探偵注文所

八雲 銀次郎

文字の大きさ
上 下
18 / 281
ファイルⅠ:連続ひったくり事件

# 9

しおりを挟む
 第四の事件現場に着いたのは、ホームズを出発して、三十分ほど経った時だった。相変わらず、雨は降り続いていたものの、朝方よりは弱くなっていた。
 例の駐車場に車を止め、天木さんたち三人は、傘を差し、交差点に立った。
 「そういえば、この自販機のカメラはどうでした?」
 工藤刑事が、天木さんに訊ねる。しかし、天木さんの代わりに答えたのは、日下部さんだった。
 「ダメだった。カメラ、壊れてた。」
 「そう…ですか…。」
 工藤刑事が肩を落とす…。せっかくの手がかりだと思ったが結局は振り出しに戻った様な気がした。

 「クドウさん、大丈夫。アマキさんあの後、一晩中、捜査資料、見てた。多分今日は、本気。」
 日下部さんが励ますように、ニコリと笑った。
 「リュー、クドー。持ってて…。」
 天木さんが持っていた傘を日下部さんに、掛けていたショルダーバッグを工藤刑事渡した。日下部さんは自分の差している傘を、天木さんの頭上にかざした。
 「思う存分。」
 「ありがと。」
 そういう短い会話が交わされた後、天木さんが袖を少しだけ捲り、両手を出した。文字通り“手ぶら”な状態になった。
 すっと天木さんの瞼が閉じる…。
 「天木さん?」
 そう呟くはずだったが、日下部さんに制止された…。
 
 しばらく経った後、天木さんが目をゆっくりと開けた。
 「リュー、クドー…。商店街、行くよ。」
 そういうと、日下部さんから傘を受けとり、工藤刑事からひったくる様に自分のバッグをもぎ取った。そして、ゆっくりと歩きだした。
工藤刑事と日下部さんが、天木さんを追うように歩き出す。
 「天木さんどういうことですか?」
 「クドー、可笑しくない?ここまで、何も手がかりがない。一件目から三件目はカメラやナンバーの確認、目撃者等の何かしらの手がかりがあった。なのに、この現場だけ、何もなさすぎる。そんなことは、あり得ない。
 ただ、ここならばの話。」
 天木さんが楽しそうに説明する。
 「でも、あそこには自販機にカメラがあったんですよね。」
 工藤刑事が質問する。
「今まですべて違う方法で逃走、目撃されている。二件目と同じ防犯カメラに抑えるはずがない…。」
 「じゃ、どうして、商店街。」
 日下部さんも質問した。
 「住宅街にはなくて、商店街にはあるものがある。とりあえず、着いてきて。」
 そう言い、天木さんが歩を進める。

 十分ほど歩いて、商店街にたどり着いた。雨は降っていたが商店街は活気があった。アーケードがかかっているから、雨には濡れない。アマキさんは、どんどん進んで行き、ある店舗の前で止まった。
 カメラの販売店だった。ショーウィンドウには、フィルム式のレトロなカメラもあれば、最新の一眼レフのカメラまであった。もちろん、ビデオカメラも。
 「なるほど。」
 工藤刑事も納得した。
 「そ、リュー。」
 「了解。」
 日下部さんが店内に入り、ビデオカメラを購入して出てきた。
 「リュー、できる?」
 天木さんが、日下部さんに質問する。
 「当然。」
 「よし、じゃぁ私おうち帰る。」
 そういうと、天木さんが来た道を辿っていく。
 「ちょ、ちょっと、天木さん?できるって何?今後の捜査は?」
 「今日はツッチーたちに任せる。」
 そう言い、歩みを止めない。
 天木さん、そう言いかけたがまた日下部さんに止められた。

 「アマキさん、昨日、寝てない。一晩中、捜査資料、インプット、してた。さっき、やってたやつは、シミュレーション。」
「シミュレーション?」
日下部さんが頷く。
「資料、風景、環境、脳内で、可能な限り、起きうる事象、全て再現する。アマキさんに、見えたのは、俺にもわからない。多分これがアマキさんの答え。」
「答えって…。」
 「ここからは俺の番。ようやっと、目が覚めてきた。」
 日下部さんのしゃべり口調が、変わってきた。
 「クドーさん。これからホームズに戻ってこいつを調べましょう。」
 「あ、はい。」
 目つきも少し変わったような気がした。
 「その前に、アマキさん送っていく。」
 そう言い、また、アマキさんの後を追いかける。

 「アマキちゃん、大丈夫かなぁ。」
 ホームズで日下部さんのパソコンをいじりながら、柏木さんが呟く。
 「あの子は強いですよ、この二年間、彼無しでも、確実な成果を残してきましたから。」
 ミヤマさんが柏木さんに答える。
 「逆を言えば、暴いてしまった事件も多い、そういうことでもあるよね…。」
 「カエ、それは言わない約束だろ…。」
 土屋さんが諭すように言う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

アルファポリス投稿ガイドラインについて

ゆっち
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの利用規約、投稿ガイドラインについて考察。 ・2024年3月からスコア切り始まる。 ・ptが高いのに0スコアになるのは何故? ・一定の文字数が必要 曖昧で解らない部分は運営様に問い合わせ、規約に則った投稿を心掛けています。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

Strange Days ― 短編・ショートショート集 ―

紗倉亞空生
ミステリー
ミステリがメインのサクッと読める一話完結タイプの短編・ショートショート集です。 ときどき他ジャンルが混ざるかも知れません。 ネタを思いついたら掲載する不定期連載です。

アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための10の技

MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。 私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。 すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。 そんな方に言いたいです。 アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。 あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。 アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。 書いたまま放ったらかしではいけません。 自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。 国会議員の重光幸太郎先生の地元である。 そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。 ★このお話は、鏡野ゆう様のお話 『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。 ★他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914
ミステリー
「転生」しない。 「異世界」行かない。 「ダンジョン」潜らない。 「チート」存在しない。 ちょっぴり不思議だけど、ちゃんとリアルな世界に足をついて生きてる。 そんな人達の話が読んでみたい――という、そこの変わった貴方。 いらっしゃいませ。 お待ちしておりました……(笑) 注・本作品はフィクションです。作中に登場する人物及び組織等は実在する物とは異なります。あらかじめご了承下さい。 駅のホームから落ちて死んだ男の死をキッカケに、出会った二人の男。野崎は、刑事として仕事に追われ、気が付けば結婚15年。子供は出来ず、妻との仲も冷え切っていた。そんなある日、野崎は大学時代の恩師から、不思議な力を持つ宇佐美という男を紹介される。誰にも心を開かず、つかみどころの無い宇佐美に初めは戸惑う野崎だが、やがて彼が持つ不思議な力に翻弄され、それまでの人生観は徐々に崩れていく。対する宇佐美もまた、自分とは真逆の生き方をしている野崎に劣等感を抱きながらも、その真っすぐな気持ちと温かさに、少しずつ心を開いていく。 それぞれの人生の節目に訪れた出会い。 偶然のように見える出会いも、実はすべて決まっていたこと。出会うべくして出会ったのだとしたら…あなたはそれを運命と呼びますか?

処理中です...