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ファイルⅠ:連続ひったくり事件
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第四の事件現場に着いたのは、ホームズを出発して、三十分ほど経った時だった。相変わらず、雨は降り続いていたものの、朝方よりは弱くなっていた。
例の駐車場に車を止め、天木さんたち三人は、傘を差し、交差点に立った。
「そういえば、この自販機のカメラはどうでした?」
工藤刑事が、天木さんに訊ねる。しかし、天木さんの代わりに答えたのは、日下部さんだった。
「ダメだった。カメラ、壊れてた。」
「そう…ですか…。」
工藤刑事が肩を落とす…。せっかくの手がかりだと思ったが結局は振り出しに戻った様な気がした。
「クドウさん、大丈夫。アマキさんあの後、一晩中、捜査資料、見てた。多分今日は、本気。」
日下部さんが励ますように、ニコリと笑った。
「リュー、クドー。持ってて…。」
天木さんが持っていた傘を日下部さんに、掛けていたショルダーバッグを工藤刑事渡した。日下部さんは自分の差している傘を、天木さんの頭上にかざした。
「思う存分。」
「ありがと。」
そういう短い会話が交わされた後、天木さんが袖を少しだけ捲り、両手を出した。文字通り“手ぶら”な状態になった。
すっと天木さんの瞼が閉じる…。
「天木さん?」
そう呟くはずだったが、日下部さんに制止された…。
しばらく経った後、天木さんが目をゆっくりと開けた。
「リュー、クドー…。商店街、行くよ。」
そういうと、日下部さんから傘を受けとり、工藤刑事からひったくる様に自分のバッグをもぎ取った。そして、ゆっくりと歩きだした。
工藤刑事と日下部さんが、天木さんを追うように歩き出す。
「天木さんどういうことですか?」
「クドー、可笑しくない?ここまで、何も手がかりがない。一件目から三件目はカメラやナンバーの確認、目撃者等の何かしらの手がかりがあった。なのに、この現場だけ、何もなさすぎる。そんなことは、あり得ない。
ただ、ここならばの話。」
天木さんが楽しそうに説明する。
「でも、あそこには自販機にカメラがあったんですよね。」
工藤刑事が質問する。
「今まですべて違う方法で逃走、目撃されている。二件目と同じ防犯カメラに抑えるはずがない…。」
「じゃ、どうして、商店街。」
日下部さんも質問した。
「住宅街にはなくて、商店街にはあるものがある。とりあえず、着いてきて。」
そう言い、天木さんが歩を進める。
十分ほど歩いて、商店街にたどり着いた。雨は降っていたが商店街は活気があった。アーケードがかかっているから、雨には濡れない。アマキさんは、どんどん進んで行き、ある店舗の前で止まった。
カメラの販売店だった。ショーウィンドウには、フィルム式のレトロなカメラもあれば、最新の一眼レフのカメラまであった。もちろん、ビデオカメラも。
「なるほど。」
工藤刑事も納得した。
「そ、リュー。」
「了解。」
日下部さんが店内に入り、ビデオカメラを購入して出てきた。
「リュー、できる?」
天木さんが、日下部さんに質問する。
「当然。」
「よし、じゃぁ私おうち帰る。」
そういうと、天木さんが来た道を辿っていく。
「ちょ、ちょっと、天木さん?できるって何?今後の捜査は?」
「今日はツッチーたちに任せる。」
そう言い、歩みを止めない。
天木さん、そう言いかけたがまた日下部さんに止められた。
「アマキさん、昨日、寝てない。一晩中、捜査資料、インプット、してた。さっき、やってたやつは、シミュレーション。」
「シミュレーション?」
日下部さんが頷く。
「資料、風景、環境、脳内で、可能な限り、起きうる事象、全て再現する。アマキさんに、見えたのは、俺にもわからない。多分これがアマキさんの答え。」
「答えって…。」
「ここからは俺の番。ようやっと、目が覚めてきた。」
日下部さんのしゃべり口調が、変わってきた。
「クドーさん。これからホームズに戻ってこいつを調べましょう。」
「あ、はい。」
目つきも少し変わったような気がした。
「その前に、アマキさん送っていく。」
そう言い、また、アマキさんの後を追いかける。
「アマキちゃん、大丈夫かなぁ。」
ホームズで日下部さんのパソコンをいじりながら、柏木さんが呟く。
「あの子は強いですよ、この二年間、彼無しでも、確実な成果を残してきましたから。」
ミヤマさんが柏木さんに答える。
