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第一部
第八話 妖精爺
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それからと言うもの、ノルンの研究室や部屋の前でアーレスの姿が頻繁に目撃されるようになっていた。
勉強や剣術指南以外の時間は、大抵そのどちらかにいたと言っても過言ではなかったのだ。
ノルンを見た目通りの老人だと思っている周囲の人々は、アーレスのことを見て、「枯れ専」「爺専」と言って笑ったのだ。
それでも、周囲の陰口など知ったことかと、アーレスは毎日ノルンの元に通ったのだ。
「ノルン、会いたいな? ねえ、扉を開けてよ」
「顔を見せてくれよ、ノルン」
「ノルンノルン」
扉越しにアーレスに声を掛けられるノルンは堪ったものではなかった。
スレイとは違う、甘い声音。優しい言葉遣い。
姿かたちが違っても、その本質は変わらない。愛する唯一無二の番なのだ。
ノルンだって、会いたいに決まっている。
だけど、会う訳には行かないのだ。
きっと会ってしまえば、スレイの時以上にアーレスに溺れてしまう。
それではダメなのだ。
今度こそ、愛する人と共に、一緒に生きたいのだ。
それでも、アーレスが扉越しに声を掛ければ、ノルンは近くでその声を聞くために、扉に寄り添ってしまうのだ。
アーレスもなんとなく、扉の近くにノルンの気配を感じるものの、勝手に扉を開けることはしなかった。
仮に開けようとしても、ノルンの魔術によって不可能だったが。
アーレスは、ノルンから扉を開いて迎え入れて欲しいという思いがあったのだ。
それから、五年間もの間、アーレスのめげない行動に、ノルンの方が耐えられなくなってしまったのだ。
そして、アーレスの二十歳の誕生日の翌日、いつものように扉越しに声をかけるアーレスをとうとう迎え入れてしまうのだった。
ただし、鉄の意志で変身魔術だけは解かないことを心に強く決めてだが。
ノルン曰く、老人の姿であれば、アーレスもそう言った気にはならないだろうという判断の元だった。
しかし、見た目など全く気にしていないアーレスは、老人の姿ノルンであっても何も変わらなかったのだ。
扉が開いた瞬間、ノルンを抱き上げてキスをしようとしたのだ。
これには、見た目的に完全にアウトだと感じたノルンが全力で抵抗したのだった。
「アーレス。頼むから、そういうことはしないで欲しい……」
「え? そういうことって、どんなこと?」
「えっ、だから、ハグとかそれ以上とか……」
「なんで?」
そう言って、首を傾げるアーレスに心がときめいてしまったノルンは、頭を振って煩悩を追い払う。そして、恥ずかしそうに小声で言うのだ。
「キスとか……いろいろ! 駄目だろ? いろいろと駄目なんだよ!」
そんなノルンに、アーレスはニコリと微笑んで言うのだ。
「ヤダ。でも、ノルンを困らせたくないから、えっちなことはしないって今は約束する。でも、ハグと抱っこは譲れないからね?」
「うぅ~~」
こうして、よくわからないアーレスの譲歩から、ノルンはアーレスにハグと抱っこをされることが、日常となることとなったのだ。
それからと言うもの、ノルンは少しずつ外に出るようになっていた。
そんなノルンの変化を友人のアーノルドは、心から喜んだのだ。
そして、大好きなノルンと、大好きな息子が仲良くしている姿ににっこりと微笑みを浮かべるのだった。
そんな二人を見ることとなる、城仕えの者たちは目を丸くするのだ。
「えっ? あれって噂の妖精爺?」
「本当にいたんだ……。王国を守ってくれているっていう、妖精爺……」
「あれが噂の妖精爺?!」
そんな噂話を耳にしたノルンは、はて? と、首を傾げるのだ。そして、昔アーレスも同じようなことを口にしていたと思い出すのだ。
