子犬だと思っていた幼馴染が実は狼さんだった件

第二十二話 試験終了

　その後、最終日まで周囲を探索したり、魔物を狩ったりしながら比較的のんびりと過ごした二人だった。
　
　試験終了後は、渡されたメダルを返却してから寮に戻ることになったのだが、出発した時の着物と袴ではなく、明らかにサイズの大きいシャツを着たアズサを見た他の生徒たちは動揺の声を上げていた。
　
　それを予め予想していたウルシュカームは、出発前以上にアズサに張り付いて周囲を牽制していた。
　
「はぁ。やっと帰れる。シュカ、部屋に帰ったらまずはゆっくり風呂だ。足を伸ばしてゆっくり浸かりたい。そうだ、あのとっておきの入浴剤入れて入ろうぜ」

「うん。俺もゆっくりお湯に浸かりたい」

　そう言って、背後からぎゅっとアズサを抱きしめて甘えるウルシュカーム。
　
　そんな二人の会話が聞こえた生徒たちは騒めき出していた。
　
　
「おい……。今のって、明らかに一緒に風呂に入るって口ぶりじゃね？」

「なんでヒメミヤ、服装変わってんだ？それにあのシャツ……、どう見てもリンドブルムのだよな？」

「なになに？きゃーっ！もしかしてあの二人やっぱりそういう関係なの？キャーキャー！！」



　そんな周囲の反応を知ってか知らずか、ウルシュカームは、アズサの手を引いてメダルを教師に返却に行った。
　その時だった。
　
　周囲に強い風が吹き抜けたのだ。
　ウルシュカームがあっと思った時には遅かった。
　アズサの着ていたぶかぶかのシャツが風をはらんで大きく翻ったのだ。
　
　光の速度でアズサの裾を抑えたが、少しだけ遅かった。
　目の前に起つ教師は、目を大きく見開いた後に、鼻の下を伸ばしてデレっとした表情になっていたのだ。
　明らかに、アズサの可愛い無毛の性器を見てにやにやする教師に殺意が沸いたが、後ろにいた者で見たやつがいないとも限らないと思い至ったのだ。
　そして、一瞬で周囲に視線を巡らせて、アズサの可愛い尻を見たと思われる、ニヤ付いた表情をしている男子生徒を一瞬でロックオンしたのだ。
　
　ウルシュカームは、教師に氷のように冷たい視線を向けた後に、自分とアズサのメダルを突き付けていた。
　そして、アズサをお姫様抱っこして、身体強化を使用してその場から全力で駆け出していた。

　一瞬で寮についたウルシュカームは、アズサに「アズ、ごめん。ちょっと用事が出来てしまったんだ。すぐに戻るからね」そう言って、寮の部屋を出たのだ。
　そして、ロックオンしていた人間たちの元に光の速度で戻っていたのだ。
　
　凍えるような視線で、教師と数人の男子に地獄の番人も裸足で逃げ出すような形相で言ったのだ。
　
「お前らの今日の記憶を消す」

　そして、逃げようとする抹殺対象を拘束し、アイアンクローをしながら脳内に魔力を流し込んでいた。
　抹殺対象は、宙吊りにされた状態で、体をピクピクと痙攣させていた。
　
　その恐ろしい光景にその場に居合わせた生徒たちは、恐怖で動けずにいた。
　
　ウルシュカームの処置を受けた教師と数人の男子生徒たちは、だらしなく半開きにした口元から涎を垂らした状態で、口をそろえて言ったのだ。
　
「「「「はれ？きょうは、らにをしてらっけ？」」」」

　そう言って、虚空を光の消えた瞳で見つめたのだった。

　それを見たウルシュカームは、周囲で固まる生徒たちに視線を巡らせてから、鼻を鳴らして言ったのだ。
　
「お前たちは何も見ていない。いいな？」

　その圧倒的なプレッシャーに不幸にもその場に居合わせた生徒たちは壊れた人形のようにただただ首を縦に振るのみだった。



　その後、ウルシュカームが寮の部屋に戻ると、アズサは風呂の支度を整えてウルシュカームの帰りを待っていたのだ。
　
　そして、笑顔でウルシュカームを風呂に誘い、お互いの体を洗いあい、湯船に浸かって存分に風呂を楽しんだのだった。