「逆を言えば、暴いてしまった事件も多い、そういうことでもあるよね…。」
「カエ、それは言わない約束だろ…。」
土屋さんが諭すように言う。
例の駐車場に車を止め、天木さんたち三人は、傘を差し、交差点に立った。
「そういえば、この自販機のカメラはどうでした?」
工藤刑事が、天木さんに訊ねる。しかし、天木さんの代わりに答えたのは、日下部さんだった。
「ダメだった。カメラ、壊れてた。」
「そう…ですか…。」
工藤刑事が肩を落とす…。せっかくの手がかりだと思ったが結局は振り出しに戻った様な気がした。
「クドウさん、大丈夫。アマキさんあの後、一晩中、捜査資料、見てた。多分今日は、本気。」
日下部さんが励ますように、ニコリと笑った。
「リュー、クドー。持ってて…。」
天木さんが持っていた傘を日下部さんに、掛けていたショルダーバッグを工藤刑事渡した。日下部さんは自分の差している傘を、天木さんの頭上にかざした。
「思う存分。」
「ありがと。」
そういう短い会話が交わされた後、天木さんが袖を少しだけ捲り、両手を出した。文字通り“手ぶら”な状態になった。
すっと天木さんの瞼が閉じる…。
「天木さん?」
そう呟くはずだったが、日下部さんに制止された…。
しばらく経った後、天木さんが目をゆっくりと開けた。
「リュー、クドー…。商店街、行くよ。」
そういうと、日下部さんから傘を受けとり、工藤刑事からひったくる様に自分のバッグをもぎ取った。そして、ゆっくりと歩きだした。
工藤刑事と日下部さんが、天木さんを追うように歩き出す。
「天木さんどういうことですか?」
「クドー、可笑しくない?ここまで、何も手がかりがない。一件目から三件目はカメラやナンバーの確認、目撃者等の何かしらの手がかりがあった。なのに、この現場だけ、何もなさすぎる。そんなことは、あり得ない。
ただ、ここならばの話。」
天木さんが楽しそうに説明する。
「でも、あそこには自販機にカメラがあったんですよね。」
工藤刑事が質問する。
「今まですべて違う方法で逃走、目撃されている。二件目と同じ防犯カメラに抑えるはずがない…。」
「じゃ、どうして、商店街。」
日下部さんも質問した。
「住宅街にはなくて、商店街にはあるものがある。とりあえず、着いてきて。」
そう言い、天木さんが歩を進める。
十分ほど歩いて、商店街にたどり着いた。雨は降っていたが商店街は活気があった。アーケードがかかっているから、雨には濡れない。アマキさんは、どんどん進んで行き、ある店舗の前で止まった。
カメラの販売店だった。ショーウィンドウには、フィルム式のレトロなカメラもあれば、最新の一眼レフのカメラまであった。もちろん、ビデオカメラも。
「なるほど。」
工藤刑事も納得した。
「そ、リュー。」
「了解。」
日下部さんが店内に入り、ビデオカメラを購入して出てきた。
「リュー、できる?」
天木さんが、日下部さんに質問する。
「当然。」
「よし、じゃぁ私おうち帰る。」
そういうと、天木さんが来た道を辿っていく。
「ちょ、ちょっと、天木さん?できるって何?今後の捜査は?」
「今日はツッチーたちに任せる。」
そう言い、歩みを止めない。
天木さん、そう言いかけたがまた日下部さんに止められた。
「アマキさん、昨日、寝てない。一晩中、捜査資料、インプット、してた。さっき、やってたやつは、シミュレーション。」
「シミュレーション?」
日下部さんが頷く。
「資料、風景、環境、脳内で、可能な限り、起きうる事象、全て再現する。アマキさんに、見えたのは、俺にもわからない。多分これがアマキさんの答え。」
「答えって…。」
「ここからは俺の番。ようやっと、目が覚めてきた。」
日下部さんのしゃべり口調が、変わってきた。
「クドーさん。これからホームズに戻ってこいつを調べましょう。」
「あ、はい。」
目つきも少し変わったような気がした。
「その前に、アマキさん送っていく。」
そう言い、また、アマキさんの後を追いかける。
「アマキちゃん、大丈夫かなぁ。」
ホームズで日下部さんのパソコンをいじりながら、柏木さんが呟く。
「あの子は強いですよ、この二年間、彼無しでも、確実な成果を残してきましたから。」
ミヤマさんが柏木さんに答える。
「逆を言えば、暴いてしまった事件も多い、そういうことでもあるよね…。」
「カエ、それは言わない約束だろ…。」
土屋さんが諭すように言う。
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