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第一章 聖女召喚(1)
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アルエライト王国は、魔力災害の元凶と思われている魔力溜りの発生に悩まされていた。
魔力災害が起こると、国は甚大な被害を受け、立て直しには数十年かかると言われていた。
そんな、魔力災害の元となる魔力溜りは、澱んだマナが一所に留まることで発生すると言われていた。
通常、世界に溢れるマナは澱むことなどありえないのだが、人々が忘れるほどの大昔には、こう言い伝えられていたのだ。
「国が傾くと、マナが澱む」
しかし、そんな大昔の言い伝えなどすでに忘れ去られていた。
魔力災害が発生するかもしれない危機的状況を重く見た国の重鎮たちは、懸命に解決策を探したのだ。
そして、古い文献から聖女を召喚することで災害を回避したという伝承を見つけたのだ。
こうして、アルエライト王国は、藁にも縋る思いで聖女召喚をすることになる。
結果から言おう。
聖女召喚は成功した。
ただし、聖女ではない女性を巻き込んでしまうという結果を残すこととなったが、アルエライト王国は、そのことについて深く考えることをしなかったのだ。
そのことで国が亡びることになるなど、その時は知る由もなかった。
そして、聖女召喚で巻き込まれてしまった女性、山野辺志乃、二十三歳は、絶賛城勤めの下女たちに苛められていた。
「ハズレ、これもやっておいて」
「あんた! 今日中に終わらせなかったら食事はなしだからね」
「ハズレ! さっさとしなさい!」
満足に食事も与えられず、仕事を押し付けられながらも志乃は、唇を噛むことしかできずにいた。
いつだって、「こんなところから逃げ出してやる」と思っていてもそれを実行に移すことができずにいた。
それはそうだろう。
全く知らない世界。お金もない。頼れるような人もいない。
そんな状況で、ここから逃げても生き延びられる自信はなかった。
ここでなら、ひどい目には合っても死ぬことはないと高を括っていたのだ。
だが、日々押し付けられる仕事は増えていき、最近では「気にくわない」「口答えするな」と言いがかりをつけられては、鞭で打たれるという日々を送っていた。
不思議なことに、こちらの世界に来てから、何故か傷の治りが早くなり、視力の悪かった目も見えるようになっていたのだ。
志乃は、それを異世界に来たし、こんなものなのだろうと軽く思っていた。
それでも、鞭で叩かれれば痛いし、心が辛くなる。
どんなに泣こうとも助けてくれる人などいなかった。
数か月もそんな日々を送っていれば、どんなにひどい状況にも慣れてしまい、心が鈍くなってしまう。
それでも、どうしてこうなってしまったのかと嘆かずにはいられなかった。
志乃は眠りに落ちる前に、いつも思うことがある。
それは、目が覚めたらすべてが夢だったらいいのにということだ。
朝起きたら、一人暮らしのアパートのベッドの中だったらいいのにと。
そして、朝目覚めたときに自分の置かれている現実を思い出して気持ちが沈んでいく、そんな毎日だった。
どうしてこんなことになったのだろうと。
あの日、務めていた会社に辞表を叩きつけて、清々した気持ちで会社を後にするはずだったのにと。
そう、あの日のことを思い返して、あの時あんなことがなければ異世界になんて来ることはなかったのにと唇をかむのだった。
魔力災害が起こると、国は甚大な被害を受け、立て直しには数十年かかると言われていた。
そんな、魔力災害の元となる魔力溜りは、澱んだマナが一所に留まることで発生すると言われていた。
通常、世界に溢れるマナは澱むことなどありえないのだが、人々が忘れるほどの大昔には、こう言い伝えられていたのだ。
「国が傾くと、マナが澱む」
しかし、そんな大昔の言い伝えなどすでに忘れ去られていた。
魔力災害が発生するかもしれない危機的状況を重く見た国の重鎮たちは、懸命に解決策を探したのだ。
そして、古い文献から聖女を召喚することで災害を回避したという伝承を見つけたのだ。
こうして、アルエライト王国は、藁にも縋る思いで聖女召喚をすることになる。
結果から言おう。
聖女召喚は成功した。
ただし、聖女ではない女性を巻き込んでしまうという結果を残すこととなったが、アルエライト王国は、そのことについて深く考えることをしなかったのだ。
そのことで国が亡びることになるなど、その時は知る由もなかった。
そして、聖女召喚で巻き込まれてしまった女性、山野辺志乃、二十三歳は、絶賛城勤めの下女たちに苛められていた。
「ハズレ、これもやっておいて」
「あんた! 今日中に終わらせなかったら食事はなしだからね」
「ハズレ! さっさとしなさい!」
満足に食事も与えられず、仕事を押し付けられながらも志乃は、唇を噛むことしかできずにいた。
いつだって、「こんなところから逃げ出してやる」と思っていてもそれを実行に移すことができずにいた。
それはそうだろう。
全く知らない世界。お金もない。頼れるような人もいない。
そんな状況で、ここから逃げても生き延びられる自信はなかった。
ここでなら、ひどい目には合っても死ぬことはないと高を括っていたのだ。
だが、日々押し付けられる仕事は増えていき、最近では「気にくわない」「口答えするな」と言いがかりをつけられては、鞭で打たれるという日々を送っていた。
不思議なことに、こちらの世界に来てから、何故か傷の治りが早くなり、視力の悪かった目も見えるようになっていたのだ。
志乃は、それを異世界に来たし、こんなものなのだろうと軽く思っていた。
それでも、鞭で叩かれれば痛いし、心が辛くなる。
どんなに泣こうとも助けてくれる人などいなかった。
数か月もそんな日々を送っていれば、どんなにひどい状況にも慣れてしまい、心が鈍くなってしまう。
それでも、どうしてこうなってしまったのかと嘆かずにはいられなかった。
志乃は眠りに落ちる前に、いつも思うことがある。
それは、目が覚めたらすべてが夢だったらいいのにということだ。
朝起きたら、一人暮らしのアパートのベッドの中だったらいいのにと。
そして、朝目覚めたときに自分の置かれている現実を思い出して気持ちが沈んでいく、そんな毎日だった。
どうしてこんなことになったのだろうと。
あの日、務めていた会社に辞表を叩きつけて、清々した気持ちで会社を後にするはずだったのにと。
そう、あの日のことを思い返して、あの時あんなことがなければ異世界になんて来ることはなかったのにと唇をかむのだった。
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