ月。別に、金に困っていたわけではなかった。ただ単純に警察に対する復讐に近かった。
復讐と言っても、自分が何かされたわけではない。
 そして、昨日の六件目で終わる予定だった。昨日は或る意味失敗だった。
 今日、その埋め合わせのため、もう一件起こす。
 廃工場の中で愛用のオートバイにバイクにまたがった。
 エンジンを掛けようとした、まさにその時、電動式のシャッターが開いた。まだリモコンはいじっていない。
 しかし、現に今動いている。このシャッターは自分でシステム管理している。言わば、彼しか開けることしかできない。
 徐々に、シャッターが開いていき、外に立っている人影が見えた。どうやら、男の様だった。黒いミリタリージャケットを着こみ、袖は肘辺りまで捲られていた。
 自分の背丈分まで開いた辺りで、男がコツコツと近づいてくる。高校まで空手をやっていたからなのか、それとも本能なのかは分からない。男の目を見た瞬間、感じた。
 『殺られる』
 バイクを降り、男に立ち向かう。
 「誰だ?お前。」
 男は無言だった。
 「答えないなら良い。悪いことは言わない、どいてくれ。」
 「どいてどうする。」
 初めて男が口を開く。
 「お前には関係ない事だ。それより、あのシャッターどうやって開けた?」
 少し、イラつきながら言った。
 「お前には関係ない。」
 イラつきが頂点に達した。
 「上等。」
 そのまま、男の腹部に思いっきりボディーブローを叩き込んだ。普通なら一発ノックアウトの力量だ。自慢ではないが、三十代にもなって、ボクシングジムに週三で通うほどは鍛えている。拳の重さだって、相当なものだ。
 前述した通り、普通なら前かがみに倒れ込んでも可笑しくない威力だ。
だが、男は普通じゃなかった。感触は服越しではあるが、生身だ。決して、鉄板やプロテクターを仕込んでいるわけでもない。
 男は顔色一つ変わっていなかった。
 「そんなものか…。」
 男がぼそっと言った。
 「舐めるな!」
 そう言い、さっきとは別に、顔面目掛け回し蹴りをした。
 それも、今度は手で防がれた。それも眉一つ動かさず。
 「正当防衛。」
 またしても男がぼそっと、喋った瞬間、男が視界から消え、俺の身体は宙を浮いていた。
 回し蹴りをした際の軸足を蹴り払われた。しかし、俺だってこのくらいは慣れている。そのまま、受け身を取り、男からの二撃目をかろうじてよけた。
 今の一瞬で分かった。この男強いだけじゃなく、疾い。
 そのまま、お互い打ち合いになったが、この男は化物だった。いくら殴ろうが、蹴ろうが、防がれ、稀に当たっても、大して効いてもいない…。仕舞いには、こっちの方の体力が切れてきた。
 「肩で呼吸してるぞ。」
 男が腕組みしながら今度は、テンションが上がっているのか、はっきりと聞こえる声で言った。おまけに顔も、にやついていた。
 「お前…何者だ…。」
 息を切らしながら、男に聞いた。

 「俺は、一般捜査機関・ホームズ探偵事務所所属・通信捜査及び護衛担当長・日下部竜司。元某国の民間軍事会社に所属していた。ちなみに、ここのシャッターは俺が開けた。」
 「軍人…か。強い…わけだ…。」
 半笑いになりながら、呟いた。
 「シャッターを開けられたって事は、あのコードが理解できたのか…。」
 「多少時間はかかったが、何とかなった。」
 「降参だ…。」

 シャッターの外側から、煌々と光が照らされた。何やら大きいシルエットが見える。
 その光の中から幾つかの影が見えた。
 「リュー起こしておいて、正解だったよ。」
 「流石に手加減してやれよ…。」
 「リュー君の車、腰痛くなるんですけど…。」
 「カシワギさんそこは我慢して。それより、ミヤマさんまで来る必要あった?」
 「君がやりすぎない様に注意しに来ただけですよ。」
 「それよりも、貴方が犯人だったんですね。、太田義元。」

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