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第二十八話 えっちを教えて?

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 長期休暇明け、アズサとウルシュカームの距離は、休暇前よりもぐっと近くなっていた。
 それを敏感に感じ取る必要もないくらい、二人から漂う甘い空気は、砂糖をまぶしたかのように息を吸った傍から、喉の奥を甘ったるくざらつかせた。
 
 いつもと同じように寄り添っているように見えて、その実、二人の瞳にはお互いしか映っていなかった。
 見つめ合っているのを見ると、いつキスをしてもおかしくないようなそんな、甘い空気が充満するのだ。
 
 教室にいる生徒たちは、その二人の甘すぎる空気に尻をもぞもぞさせるのが精一杯だった。
 
 そんな、甘ったるい空気を破ったのは、当事者のアズサだった。
 
 それは長期休暇明け、初日の放課後の出来事だった。
 
 久しぶりに顔を合わせたメリナに天使のような笑顔でアズサは近寄って、爆弾を投下したのだ。
 
「メリナ、久しぶり」

「まあ……。アズサ君、お久しぶりですわ……。ご挨拶は嬉しいのですが、ウルシュカーム様の嫉妬に燃える視線がとても突き刺さって痛いのですが……」

 そう言って、アズサの背中にぴったりと張り付いて、嫉妬の炎を燃やすウルシュカームと視線を合わせないように、あらぬ方向を向いてしゃべるメリナにアズサは、可愛らしく首を傾げていた。
 
「シュカの嫉妬?よくわかんないけど、それよりも俺はメリナにお礼を言いに来たんだ」

「お礼ですか?わたくし、何かしましたかしら?」

 そう言って、アズサの言葉に首を傾げるメリナにアズサはずいっと近寄り、その両手をぎゅっと握って、キラキラと煌めく瞳でメリナを見つめて言ったのだ。
 
「メリナに言われた言葉が切っ掛けで、俺、シュカと伴侶になる約束をしたんだ!あの時、メリナに、自分の気持ちをシュカに相談するように言われた通り、思ってたこと言ったんだ。それが切っ掛けで、シュカを愛してるって気が付いたんだ。メリナ、ありがとうな!お礼に、えっちの内容っていうのを報告したいんだけど、えっちって具体的にどんなことするんだ?」

「あ、アズサ君!!ちょっと、ちょっと待ってくださいまし!!ここでは、今はまずいですわ!!」

「えっ?なんで?あっ、報告はレポート用紙に書いて提出する方がいいか?レポートにするのはいいけど、なんて書けばいいのかよくわかんな―――」

「ああああ……。待ってくださいまし!!これ以上はわたくしたちの身が危険なんですのよ!!」

「えっ?」

「ち、違うんですの!ウルシュカーム様、お待ちくださいませ!!」

 そう言って、メリナはガタガタと震えだしていた。
 理由は簡単だった。アズサの背後にくっついていたウルシュカームの射殺さんばかりの視線と、「俺のアズサになに吹き込んでんだ?ああん?」と言う、表情に怯え切っていたのだ。
 
 そんなことに全く気が付いていないアズサは、背後にいるウルシュカームを振り向き、唇を尖らせて言ったのだ。
 
「なぁ、アルマース王国独特の言い回しは難しいな。シュカはえっちって知ってるか?もし知ってたら、俺にえっちをおしえ―――」

 アズサがそこまで言ったところで、ウルシュカームの中の何かが「ぷつっ」と、音を立てて切れていた。
 
 尖らせた小さな唇を塞いでしまいたい衝動を何とか堪えたウルシュカームは、アズサの華奢な体を抱きしめて、アズサにだけ聞こえるように言ったのだ。
 
「えっちなら知ってるよ。教えて欲しいなら、教えてあげる。でも、途中でやめることなんてできないけど、どうする?」

 そう言った後、アズサの首筋を舐めた後にきつく吸って小さな痕をつけてから、欲望に染まったブルーの瞳でアズサの黒曜石のような瞳を見つめたのだ。
 
 アズサは、熱に潤むウルシュカームの瞳を見た瞬間、腰から背筋を通って頭の先に電撃が走ったような気がして、足を震わせていた。
 
 何か言わなくてはと思いながらも、ウルシュカームの瞳から目が離せずにいた。
 熱の籠った吐息と共に、小さな声で言うのが精一杯だった。
 
「あ……。うん。教えて欲しい……、シュカ、お願い……」

 アズサの艶めいた小さな声を聴いたウルシュカームは、見たものを虜にするような蕩けるような瞳で微笑んだ後、アズサを横抱きにして静まり返っていた教室を後にしていた。
 
 アズサとウルシュカームが居なくなった教室では、残された生徒たちの阿鼻叫喚が繰り広げられていた。
 
「くは!!ウルシュカーム様のあの色気!!視線だけで、アズサ君は孕んでしまいそうですわ!!」

「だめぇ、腰が抜けた。立てない。ウルシュカーム様のあの顔、顔面凶器すぎる」

「ウルシュカーム様のあの色気……。やばい……、鼻血がとまらないよぉ」

「おい、明日……。二人、来ないかもな……」

「あり得る。ってか、リンドブルムが、ヒメミヤ抱き潰す未来しか見えないんだが……」

 教室に満ちた熱が引いたのはだいぶ後のことだった。
 
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