20 / 31
第三章 デュセンバーグ王国へ(8)
しおりを挟む
長い間ジークリンデの逞しい腕の中で、彼の鼓動の音を聞いていた志乃だったが、流石に恥ずかしくなってきていた。
男性経験など皆無に近い志乃は、このままどうしていいのか分からずにただ心臓の音を高鳴らせるだけだった。
一方、それなりに経験をしてきているジークリンデは、年下に見える志乃にこのまま手を出していいものかと思いあぐねていた。
どう見ても志乃からいろいろと許されているような空気を感じるからだ。
しかし、ここでがっくつのもどうかと思う自分もいて、それでもキスの一つくらいはと思う自分もいて、どう行動したらいいのかと動けずにいたのだ。
それでも、腕の中の志乃の柔らかい体と甘い匂いに体が勝手に動いてしまっていた。
そこで、ふと疑問に思うジークリンデ。
確かに、風呂を勧める前の志乃は、柔らかさとは対極のガリガリに痩せた体ったはずなのだ。
それなのに、手のひらに感じる吸いつくような肌と柔らかさに、内心首を傾げる。
だんだんジークリンデの手が全身を撫でるように触れてくるようになってきていたことに志乃は動揺していた。
背中や腰を固くて大きな手のひらが行き来し、頬や首筋を優しく触れられて、青い瞳でじっと見つめられると、胸がぎゅっと締め付けられた。
それでも、心の準備などできていない志乃は、小さく抵抗していた。
「い……いや……」
そう言って、あまりにも近いジークリンデの胸を押して距離をとっていた。
志乃の抵抗に、ハッとした表情になったジークリンデは、慌ててその身を解放していた。
「すまない……」
「いえ……」
何とも気まずい空気がその場に流れていた。
だが、ジークリンデがあることに気が付くことで、その空気は吹き飛ぶこととなった。
「ん? シノ?」
そう言って、ジークリンデは、志乃の全身を穴が開くほど凝視しだしたのだ。
そして、ある結論を口に出したのだ。
「やはりそうか。うん。シノには、聖属性の魔法の才能があるのかもしれない」
何のことを言われているのか分からなかった志乃は小さく首を傾げる。
その首を傾げる仕草は、とても愛らしいものでジークリンデは、顔がにやけそうになりながらも必死に表情を作って説明したのだ。
「聖属性とは、魔法属性の一つだ。この世界で魔法を使うには、その属性に見合った魔法しか使うことができないんだ。例えば、火の属性しか持たない者は、火以外の魔法を使えないんだ」
またしても魔法という言葉が出たことで志乃は目を丸くすることとなった。
それでも、魔法という未知の領分に興味はあった。
だから、ジークリンデの説明を聞き入るようにして耳を傾けたのだ。
「聖属性は、数ある魔法属性の中でも希少だ。特性は、回復や結界魔法だな。シノは、こっちに来てから、怪我の治りが早く感じたことはなかったか?」
ジークリンデにそう質問された志乃は、たしかに心当たりがあった。
こっちに来てから、たしかに怪我の治りが早かったし、あの劣悪な環境で病気もしなかった。
何より、あれだけ視力が低かったにもかかわらず、今ではメガネなしでいられるようになっていたのだ。
そのことを思い浮かべていた志乃は、素直に肯定して見せた。
志乃が頷いたのを見たジークリンデは、両手を組んで何かを考えるようにしてからにかっと頼もしい笑みを浮かべた。
「うん。大丈夫。シノのことは、俺が守るから。誰にも利用なんてさせない。よし、それじゃ、改めて自己紹介でもしようか?」
守る、利用、そんな少し物騒なことを口走るジークリンデだったが、志乃を安心させるように微笑んだ後に唐突にそんなことを言った。
志乃は、話に付いていけずにぽかんとしていたが、ジークリンデの言葉に驚くこととなった。
「俺は、ジークリンデ・デュセンバーグだ。一応、デュセンバーグ王国の第三王子をしている。今年、十八になった。王子の肩書はあるが、王位継承権はないも同然だ。俺の兄上は王として最高だからな。俺は、剣も魔法もそれなりにできるから、冒険者として国を支えることにしている。ああ、冒険者って言うのは、魔物退治をしたりする仕事だと思ってくれればいい……。ん? シノ、どうした?」
