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第三章 デュセンバーグ王国へ(10)

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 志乃に拒絶されたと最初は思っていたジークリンデだったが、『未成年』に対しての拒絶だと分かった瞬間ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
 
「シノ、安心しろ。デュセンバーグ王国は、十六で成人とみなされる。だから、何の問題もない。と言う訳で―――」

「えっ? でもでも、私の居た世界では二十歳が成人で……」

「そうなのか。でも、俺の国の法律的には何の問題もない。だから、安心して俺の嫁になれるな」

「え? そう……なのかな? あれ?」

 なんとなく、ジークリンデに丸め込まれている気がする志乃だったが、短期間でいろいろな出来事が起きたため、判断基準がおかしくなっていることに気が付いていなかったのだ。だから、疑問に思いつつも、ジークリンデの情熱に浸食されるかのように頷いていたのだ。
 
「法律的に大丈夫ならいいのかな?」

「ああ! シノ好きだよ」

 このままなし崩しに志乃に結婚の承諾をもらおうとジークリンデも内心必死になっていたのだ。
 考える隙を与えないように、ぎゅっと抱きしめて頬にキスをする。
 本当は唇にキスをしたいところではあったが、やりすぎては折角の好機を台無しにしてしまうような気がしたためだ。
 適度なスキンシップによってなのか、志乃も知らず知らずのうちに「ジークとなら結婚もありかもしれない」などと考え始めていた。
 その時だった。
 控えめに部屋の扉がノックされたのは。
 コンコンという音の後に、控えめな声が掛けられた。
 
「ジークリンデ様、そろそろ王城に着きますので、ご準備を……」

 外から控えめに声を掛けてきたのはハルバートだった。
 ハルバートの声に、ジークリンデは名残惜しそうに志乃を解放していた。
 
「シノ、もうすぐ着くらしいから、ワンピースに着替えようか。それで、夕食は城で食べよう」

 ジークリンデの言葉に、志乃は首を傾げていた。
 不思議そうな表情をする志乃に気が付いたジークリンデは、志乃の頭を撫でる。
 
「大丈夫だ。身内自慢になるがみんないいやつだから安心しろ」

「あっ……。えっと、そういうことではなくって……。もうすぐ着くって?」

 そう言って眉を寄せて不安げな表情をする志乃を見たジークリンデは、はっと気が付いたのだ。
 
「もしかして……。悪い。そう言えば、魔動車に乗った時は、気を失っていたな。今いる場所は、魔動車という乗り物の中だ。現在も馬よりも速い速度で移動中なんだ」

 ジークリンデの言葉を聞いた志乃は、またしてもコテンと首を傾げた。しかし、数秒後、目を丸くさせて驚きの表情を見せたのだ。
 
「えっ? 乗り物? でも、ここはジークのお家なんじゃ? え、でも、あれ?」

 混乱に目をくるくるとさせる志乃が可愛くてジークリンデは、表情を緩めていた。
 志乃の愛くるしさに目を細めながら、ジークリンデは、志乃を促していた。
 
「うん。見た方が早いな。俺は部屋を出てるから、そこに出している服に着替えてから志乃は部屋を出ておいで」

 そう言ったジークリンデは、志乃の頬にキスをした後に部屋を出て行ったのだ。
 残された志乃は、ここが乗り物の中という衝撃の事実に、先ほどのプロポーズのことなどどこかに飛んで行ってしまっていた。
 
 そして、用意されていた服に着替えた志乃は、姿見で改めて全身を確認していた。
 浴室の鏡で見たガリガリの自分はもうどこにもいなかった。
 まだ、肉付きは薄いが、病的なまでのげっそり感はなくなっていた。そして、瑞々しい肌と、艶やかな黒髪。前髪の一部は白髪のままだったが、それでも自分とは思えない姿だった。
 よくよく見ると、若干若返ったようにも見えることが不思議でならなかった。
 
「はぁ。異世界ってすごいなぁ。それに、ジークもなんか積極的っていうか、スキンシップ……すごいよ……。でも、嫌じゃない自分もいて……って、私何言ってんの! 初めてあった人だよ? 年下だよ? でも……、好きかもしれない……。はぁ……、もうよくわかんない。うん、困ったときは、考えるのをやめよう。なるようになるって。うんうん。」

 両手で頬を軽く叩いた志乃は、深呼吸をしたのちに部屋を出たのだった。
 そして、異世界に召喚されて初めて、この世界の姿をその目に映すこととなったのだった。

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