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第四章 新しい生活と揺れる心(5)
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最初、ジークリンデは、志乃が言う「永久就職」という聞きなれない言葉に首を傾げていた。それでも、顔を真っ赤にさせる志乃の様子から、その言葉が志乃の世界で結婚の承諾を示す言葉なのだと理解する。
しかし、急に志乃が見せたデレに心臓を撃ち抜かれたジークリンデは、胸を押さえて志乃に向かって倒れこむ。
ジークリンデの行動に驚く志乃だったが、小さなジークリンデの呟きで噴き出していた。
「くぅぅうう。俺のシノが可愛すぎて胸が苦しい。俺のシノは最高だ」
「ぷふっ。ジーク何それ? ふふふ、ジークは面白いね」
「うん。シノの可愛い笑顔が見られるなら、俺は世界一面白い人間になるよ」
一時期は、気の迷いとか、年下とか、思い込みとか、そんなことを考えて、自分の気持ちをごまかしていた志乃だったが、ここまで自分のことを好きでいてくれる人などジークリンデ以外にいないと思うと、胸が温かくなる。
そして、その温かい思いが何なのか、もう疑うことはなかった。
「ジーク、私ね……」
「うん」
「私、きっとこの世界に来たのは貴方と出会うためだったのかなって」
「うん」
「私は、この世界のこと何にも知らないから、ジークにいっぱいいっぱい大変な思いをさせると思うし、きっと苦労も掛けてしまうと思う」
「うん。いいよ」
「もう、そうやって私をすぐに甘やかして……。でも、それでも、ジークが私を要らないって思うまで傍に居させて欲しい」
志乃がそう言うと、ジークリンデは志乃の額を指先で優しく突いた。
「あり得ないことを。俺がシノを手放すことなんて死んでも生まれ変わっても絶対にないよ。だから、安心して、死んでも生まれ変わっても、俺はシノだけを愛するから」
「うん」
「シノ……」
「ジーク……。私もジークのこと……」
そこで口を噤んだ志乃は、その先を言い淀んだ後に本当に小さな声で恥ずかしそうに言うのだ。
「好き」
その言葉を聞いたジークリンデは、シノをソファーに押し倒していた。
突然のことに驚く志乃だったが、両手を広げてジークリンデを迎えるような仕草で微笑みを浮かべる。
この日から、志乃の生活は楽しいと思える出来事が増えて行った。
ジークリンデは、相変わらず忙しそうにしているが、変わらずに志乃との時間を優先させた。
志乃も、ジークリンデと暮らすこの生活を大切なものと感じ、できるだけジークリンデとの時間を大切にするようになっていた。
それでも時々思ってしまうのだ。
一緒に召喚された後輩のことを。
最初に志乃を見限ったのは明里だったが、それでも志乃は、同郷の明里のことを思い出さずにはいられなかったのだ。
アルエライト王国にいた時には、一切顔も見せなかった明里。そんな明里が今どういう扱いを受けているのか。
恐らく、聖女として大切にされているのだろう。それでも、こちらに呼ばれたという目的が果たされたという話をジークリンデから全く聞かないことに、不安になってしまうのだ。
マナの淀みを解決するために呼ばれたのに、解決できなかった場合、明里はどうなってしまうのかと。
そう考えるのは、志乃がこちらの暮らしに慣れて余裕ができたからこそだった。
ふとした瞬間にそんなことを考えていた時期があった志乃だったが、現在はそれどころではない事態に直面していた。
ジークリンデとは、デュセンバーグ王国が抱えている問題が解決した際に、改めて結婚をする約束をしていたが、志乃には、乗り越えなければならない試練が待っていたのだ。
それは、ジークリンデの護衛騎士の立場にあるハルバートという存在が志乃を悩ませていたのだ。
しかし、急に志乃が見せたデレに心臓を撃ち抜かれたジークリンデは、胸を押さえて志乃に向かって倒れこむ。
ジークリンデの行動に驚く志乃だったが、小さなジークリンデの呟きで噴き出していた。
「くぅぅうう。俺のシノが可愛すぎて胸が苦しい。俺のシノは最高だ」
「ぷふっ。ジーク何それ? ふふふ、ジークは面白いね」
「うん。シノの可愛い笑顔が見られるなら、俺は世界一面白い人間になるよ」
一時期は、気の迷いとか、年下とか、思い込みとか、そんなことを考えて、自分の気持ちをごまかしていた志乃だったが、ここまで自分のことを好きでいてくれる人などジークリンデ以外にいないと思うと、胸が温かくなる。
そして、その温かい思いが何なのか、もう疑うことはなかった。
「ジーク、私ね……」
「うん」
「私、きっとこの世界に来たのは貴方と出会うためだったのかなって」
「うん」
「私は、この世界のこと何にも知らないから、ジークにいっぱいいっぱい大変な思いをさせると思うし、きっと苦労も掛けてしまうと思う」
「うん。いいよ」
「もう、そうやって私をすぐに甘やかして……。でも、それでも、ジークが私を要らないって思うまで傍に居させて欲しい」
志乃がそう言うと、ジークリンデは志乃の額を指先で優しく突いた。
「あり得ないことを。俺がシノを手放すことなんて死んでも生まれ変わっても絶対にないよ。だから、安心して、死んでも生まれ変わっても、俺はシノだけを愛するから」
「うん」
「シノ……」
「ジーク……。私もジークのこと……」
そこで口を噤んだ志乃は、その先を言い淀んだ後に本当に小さな声で恥ずかしそうに言うのだ。
「好き」
その言葉を聞いたジークリンデは、シノをソファーに押し倒していた。
突然のことに驚く志乃だったが、両手を広げてジークリンデを迎えるような仕草で微笑みを浮かべる。
この日から、志乃の生活は楽しいと思える出来事が増えて行った。
ジークリンデは、相変わらず忙しそうにしているが、変わらずに志乃との時間を優先させた。
志乃も、ジークリンデと暮らすこの生活を大切なものと感じ、できるだけジークリンデとの時間を大切にするようになっていた。
それでも時々思ってしまうのだ。
一緒に召喚された後輩のことを。
最初に志乃を見限ったのは明里だったが、それでも志乃は、同郷の明里のことを思い出さずにはいられなかったのだ。
アルエライト王国にいた時には、一切顔も見せなかった明里。そんな明里が今どういう扱いを受けているのか。
恐らく、聖女として大切にされているのだろう。それでも、こちらに呼ばれたという目的が果たされたという話をジークリンデから全く聞かないことに、不安になってしまうのだ。
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そう考えるのは、志乃がこちらの暮らしに慣れて余裕ができたからこそだった。
ふとした瞬間にそんなことを考えていた時期があった志乃だったが、現在はそれどころではない事態に直面していた。
ジークリンデとは、デュセンバーグ王国が抱えている問題が解決した際に、改めて結婚をする約束をしていたが、志乃には、乗り越えなければならない試練が待っていたのだ。
それは、ジークリンデの護衛騎士の立場にあるハルバートという存在が志乃を悩ませていたのだ。
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