ジークリンデの言葉に志乃は呆然としていた。
「王子様……? 十八? え?」
ジークリンデが第三王子の上、年下だということを知った志乃の驚きは大きかった。
どう見ても自分より年上に見えたのだ。体格はもちろん、その落ち着いた雰囲気や志乃に対する行動が年上に見せていたのだ。
それなのに、自分よりも年下、さらに言うと未成年だという事実に志乃は驚愕を隠すことなどできなかったのだ。
「と……年下……」
「え?」
志乃の頭の中には、未成年に手を出した成人女性が逮捕される映像が頭をよぎっていた。
その成人女性は、まさに自分の姿と重なり……。
「だ、だめーーーーー!! 未成年とはお付き合いできません!! 私、逮捕なんて嫌ですーーーー!!」
男性経験など皆無に近い志乃は、このままどうしていいのか分からずにただ心臓の音を高鳴らせるだけだった。
一方、それなりに経験をしてきているジークリンデは、年下に見える志乃にこのまま手を出していいものかと思いあぐねていた。
どう見ても志乃からいろいろと許されているような空気を感じるからだ。
しかし、ここでがっくつのもどうかと思う自分もいて、それでもキスの一つくらいはと思う自分もいて、どう行動したらいいのかと動けずにいたのだ。
それでも、腕の中の志乃の柔らかい体と甘い匂いに体が勝手に動いてしまっていた。
そこで、ふと疑問に思うジークリンデ。
確かに、風呂を勧める前の志乃は、柔らかさとは対極のガリガリに痩せた体ったはずなのだ。
それなのに、手のひらに感じる吸いつくような肌と柔らかさに、内心首を傾げる。
だんだんジークリンデの手が全身を撫でるように触れてくるようになってきていたことに志乃は動揺していた。
背中や腰を固くて大きな手のひらが行き来し、頬や首筋を優しく触れられて、青い瞳でじっと見つめられると、胸がぎゅっと締め付けられた。
それでも、心の準備などできていない志乃は、小さく抵抗していた。
「い……いや……」
そう言って、あまりにも近いジークリンデの胸を押して距離をとっていた。
志乃の抵抗に、ハッとした表情になったジークリンデは、慌ててその身を解放していた。
「すまない……」
「いえ……」
何とも気まずい空気がその場に流れていた。
だが、ジークリンデがあることに気が付くことで、その空気は吹き飛ぶこととなった。
「ん? シノ?」
そう言って、ジークリンデは、志乃の全身を穴が開くほど凝視しだしたのだ。
そして、ある結論を口に出したのだ。
「やはりそうか。うん。シノには、聖属性の魔法の才能があるのかもしれない」
何のことを言われているのか分からなかった志乃は小さく首を傾げる。
その首を傾げる仕草は、とても愛らしいものでジークリンデは、顔がにやけそうになりながらも必死に表情を作って説明したのだ。
「聖属性とは、魔法属性の一つだ。この世界で魔法を使うには、その属性に見合った魔法しか使うことができないんだ。例えば、火の属性しか持たない者は、火以外の魔法を使えないんだ」
またしても魔法という言葉が出たことで志乃は目を丸くすることとなった。
それでも、魔法という未知の領分に興味はあった。
だから、ジークリンデの説明を聞き入るようにして耳を傾けたのだ。
「聖属性は、数ある魔法属性の中でも希少だ。特性は、回復や結界魔法だな。シノは、こっちに来てから、怪我の治りが早く感じたことはなかったか?」
ジークリンデにそう質問された志乃は、たしかに心当たりがあった。
こっちに来てから、たしかに怪我の治りが早かったし、あの劣悪な環境で病気もしなかった。
何より、あれだけ視力が低かったにもかかわらず、今ではメガネなしでいられるようになっていたのだ。
そのことを思い浮かべていた志乃は、素直に肯定して見せた。
志乃が頷いたのを見たジークリンデは、両手を組んで何かを考えるようにしてからにかっと頼もしい笑みを浮かべた。
「うん。大丈夫。シノのことは、俺が守るから。誰にも利用なんてさせない。よし、それじゃ、改めて自己紹介でもしようか?」
