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深淵の観測者
#3
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あの肝試しがあってから約2週間後、例の彼は、事故に遭い背中に大怪我をした。
幸い、たまたま私が彼の後ろを歩いていたこともあり、なんとか助けることができた…。
と言うのも、この間の”うしろ“の意味が気になり、彼の後を着けていた。そして、先述の事故が発生した。
怪我の内容は、打ちどころによっては、内蔵摘出も辞さないようなものだったが、なんとか、それを免れた。
「ありがとな。まさか後ろから車が突っ込んでくるなんて…。君が手を引っ張ってくれなかったら、どうなってたことか…。」
病室のベッドで横になった状態の彼がそう言った。
「た、たまたま通りかかっただけですよ…。それにしても、無事で何よりです。」
口が裂けても、後を着けていたことを口にできない…。なんとかして誤魔化さないと…。
彼は数秒考え込むように黙りこくった後、口を開いた。
「あの時、君は何を見たんだい?」
「え?」
「あのトンネルに行った時のことさ。もし何かを見て、何かを聞いていたのなら、君が俺を助けてくれたのも、何となく理解できる気がするんだ。」
「…。」
私が言葉に詰まらせていると、彼は痛いはずの身体を起こし、続けた。
「頼む、教えてくれ…。君が、見える人間なのは、何となく知っていた…。そのことは誰にも言わない…。教えてくれ!
俺も正直言うと、あのトンネルに入ってから、妙な視線を感じていて、器にはなっていたんだ…。頼む、何かあるなら、教えてくれ…。」
彼はそう言うと、深々と頭を下げた。普段の彼からは、そうする人物とは思えないが、あのトンネルの時以降、妙な関係はあるから、私は、包み隠さず話した。小さい頃から、この世のモノではないものが見え、感じ、聞こえることを…。そして、あのトンネルでの出来事を…。
話し終えると、彼は安堵したように、ため息を吐いた。
「そうか…。君は見えるのか…。俺は、昔から感じるだけ感じて、何かと霊障に悩まされることが多かったからなぁ…。」
彼はそう言うと、来ていた病衣の上着を脱ぎ、上半身を曝け出した。
父親以外の裸を見ることなんて、まずないため思わず目を逸らした。だが、彼の体中に見える、痣や傷が目立った。
「これは、昔から俺に寄ってきたモノにやられたものだ…。父さんたちは当然信じていないが、俺には分かるんだ。そう言ったモノが近づいているのが…。」
「…それで、私をあのトンネルに誘ったの?」
「いや、試したかったんだ…。俺には何となくでしか感じれないモノでも、君なら見える。逆に、君には見えなくても、俺には感じる…。
現に、トンネルにいた奴と、俺を事故に巻き込もうとした奴は気配がまるで違う…。」
確かに、彼が事故に見舞われる直前見えたのは、女性の霊だった…。トンネルで見たあの巨大な力は全くもって感じなかった
「…試したかったって、試してどうだったの?私は、何をすればいいの?」
「一緒に居て欲しい…。俺は、感じるだけで見えない。だから昔から、色々な目にあった…。君が俺の目になってくれれば、これ以上、嫌な目に合わなくてもいいかなぁと思って…。君もそうなんじゃないか?」
確かに、私も幼い頃から、幽霊や妖怪等言った類のものが見えたが、それが、普通の人間と区別させるのが難しかった。だから、嫌な思いを何度もした…。彼のような鋭敏な感覚の持ち主なら、私の悩みも減るかもしれない…。
「分かった…。ただし、学校では今まで通りに接してほしい…。その方が、お互いのためになると思うから…。」
「それは、善処する。ありがとう。」
彼はそう微笑んだ。
時間は1週間前に遡る。霊のトンネルに、着物を着た、背の低い女性と、腰に刀を携えた二人組がどこからともなく現れた。
「あなたの噂は、予々聞いてるわ。少しお話があってきたんだけど、出てきてくれない?」
女性がそう言うと、トンネル内に巨大な眼と、それを取り囲むように、大小様々な眼が無数に出現した。
―――なんだ、小娘。私を呼び出すとは、かなりの恐れ知らずよ…。
「アナタの力が欲しくて来た。」
―――そうか…。だが私は、ここから出る気は無いぞ!
眼は、周りの闇を使い、彼女等を襲いかかった。だが、隣にいた男に阻まれた。
「だから言ったでしょう…。土地に拘る者は、かなり強気だって…。」
男は、刀を取り出し、闇を払うように切りつけた。
闇は裂け、残ったのは、小さな眼だけを残した、小さな妖怪だった。
「これだけ瘴気を切り裂けば、当分大人しくなるだろう。」
「ありがとう、じゃぁ、もう一度話をしようか…。」
女はそう言うと、地面に座り、目玉の妖怪を見下ろした。
幸い、たまたま私が彼の後ろを歩いていたこともあり、なんとか助けることができた…。
と言うのも、この間の”うしろ“の意味が気になり、彼の後を着けていた。そして、先述の事故が発生した。
怪我の内容は、打ちどころによっては、内蔵摘出も辞さないようなものだったが、なんとか、それを免れた。
「ありがとな。まさか後ろから車が突っ込んでくるなんて…。君が手を引っ張ってくれなかったら、どうなってたことか…。」
病室のベッドで横になった状態の彼がそう言った。
「た、たまたま通りかかっただけですよ…。それにしても、無事で何よりです。」
口が裂けても、後を着けていたことを口にできない…。なんとかして誤魔化さないと…。
彼は数秒考え込むように黙りこくった後、口を開いた。
「あの時、君は何を見たんだい?」
「え?」
「あのトンネルに行った時のことさ。もし何かを見て、何かを聞いていたのなら、君が俺を助けてくれたのも、何となく理解できる気がするんだ。」
「…。」
私が言葉に詰まらせていると、彼は痛いはずの身体を起こし、続けた。
「頼む、教えてくれ…。君が、見える人間なのは、何となく知っていた…。そのことは誰にも言わない…。教えてくれ!
俺も正直言うと、あのトンネルに入ってから、妙な視線を感じていて、器にはなっていたんだ…。頼む、何かあるなら、教えてくれ…。」
彼はそう言うと、深々と頭を下げた。普段の彼からは、そうする人物とは思えないが、あのトンネルの時以降、妙な関係はあるから、私は、包み隠さず話した。小さい頃から、この世のモノではないものが見え、感じ、聞こえることを…。そして、あのトンネルでの出来事を…。
話し終えると、彼は安堵したように、ため息を吐いた。
「そうか…。君は見えるのか…。俺は、昔から感じるだけ感じて、何かと霊障に悩まされることが多かったからなぁ…。」
彼はそう言うと、来ていた病衣の上着を脱ぎ、上半身を曝け出した。
父親以外の裸を見ることなんて、まずないため思わず目を逸らした。だが、彼の体中に見える、痣や傷が目立った。
「これは、昔から俺に寄ってきたモノにやられたものだ…。父さんたちは当然信じていないが、俺には分かるんだ。そう言ったモノが近づいているのが…。」
「…それで、私をあのトンネルに誘ったの?」
「いや、試したかったんだ…。俺には何となくでしか感じれないモノでも、君なら見える。逆に、君には見えなくても、俺には感じる…。
現に、トンネルにいた奴と、俺を事故に巻き込もうとした奴は気配がまるで違う…。」
確かに、彼が事故に見舞われる直前見えたのは、女性の霊だった…。トンネルで見たあの巨大な力は全くもって感じなかった
「…試したかったって、試してどうだったの?私は、何をすればいいの?」
「一緒に居て欲しい…。俺は、感じるだけで見えない。だから昔から、色々な目にあった…。君が俺の目になってくれれば、これ以上、嫌な目に合わなくてもいいかなぁと思って…。君もそうなんじゃないか?」
確かに、私も幼い頃から、幽霊や妖怪等言った類のものが見えたが、それが、普通の人間と区別させるのが難しかった。だから、嫌な思いを何度もした…。彼のような鋭敏な感覚の持ち主なら、私の悩みも減るかもしれない…。
「分かった…。ただし、学校では今まで通りに接してほしい…。その方が、お互いのためになると思うから…。」
「それは、善処する。ありがとう。」
彼はそう微笑んだ。
時間は1週間前に遡る。霊のトンネルに、着物を着た、背の低い女性と、腰に刀を携えた二人組がどこからともなく現れた。
「あなたの噂は、予々聞いてるわ。少しお話があってきたんだけど、出てきてくれない?」
女性がそう言うと、トンネル内に巨大な眼と、それを取り囲むように、大小様々な眼が無数に出現した。
―――なんだ、小娘。私を呼び出すとは、かなりの恐れ知らずよ…。
「アナタの力が欲しくて来た。」
―――そうか…。だが私は、ここから出る気は無いぞ!
眼は、周りの闇を使い、彼女等を襲いかかった。だが、隣にいた男に阻まれた。
「だから言ったでしょう…。土地に拘る者は、かなり強気だって…。」
男は、刀を取り出し、闇を払うように切りつけた。
闇は裂け、残ったのは、小さな眼だけを残した、小さな妖怪だった。
「これだけ瘴気を切り裂けば、当分大人しくなるだろう。」
「ありがとう、じゃぁ、もう一度話をしようか…。」
女はそう言うと、地面に座り、目玉の妖怪を見下ろした。
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