探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅠ:連続ひったくり事件

#7

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 翌日の朝、テレビでは六件目ひったくり事件で持ち切りだった。新聞でも一面を飾り、おまけに警察に対する批判も書かれていた。
 工藤刑事は一度、本庁に出勤し、その足で、ホームズに向かった。
 昨日の茹だる様な暑さとは正反対で、朝から一日天気がすぐれないらしい。実際、もうすでに雨がぽつぽつと降り続いてる。駅前にあるデジタルタイプの温度計は十度と表示していた。

 工藤刑事は、差し入れ用の飲食物をコンビニで買った。
 「おはようございます。」
 工藤刑事がホームズに着いたのはまだ九時ちょっと前だった。しかし、ミヤマさん含め、ホームズの方々は揃っていた。各々、好き勝手やってる感じだった。天木さんと土屋さんは本を読みながらチェスをやっていた。本は日本語ではないのは、工藤刑事にも分かった。
 ミヤマさんはグラスを磨いていた。柏木さんはどうやら、軍艦のプラモを作っているようだった。女性としてはかなり珍しい…。日下部さんはというと、ヘッドホンをしながら、パソコン近くにあった長椅子に横になっていた。どうやら本当に寝ているようだった。
 「おはよークドー。」
 天木さんが、こちらには一度も目を合わせず、返事してきた。

 「おはよう。工藤さんも何かお飲みになりますか?」
 唯一、ミヤマさんがこっちを見て挨拶してくれた。
 「じゃぁ、コーヒーブラックで。あと、これ差し入れです。」
 「お、サンキュー。」
 と土屋さんが受け取り、お菓子コーナーと化している端の丸テーブルに持って行った。
 「ちょ、ちょっと、ツッチー!まだ終わってない!」
 天木さんが叫ぶ。
 「終わったよ、アマキの負けだ。」
 「うぅぅ」とうなりながら、テーブルに伏せる見た目、中学生の天木さん。少し、可哀そうだった。

 「できたー!」
今度は柏木さんが叫んだ。机の上には完成された軍艦のプラモが乗っていた。
 「できたよ、ミヤマ!あれ?クドーさんいつの間に?」
 どうやら、工藤刑事の存在に気付いてなかったようだ。ミヤマさんがカウンター越しに、そのプラモを見る。
 「赤城だね?」
 ミヤマさんが柏木さんに訊ねる。
 「せいかーい。」
 「へぇ~、最近のプラモはよくできてるなぁ…。」
 土屋さんも感心したように、プラモを眺める。
 「柏木さん器用なんですね…。」
 工藤刑事も思わずつぶやく。
 
 「いやー一番器用なのはリュー君だよー。あのパソコンとかモニターとか全部リュー君が自作したやつだし、時間あるとき免許書見せてもらいな?彼、今二五歳だけどフルビットってやつだから。」

 フルビット免許証とは、運転免許証の種類の欄が全て埋まっている状態。その気になれば、最短三年で埋められるが、費用も時間もそれなりに掛かるため、十年ほどかかると思った方が良い。
  
 「それより、クドーさん。四件目の現場もう一度行きたい。リューも連れて。」
 天木さんが、アイスココア片手にリクエストしてくる。
 「それはいいですけど。本部の通信監理はどうするんですか?」
 「あたしが変わりできるから、問題ないよ。」
 柏木さんが答えた。そう言っている間に、天木さんが日下部さんを起こしに行く。
 「リュー!起きて!現場行くよ!」
 日下部さんを萌え袖でペチペチ叩く。日下部さんも少し驚いた感じでむくりと起き上がる。
 「痛い。アマキさん、何をする。」
 「!行くよ?」
 天木さんがはしゃいだ子どもみたいな感じで、日下部さんを立たせる。
 「解った。」
 そういうと日下部さんが両手を頭の上で組み、伸びをする。彼の体中からポキポキとなりまくる。インナーシャツの裾の隙間から割れた腹筋がチラリと見えたのを、柏木さんは見逃さなかった。
 「相変わらず、良い体してる…。」
 「ちゃんと、鍛えている、証拠。」
 日下部さんが欠伸交じりに答えた。
 「アマキ、リューを連れて行くってことは、つまりそういうことだな?」
 「うん、調べたいことがあるんだ。リューにも協力してもらいたい。」
 「了解。車、準備してくる。」
 そういうと、足早に店を出て行った。それとすれ違うように、警察チームも入ってくる。
 「工藤早いなぁ。」

 「よし、俺たち昨日起きた六件目の現場付近を捜査してくる、アマキたちは引き続き、五件目までの現場を洗ってくれ。カエはリューの仕事を代行。」
 「ラジャー!いくよ、クドー!」
 「待った!」
 そう言って、天木さんを止めたのはミヤマだった。
 「これ、リュー君に。」
 と言って天木さんに渡したのは水筒だった。
 「そっか、今日一滴も飲んでないもんね…。了解。」
 天木さんが申し訳なさそうに答えた後、工藤刑事とホームズを出て行った。
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