上 下
69 / 113
第三部

第七章 二度目の恋と最後の愛 2

しおりを挟む
「あ……の…………。クソメイド!!!」 

 カインは、まさかのミュルエナの行動を知り絶叫した。

「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。そんなにイライラしていると禿げますよ?」

「誰のせいでイライラしていると……?って、は?えっ?なっ!?」

「リアクション芸人ですか?う~ん、ちょっとイマイチですよ?そんなんじゃ、あの美少女ちゃんには飽きられちゃいますよ?」

「リアクション芸人ってなんだよ!!シーナとのことは放っとけ!!って、そうじゃない!!どっ、どうしてお前……」

「はい?何のことです?」

 絶叫したカインに、話しかけたのはカインのイライラの原因となっていたミュルエナだった。
 然も当然と言わんばかりに、その場にいる爆発に巻き込まれたはずのメイドを見たカインは、目を白黒させていた。
 ミュルエナはというと、混乱するカインの顔を見て口元をニヤニヤと歪めていた。
 そして、未だにカインが発言してこないことをいいことに、国王たちにニヤニヤ顔で話しかけたのだった。
 
「時に陛下たち、最新の面白ニュースがあるんですが、これくらいでどうです?」

 そう言って、指を五本国王に向けて見せた。
 すると、国王は首を振って指を二本ミュルエナに見せた。
 対するミュルエナは、さらに首を振って指を四本見せると、国王は指を三本に増やしていた。
 それを見たミュルエナは、「商談成立です」と言ってから、昨日の屋敷の外で起きた騒動や、カインとシーナのイチャイチャ話をし始めたのだ。
 これには、流石のカインも驚きはしたが直ぐに止めに入った。
 
「ちょっ、おまっ!!」

 しかし、ミュルエナはひらりひらりとカインの事を躱し、シーナを気絶させたところまで話し終えてしまったのだった。
 そして、カインに真顔になったミュルエナはあることを言った。
 
「旦那様、目、元に戻ってよかったですね。これも、あの美少女ちゃんの愛のなせる業なのでしょうか?」

「目?」

「はい。あの女の魅了に掛かった時から目が死んだ魚みたいに濁っていたじゃないですか?いまは、昔のような色に戻ってますよ?美少女ちゃんが、旦那さまの瞼にちゅっちゅしてくれたお陰ですね~」

「ちゅっちゅって……」

 カインは、そう言って赤面したのだった。しかし、良い年したおっさんであるカインの赤面など見たくもないミュルエナは、そんなカインを鼻で笑った。
 
「ぷっ、今更純情ぶってもキモいだけですよ?人目のある場所で、あんなに激しいキスをあんなに小さい美少女ちゃんにぶちかますなんて、流石ケダモノですね!!」

「おっ、お前!!事実ではあるが誤解を招くような言い方をするな!!」

「ぷぷぷっ!!そう言えば、旦那様はあっちの経験は済ませてますが、そっちはまだですよね?」

 ミュルエナの含みのある言い方にカインは首を傾げた。
 
「おい、そっちて何のことだ?んん?!!!まっ、まさか!!」

 一つだけ心当たりがあったが、それを知るのは自分だけのはずだと否定しつつも事実であれば口に出されるのは屈辱だとミュルエナを止めようとしたが遅かった。

「ぶっふっ!!げほげほ!!そっ、そんな訳で、ファーストキスは是非いいムードの中で、二人きりのシチュエーションの中でお願いしますよ」

 そういって、ミュルエナはカインの秘密を暴露して一人爆笑した。
 ひとしきり笑った後に、軽い口調でカインと国王に向かって言いたいことだけ言って、風のように去って行こうとしたのだ。
 
「んじゃ、ここに来た本題だけど、旦那様あたし、メイドやめるからよろしく。私物とかは既に撤収済みなので残ってるものは処分していいから。それと、陛下、いつもの口座によろしくね~」

 しかし、カインは改めて自分の協力者だったメイドの正体について考える必要があったのだ。
 身を翻したミュルエナをカインは全力で止めた。
 
「待て待て待て!!お前、どうやって!!」

「え~、面倒です」

「いやいやいや、お前の好きにさせたんだ、それくらい聞いてもいいだろう!!」

 カインがそう言うと、ミュルエナは「仕方ないですね」とかインに説明した。
 それはもう、簡潔過ぎる説明をしたのだった。
 
「えっと、もう気づいていると思いますが、部屋中に見えていた炎はフェイクです。ついでに煙も。で、旦那様が結界を張るまでに、思う存分ごうも、じゃなくて復讐して、制限時間になったので、仕掛けた爆薬に火を付けましたがなにか?」

「ええええ!!それだけ?」

「はい。それだけですが?まぁ、爆薬に火を付けた後は、直ぐに用意していた脱出口から逃げて、集まった人集りに混じって旦那様のこと詰ったり、野次ったりしてましたよ」

「は!?」

「だって、あの面倒くさい状況の中出ていくの億劫だったので。ということで、ズバッと色々分かったと思うので、今度こそ―――」

「待て待て!!もう一つ、結局お前は一体何だったんだ?俺は、お前のことただのメイドだと思っていたが、今回のことや、それ以前のことでも今思うとお前は手際が良すぎた。それに、易易と王宮に忍び込めるのも今思うと謎でしか無い……」

「あああぁ……。まっ、いっか。あたし、昔は裏の世界で仕事してたんだよね。色々あって足を洗ったんだけど、あの女に復讐するって色々しているうちに、また裏の世界に戻ったんだよね~。だから、闇討ち、暗殺、工作とか結構得意なんだよね~って、ことであたしの話は終わりね!!」

 そう言って、今度こそミュルエナは、風のように去っていったのだった。
 ミュルエナの去った謁見の間は、嵐の後の様に静まり返っていた。
 しかし、その空気は呆れたような国王の言葉によって破られたのだった。
 
「カインよ。お前は、本当に運がいい。メイド殿はああ言っていたが、実際は現在裏社会を仕切っている女ボスだからな……。彼女が本気で復讐していたらこの国……、いや、大陸全土が焦土と化していたかもしれん……。お前が、彼女と手を組んでくれたお陰で、被害はお前の屋敷がほんの少し壊れる程度で済んだんだ…………。ああ、本当に運が良かったぞ。それに、彼女に隠し事など出来るはずもない。彼女の持つ諜報能力は、大陸一だからな……」

 今更ながらに、とんでもないメイドを味方に付けていたことに頬を引きつらせたカインだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】転生したらモブ顔の癖にと隠語で罵られていたので婚約破棄します。

佐倉えび
恋愛
義妹と婚約者の浮気現場を見てしまい、そのショックから前世を思い出したニコル。 そのおかげで婚約者がやたらと口にする『モブ顔』という言葉の意味を理解した。 平凡な、どこにでもいる、印象に残らない、その他大勢の顔で、フェリクス様のお目汚しとなったこと、心よりお詫び申し上げますわ――

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...