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第二章 運命の出会い(5)
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馬車置き場に着いたジークリンデは、すぐに乗ってきた魔動車に乗り込んでいた。
魔動車とは、充填してある魔力で動く車のことだ。
通常の馬車よりも早いため、昨今では魔動車が用いられるようになっていた。
ただし、一台で数億はくだらないという高級車のため、未だに所有している国は少なかった。
ちなみに、この魔動車は、ジークリンデの個人所有のため、いろいろと改造が施されていた。
スピードは普通の魔動車の二倍は出る代物だった。
見た目は、馬の付いていない馬車に見えたが、その中は大きく違った。
魔動車の扉を開けると、中にさらに扉があった。
その扉を開けると、中には広い部屋が広がっていた。入ってすぐに広がる部屋は、リビングルームとなっていた。その奥に、ジークリンデの私室があり、その横の扉の奥は、部下たちの部屋となっていた。
ジークリンデは、さっそく自室に入ろうとしたが、部下の一人がずっと気になっていたことを質問する。
「あの……、殿下? ずっと気になっていたのですが、腕にあるそれは……?」
そう質問した部下の質問にジークリンデは、無言で視線を泳がせたのだ。
その様子から、ジークリンデとは付き合いの長い部下たちは何かあると察して、面倒ごとが起こる予感しかしなかった。
微妙な空気が流れている室内に、御者に出発するように伝えた部下がやってきて、呆れたようにジークリンデに言ったのだ。
「ジークリンデ様……。犬ですか? それとも猫ですか? 怒りませんから、元の場所に置いてきなさい」
ジークリンデを諭すようにそう言ったのは、ハルバート・ランドルフだった。
彼は、ジークリンデの護衛騎士をしていた。
ただし、ジークリンデに護衛が必要かというと、必要ないと言えたが。
そんなハルバートは、切れ長の碧の瞳の美青年だった。サラサラの銀の髪をハーフアップに纏めている。
銀の髪と褐色の肌は、不思議な魅力があり、細身でしなやかに伸びた手足は、彼を余計に儚い存在に見せていたのだ。
だからこそ、ハルバートを知らない者が見れば美しい女性と勘違いしただろう。
そんなハルバートは、ジークリンデよりも年上の今年二十五歳だった。
昔から付き合いがある二人は、公式の場でないところでは軽口を言い合うような親しい仲だった。
ハルバートが、ジークリンデの様子から、捨て猫か何かを拾ってきたのだろうと思いそう言ったのだ。
しかし、折角保護した志乃を手放すことなどありえないとジークリンデは、不機嫌になる。
「嫌だ。この子は、俺が一生をかけて守る」
「は?」
ジークリンデがそこまで小動物を愛する男だったかと、今まで彼を振り返っても、そんなそぶりはなかった。
そこで、ハルバートは、嫌な予感がして、少し強い口調で問い詰める。
「ジークリンデ様。腕の中に隠しているものを見せてください」
「駄目だ」
「見せなさい」
「……」
「はぁ。大丈夫です。怒りませんし、取りませんから」
頑なに見せようとしないジークリンデの様子に嫌な予感が増す一方のハルバート。
このまま隠していくわけにもいかないと分かっていたジークリンデは、しぶしぶ腕の中の志乃のことを説明する。
「後でちゃんと説明するが、この子は、異世界人だ……と思う。酷い仕打ちにあっていたから、俺が保護した……。悪いが、この子を休ませたいから、部屋に行く。説明は後で必ずする」
まさかの内容に、ハルバートもその場にいた部下たちも全員が言葉を失うこととなった。
しかし、何よりも腕の中の志乃が優先なジークリンデは、足早にその場を後にしていた。
魔動車とは、充填してある魔力で動く車のことだ。
通常の馬車よりも早いため、昨今では魔動車が用いられるようになっていた。
ただし、一台で数億はくだらないという高級車のため、未だに所有している国は少なかった。
ちなみに、この魔動車は、ジークリンデの個人所有のため、いろいろと改造が施されていた。
スピードは普通の魔動車の二倍は出る代物だった。
見た目は、馬の付いていない馬車に見えたが、その中は大きく違った。
魔動車の扉を開けると、中にさらに扉があった。
その扉を開けると、中には広い部屋が広がっていた。入ってすぐに広がる部屋は、リビングルームとなっていた。その奥に、ジークリンデの私室があり、その横の扉の奥は、部下たちの部屋となっていた。
ジークリンデは、さっそく自室に入ろうとしたが、部下の一人がずっと気になっていたことを質問する。
「あの……、殿下? ずっと気になっていたのですが、腕にあるそれは……?」
そう質問した部下の質問にジークリンデは、無言で視線を泳がせたのだ。
その様子から、ジークリンデとは付き合いの長い部下たちは何かあると察して、面倒ごとが起こる予感しかしなかった。
微妙な空気が流れている室内に、御者に出発するように伝えた部下がやってきて、呆れたようにジークリンデに言ったのだ。
「ジークリンデ様……。犬ですか? それとも猫ですか? 怒りませんから、元の場所に置いてきなさい」
ジークリンデを諭すようにそう言ったのは、ハルバート・ランドルフだった。
彼は、ジークリンデの護衛騎士をしていた。
ただし、ジークリンデに護衛が必要かというと、必要ないと言えたが。
そんなハルバートは、切れ長の碧の瞳の美青年だった。サラサラの銀の髪をハーフアップに纏めている。
銀の髪と褐色の肌は、不思議な魅力があり、細身でしなやかに伸びた手足は、彼を余計に儚い存在に見せていたのだ。
だからこそ、ハルバートを知らない者が見れば美しい女性と勘違いしただろう。
そんなハルバートは、ジークリンデよりも年上の今年二十五歳だった。
昔から付き合いがある二人は、公式の場でないところでは軽口を言い合うような親しい仲だった。
ハルバートが、ジークリンデの様子から、捨て猫か何かを拾ってきたのだろうと思いそう言ったのだ。
しかし、折角保護した志乃を手放すことなどありえないとジークリンデは、不機嫌になる。
「嫌だ。この子は、俺が一生をかけて守る」
「は?」
ジークリンデがそこまで小動物を愛する男だったかと、今まで彼を振り返っても、そんなそぶりはなかった。
そこで、ハルバートは、嫌な予感がして、少し強い口調で問い詰める。
「ジークリンデ様。腕の中に隠しているものを見せてください」
「駄目だ」
「見せなさい」
「……」
「はぁ。大丈夫です。怒りませんし、取りませんから」
頑なに見せようとしないジークリンデの様子に嫌な予感が増す一方のハルバート。
このまま隠していくわけにもいかないと分かっていたジークリンデは、しぶしぶ腕の中の志乃のことを説明する。
「後でちゃんと説明するが、この子は、異世界人だ……と思う。酷い仕打ちにあっていたから、俺が保護した……。悪いが、この子を休ませたいから、部屋に行く。説明は後で必ずする」
まさかの内容に、ハルバートもその場にいた部下たちも全員が言葉を失うこととなった。
しかし、何よりも腕の中の志乃が優先なジークリンデは、足早にその場を後にしていた。
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