守る、利用、そんな少し物騒なことを口走るジークリンデだったが、志乃を安心させるように微笑んだ後に唐突にそんなことを言った。
志乃は、話に付いていけずにぽかんとしていたが、ジークリンデの言葉に驚くこととなった。
「俺は、ジークリンデ・デュセンバーグだ。一応、デュセンバーグ王国の第三王子をしている。今年、十八になった。王子の肩書はあるが、王位継承権はないも同然だ。俺の兄上は王として最高だからな。俺は、剣も魔法もそれなりにできるから、冒険者として国を支えることにしている。ああ、冒険者って言うのは、魔物退治をしたりする仕事だと思ってくれればいい……。ん? シノ、どうした?」
ジークリンデの言葉に志乃は呆然としていた。
「王子様……? 十八? え?」
ジークリンデが第三王子の上、年下だということを知った志乃の驚きは大きかった。
どう見ても自分より年上に見えたのだ。体格はもちろん、その落ち着いた雰囲気や志乃に対する行動が年上に見せていたのだ。
それなのに、自分よりも年下、さらに言うと未成年だという事実に志乃は驚愕を隠すことなどできなかったのだ。
「と……年下……」
「え?」
志乃の頭の中には、未成年に手を出した成人女性が逮捕される映像が頭をよぎっていた。
その成人女性は、まさに自分の姿と重なり……。
「だ、だめーーーーー!! 未成年とはお付き合いできません!! 私、逮捕なんて嫌ですーーーー!!」
55
お気に入りに追加
729
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します
しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。
失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。
そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……!
悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。
【完結】復讐姫にはなりたくないので全て悪役に押し付けます
桃月とと
恋愛
預言により未来の聖女としてチヤホヤされてきた伯爵令嬢アリソンは、新たな預言により男爵令嬢デボラにその地位を追われ、婚約者である王太子も奪われ、最後は家族もろとも国外追放となってしまう。ズタボロにされた彼女は全ての裏切り者に復讐を誓った……。
そんな『復讐姫アリソン』という小説の主人公に生まれ変わったことに、物語が始まる直前、運よく頭をぶつけた衝撃で気が付くことができた。
「あっぶねぇー!」
復讐なんてそんな面倒くさいことしたって仕方がない。彼女の望みは、これまで通り何一つ苦労なく暮らすこと。
その為に、とことん手を尽くすことに決めた。
別に聖女にも王妃になりたいわけではない。前世の記憶を取り戻した今、聖女の生活なんてなんの楽しみも見いだせなかった。
「なんで私1人が国の為にあくせく働かなきゃならないのよ! そういうのは心からやりたい人がやった方がいいに決まってる!」
前世の記憶が戻ると同時に彼女の性格も変わり始めていた。
だから彼女は一家を引き連れて、隣国へと移住することに。スムーズに国を出てスムーズに新たな国で安定した生活をするには、どの道ニセ聖女の汚名は邪魔だ。
そのためには悪役デボラ嬢をどうにかコントロールしなければ……。
「聖女も王妃も全部くれてやるわ! ……だからその他付随するものも全て持って行ってね!!!」
「アリソン様……少々やりすぎです……」
そうそう幼馴染の護衛、ギルバートの未来も守らなければ。
作戦は順調に行くというのに、どうも思ったようには進まない。
円満に国外出るため。復讐姫と呼ばれる世界を変えるため。
アリソンの奔走が始まります。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる