上 下
31 / 72
廃洋館

#11

しおりを挟む
 撮影用の照明を何台か点け、玄関の辺りを照らしのだが、恐ろしさは、変わらぬままだ。
 「そう言えば、中に入るんですよね?鍵とかって、どうするんですか?」
 大谷が、そう寺井さんに訊ねた。
 「不動産屋に言って、予め鍵は預かっている。」
 「不動産屋さんが管理しているんですか?」
 洋館とは言え、かつては人が住んでいた、建物。当然管理する人が居る筈だが、まさか、不動産会社が管理しているとは、思わなかった…。
 「管理と言っても、建物に関しては、殆ど手つかずらしい。鍵を持っているってだけっぽかったな。」
 寺井さんが、機材の準備をしつつ、そう答えた。きっと誰も、引き取り手が現れなかったのだろう…。
 
 「さぁ、夜になりました。見て下さい。かなりの雰囲気が、出ていますね…。これから、この建物内に入って行って、中の様子を、見て行きましょう。」
 私たちは、予定通り、ロケを開始した。怖くないと言えば、嘘になるが、私もアナウンサー。恐怖など噛み殺すくらいの度胸は、嫌でも、鍛えられた。ここは、頑張るしか、私には、残されていない…。
 「では、この鍵を使って、玄関の扉を開けて行きましょう。」
 私たちは、玄関に近づき、鍵穴に、鍵を刺した。
 「え?」
 そう、多き声を上げたのは、大谷だった。私は驚き、彼の方を、向き直った。大谷の持っていたカメラは、私ではなく、建物の物陰の方を見ていた。
 「どうした?」
 寺井さんも彼に釣られる様に、持っていた、照明機材を、そちらの方に向けた。だが、そこには、何も見えない。
 「何?」
 私も、流石に怖くなり、彼に訊ねた。
 「…今…。“何か”がこっちをじっと見つめていた気がして…。」
 「“何か”って何だ?人か?」
 「解りません…。ただ、眼光の様な物が、チラリと、一瞬見えたので…。」
 「地面からの高さは、どのくらいだった?」
 「あの窓の桟より、少し、高いくらいです。」
 大谷は、指で、その窓を示した。地面から窓までの高さは、大体、150センチ程。それより少し高いとなると、160くらいになるだろう…。
 「なるほど、人と同じサイズか…。ちょっと見てくる。お前らは、ここで、待っていろ。」
 そう言うと、寺井さんは、物陰の方に向かって歩き出した。
 「ちょ、ちょっと、危ないですよ。人じゃなくて、獣だったら、どうするんですか?」
 「それを、確かめてくる。大丈夫だ、危険だと判断したら、直引き返すか、悲鳴上げるから。」
 冗談でも、冗談とも取れない、ことを言い放ち、寺井さんは、モバイルタイプの照明器具を持ち、再度、歩き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

AstiMaitrise

椎奈ゆい
ホラー
少女が立ち向かうのは呪いか、大衆か、支配者か______ ”学校の西門を通った者は祟りに遭う” 20年前の事件をきっかけに始まった祟りの噂。壇ノ浦学園では西門を通るのを固く禁じる”掟”の元、生徒会が厳しく取り締まっていた。 そんな中、転校生の平等院霊否は偶然にも掟を破ってしまう。 祟りの真相と学園の謎を解き明かすべく、霊否たちの戦いが始まる———!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ホラー掲示板の体験談

神埼魔剤
ホラー
とあるサイトに投稿された体験談。 様々な人のホラーな体験談を読んでいきましょう!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...