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第十一話

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 周囲の視線や騒めきに困惑しているシユニナの元に駆け付けたミハエルは、羽織っていた上着を脱いでシユニナに着せた。
 そして、ぎゅっと強く抱きしめてからシユニナを横抱きにした。シユニナを抱き上げたミハエルは、ぐるっと周囲を見回して何かを確認すると、地獄の底から発したかのような冷酷極まりない声で言うのだ。
 
「後の処理は……。ああ、そうだな。アレがいい」

 その声は、そこまで大きな声ではなかったが、何故かその場にいた全員の耳に鮮明に聞こえてきたのだ。
 ほとんどの者が、足の力が抜けその場にへたり込む事態となったのだが、その時にはすでにミハエルは、その場を立ち去った後だった。
 
 
 
 ミハエルに横抱きにされたまま連れてこられたのは、ミハエルの執務室だった。
 しかし、執務室に入ったミハエルは、その部屋の奥に設置されている仮眠用のベッドが置かれている部屋にシユニナを連れ込んだのだ。
 優しくベッドの上に降ろされたシユニナは、初めて入った仮眠室が物珍しくてついついキョロキョロしてしまう。
 シユニナが物珍し気に部屋の中を見ている間に、ミハエルは入ってきた扉の鍵をそっと掛けてからシユニナを降ろしたベッドに座った。
 そして、シユニナを抱き上げて自分の膝を跨ぐように座らせた後に、強く抱きしめたのだ。
 
「えっ? 副団長様?」

「違う」

「えっと……」

「もう無理だ……」

 何が違って、何が無理なのか、全く分からなかった。
 しかし、シユニナは天啓を得たかのように突然ピンと来てしまう。
 
(まっ……、まさか……。ムキムキのマッチョの私の魅力にとうとうミーシャがメロメロに? そうなのね! って……。そんな訳ないわね。ミーシャは、見た目で人を好きになるような人じゃないわ。外見がムキムキのマッチョでも、元は女の私が好きになってもらえる訳がないわよね……)

 一人、そんなことを考えていたシユニナは、ふと違和感を覚えた。
 その違和感が何か考えていると、さらにミハエルに強く抱きしめられてしまう。
 
(抱きしめてもらえるのは嬉しいけれど……。何かしら? 胸が苦しい……?)

 胸の苦しさの理由が分からないシユニナは、その苦しさから逃れるためにミハエルの体を両手で強く推していた。
 
「くるしい……」

 シユニナが苦しがっていることに遅れて気が付いたミハエルは、慌ててその身を離していた。
 強い抱擁から解放されたシユニナは、ほっと息をついて胸を撫で下ろして……。
 
(あれ……? 何か……おかしいような……)

 今まで感じていた弾力のある胸筋の感触が無くなり、弾力はあるものの、指先が埋まっていくような途轍もない柔らかさがそこにはあったのだ。
 
 首を傾げながら何度も自分の胸を弄っていると、下腹部が何かに押し上げられるような感覚に襲われていた。
 いったい何が起こったのか確認するため、シユニナが視線を胸元に送ると、そこには見慣れない白い肌と、ボタンがいくつも飛んだシャツを押し上げるように真っ白な膨らみが二つ目に入ったのだ。
 
「あれ? これは何?」

 身に覚えのない白い二つの大きな膨らみを確かめるべくシャツを少しだけずらして見ると、そこには女性の乳房があったのだ。
 
「おっぱいだわ………………???????」

 口に出したその情報が正確に脳にたどり着くまでには数十秒ほどのラグがあった。
 脳に口に出した情報が遅れて届いたシユニナは、他所事のようにぼんやりとその事実を口にしていた。
 
「大きいおっぱい……。柔らかくて指が埋まっていくわ……。だけど弾力もあって……。あれ? あれ? おかしい……。えっ? 今揉んでいるおっぱいは誰のおっぱい……? 私の? …………?!!」

 事実を受け入れるまでに、自分の胸を揉みながらその様子を実況していたシユニナは、ようやくその事実に気が付くのだ。
 
「えっ? あっ……」

 信じられないという気持ちでシユニナが助けを求めるように視線を上げると、そこには顔を赤くさせたミハエルがいたのだ。
 視線があった瞬間、シユニナはとんでもない痴態を繰り広げていたことに気が付き、小さな悲鳴を上げて両手で自分自身を抱きしめるように身をかがめた。
 
「きっ……きゃぁーー!!」

 そう言って、シユニナが身をかがめた時、何か硬いものにさらに下腹部を下から押された気がして、何も考えられなくなっていた。
 そんなパニック状態のシユニナを宥めるようにミハエルは、優しく抱きしめて背中をトントンと叩いてくれるのだ。
 
 心地よいリズムにいつしかシユニナは、落ち着きを取り戻していた。
 少しづつ考える余裕が出て来たシユニナは、今の状況が色々な意味で不味いことに気が付く。
 
 どういう訳なのか女に戻っていること。
 そして、女性が苦手なミハエルに半裸のような状態で抱きしめられていること。
 
 この途轍もない気まずい状況を最初に破ったのはミハエルだった。
 
「悪い。シユンが今、すごく混乱していることは分かっているんだ……。だが、好きな女のそんな姿を見て、欲情しない男なんていなんだよ……」

「え?」

 ミハエルの言葉に違和感しかなかったシユニナは、驚いて体を離そうと身をよじってしまう。
 すると、股間に感じていた硬い異物がさらに硬さを増したのだ。
 自分の股間を下から押し上げる謎の物体が気になったシユニナは、その硬い何かを手で触れて確かめる。
 硬いようでいて弾力を持つ何か。
 自分が跨ぐようにして腰を下ろしている場所は一体どこだったのかと、視線を下に向けたシユニナは、その状況に顔だけではなく、体全体を真っ赤に染めることとなったのだ。
 
 視線の先には、ミハエルのズボンを押し上げる、雄々しいミハエルのミハエルがあったからだ。

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