上 下
12 / 38

第十二話 試験開始

しおりを挟む
 その日は、2年で行われる最後の試験の日だった。
 この試験の結果で、3年でのクラスやカリキュラムが決まる大切な試験だった。
 そして、試験の結果によってはパートナーの組み換えがされてしまうこともあったため、生徒たちは真剣な思いで参加していた。
 よほどのことがない限り、希望した相手とパートナーを組めるが油断はできなかった。
 ウルシュカームは、この試験に全力以上の力を注いでいた。
 
 なんといっても、3年からは四六時中アズサと共に居られることが出来るのだ。
 二年間我慢した甲斐があるというものだ。
 
 そして、卒業すればそのまま就職し、仕事中もアズサと共に居られるのだから、本気にならない訳がないのだ。
 
 
 試験の内容は、至ってシンプルなものだった。
 パートナーと一週間森でサバイバルをするというものだった。
 学園が所有する森が試験会場となっていた。
 その森は、試験のための罠や試験用の魔物や獣が解き放たれていた。
 
 試験会場の森にはどんな物でも持ち込むことが可能だったが、その手段としてマジックバックを使うことは禁止されていた。
 ただし、魔術師の能力によるマジックボックスによる持ち込みは可能とされていた。
 
 なので、ウルシュカームは事前にマジックボックスにありとあらゆる物を入れて準備をしていた。
 大抵の魔術師のマジックボックスの容量が少ないのがほとんどだったため、マジックボックスの使用が許可されていたが、ウルシュカームのそれは規格外だった。
 試したことはなかったが、恐らく無制限に物が入るのではないかと思われるほどの容量があった。
 
 そのため、事前準備を完全に終えたウルシュカームは、アズサと二人っきりで過ごせる楽しい時間でしかなかったのだ。
 



 そして、試験開始前、一所に集められて生徒たちはいくつかのグループに分かれて、割り振られた森の一角に送られることとなるのだが、集合場所に集まっていた生徒たちは試験開始数分前に現れたウルシュカームとアズサを見て騒然となったのだ。

 ウルシュカームが、いつも通り子犬モードで見えない尻尾をぶんぶんと振り回しながら見知らぬ美少女とイチャイチャしながらやってきたように見えたのだ。

「シュカ、そんなに引っ付くなって。歩きにくい!!」

「やだ!アズともっとくっついてたいんだもん!ぴたっ!そしてぎゅーだ!」

「ちょっ!シュカ?!」

「えへへ、アーズ。好き好き!うちゅっ」

「おっ、お前!!ちょっ、くすぐったい。くすくす」

 そう言って、ウルシュカームは、じゃれながら美少女、改めアズサを抱きかかえて、頬や首筋、耳の裏など、唇以外の場所にキスの雨を降らせていたのだ。
 そして、くすぐったさそうに首を竦めるアズサを見て、その場にいる全員が見とれていたのだ。

 さらさらと涼し気な音を立てるまっすぐな黒髪の前髪部分は真ん中で分けピンで左右に止めて、後ろ髪は頭の高い位置で括られて、細く華奢な首が露になっていた。
 いつもは長い前髪を垂らし、黒縁眼鏡を掛けているため顔なんて見たことなかった生徒たちは、その美しい花のようなかんばせに息を呑んだのだ。
 前髪は顔に掛からず、野暮ったい黒縁眼鏡を取り払ったその顔に見惚れたのだ。
 その、白い陶器のような肌に、小づくりの顔の中にバランスよく配置された顔のパーツの中で、小さな唇は、薄らと桜色に色づいていた。そしてひと際目を引くのが、黒曜石を思わせる瞳だった。大きな小動物を思わせる可愛らしくも美しい瞳はキラキラと眩しい光を放っているように見えた。
 

「えっ?あれがヒメミヤなのか?」

「うそ……。綺麗……」

「アズサ君って、女の子?でも……えっ?」

「俺、あいつだったら男でもいける」


 周囲がアズサの顔を見て口々に騒ぎ出していた。
 それに気が付かない当の本人のアズサは、首元にキスをされてただただ小さな笑い声をあげていた。
 しかし、ウルシュカームはというと、周囲の人間を牽制するような危険な光を帯びた目で妖しく微笑んでいた。
 後ろから抱きしめられた格好のアズサはそれに気が付いてない。

 ウルシュカームは、敢えて色気を隠さずに周囲に見せつけるようにねっとりとアズサの首筋を舐め上げたのだ。
 アズサは、それにも笑いながら軽口を叩くだけだった。

「シュカ?くすぐったいって!もう、俺はお菓子じゃなんだから、舐めても美味くもなんともないぞ?」

「ううん。アズはとっても甘いよ?体中甘くて、砂糖で出来てるんじゃないかって思うよ?」

「う~ん。それって、俺が甘いの食べ過ぎってことか?む~、ちょっとお菓子食べるの控えた方がいいのかな?」

「くすくす。お菓子を食べても食べなくてもアズの全身は甘いと思うよ?ちゅっぷ。ほら、指先も甘い」

「そうか?ちゅぽちゅぱ……。そんな味しないけど?」

 そうして、イチャイチャする二人は、アズサの右手をお互いにぺろぺろと舐めて甘い甘くないと言い合いを始めたのだ。
 首を傾げて納得いっていないといった顔のアズサが、徐にウルシュカームの指先をぺろっと舐めたのだ。

「ちゅぱ、ぺろ。ふむ。お前の指はちょっと変な味?なんの味だろう?あっ、これって、朝、ぬ―――」

「違うから。ちゃんと手は洗ってるから!!」

「でも、俺がそんなにかき回したらだめだって言ったのに、ぐちゃぐちゃにするから、すげー飛び散って大変だったんだぞ?」

「だって……。でもでも、たくさんかき回した方がいいってアズが教えてくれたんだよ?」

「ああ、確かにそうだ。だけど限度があるって!!」

 
 二人の会話に聞き耳を立てていた生徒たちは、朝から二人が行ったであろう桃色な行為を想像して息を荒げていた。
 アズサの容姿から、そういうことがあっても有りだと全員が思った結果の桃色な想像だった。
 しかし、次のアズサの言葉で全員が心の中で突っ込むこととなった。

「糠漬けはな、難しいんだよ!!お前、漬物をなめてるな!」


((((((ぬって、糠漬けの「ぬ」かよ!!!てっきり、抜きっこでもしたのかと思ったんだけどなっ!!!!))))))


 そんな突込みが聞こえたのかは分からないが、ウルシュカームは、敢えて周囲に聞こえないようにアズサの耳元に唇を寄せて囁いたのだ。

「わかってるよ……。それよりも、試験が終わったら、アズの好きなナババとチョコレート買って、部屋で好きなだけ食べさせてあげるね?」

 ウルシュカームの言葉を聞いたアズサは、ぱあっと表情を綻ばせて頬を染めながら言ったのだ。

「本当か!やったぁ。お前の(用意してくれる)ナババいっぱい食わせてくれるのか!!今から楽しみ~」

「うん。いっぱい食べてね。俺のナババ。くすくす」

 アズサの発言にその場にいた全員が噴き出して突っ込んでいた。因みに、ウルシュカームは、アズサの言葉足らずな言葉の内容をすべて理解したうえでの確信犯的発言であった。


((((((ぶふっ!!!!堂々の猥談!!なんてこった/(^o^)\))))))
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

勘違いしちゃってお付き合いはじめることになりました

BL / 完結 24h.ポイント:1,045pt お気に入り:573

独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:43

深紅の鬱金香に恋して。 ―人形姫―

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:20

処理中です...