「なぁ、アーレス? みんなが口にする妖精爺って?」
小さく首を傾げる老人姿のノルンを膝にのせていたアーレスは、その小動物的な仕草に思わず頬を擦り合わせるのだ。
「はぁ~。ノルンは本当に可愛いなぁ」
「やめなさい。それで、妖精爺って?」
ノルンに顔を押されたアーレスは、残念そうにしながらもしつこくすることはなかった。
膝の上のノルンを抱きしめながら、楽しそうに言うのだ。
「ノルンのことだよ」
「えっ? えーーーーー?!」
まさか自分がそんな風に呼ばれているなど知る由もなかったノルンは大声を出してしまっていた。
そんなノルンの頭を撫でながら、アーレスは、楽しそうに説明した。
「ノルンは、ここ数十年部屋に籠って姿を現してなかったよね? それも、国を守護する魔導士のことはみんな知っていて。だから、姿の見えない大魔導士のことをいつしかおとぎ話の中の人物のように言うようになったらしいんだ。その結果が、妖精爺」
「…………」
なんとコメントしていいのか分からなかったノルンは、無言になってしまっていた。
そして、何も聞かなかったことにして、用意されていた甘いお菓子を口に放り込むのだ。
「あぁ、今日の菓子も美味いなぁ……。あはははぁ……」
そんなノルンの心情を知ってか知らずか、アーレスは、ノルンのためにテーブルの上のお菓子を摘んでノルンの口に運んであげるのだった。
勉強や剣術指南以外の時間は、大抵そのどちらかにいたと言っても過言ではなかったのだ。
ノルンを見た目通りの老人だと思っている周囲の人々は、アーレスのことを見て、「枯れ専」「爺専」と言って笑ったのだ。
それでも、周囲の陰口など知ったことかと、アーレスは毎日ノルンの元に通ったのだ。
「ノルン、会いたいな? ねえ、扉を開けてよ」
「顔を見せてくれよ、ノルン」
「ノルンノルン」
扉越しにアーレスに声を掛けられるノルンは堪ったものではなかった。
スレイとは違う、甘い声音。優しい言葉遣い。
姿かたちが違っても、その本質は変わらない。愛する唯一無二の番なのだ。
ノルンだって、会いたいに決まっている。
だけど、会う訳には行かないのだ。
きっと会ってしまえば、スレイの時以上にアーレスに溺れてしまう。
それではダメなのだ。
今度こそ、愛する人と共に、一緒に生きたいのだ。
それでも、アーレスが扉越しに声を掛ければ、ノルンは近くでその声を聞くために、扉に寄り添ってしまうのだ。
アーレスもなんとなく、扉の近くにノルンの気配を感じるものの、勝手に扉を開けることはしなかった。
仮に開けようとしても、ノルンの魔術によって不可能だったが。
アーレスは、ノルンから扉を開いて迎え入れて欲しいという思いがあったのだ。
それから、五年間もの間、アーレスのめげない行動に、ノルンの方が耐えられなくなってしまったのだ。
そして、アーレスの二十歳の誕生日の翌日、いつものように扉越しに声をかけるアーレスをとうとう迎え入れてしまうのだった。
ただし、鉄の意志で変身魔術だけは解かないことを心に強く決めてだが。
ノルン曰く、老人の姿であれば、アーレスもそう言った気にはならないだろうという判断の元だった。
しかし、見た目など全く気にしていないアーレスは、老人の姿ノルンであっても何も変わらなかったのだ。
扉が開いた瞬間、ノルンを抱き上げてキスをしようとしたのだ。
これには、見た目的に完全にアウトだと感じたノルンが全力で抵抗したのだった。
「アーレス。頼むから、そういうことはしないで欲しい……」
「え? そういうことって、どんなこと?」
「えっ、だから、ハグとかそれ以上とか……」
「なんで?」
そう言って、首を傾げるアーレスに心がときめいてしまったノルンは、頭を振って煩悩を追い払う。そして、恥ずかしそうに小声で言うのだ。
「キスとか……いろいろ! 駄目だろ? いろいろと駄目なんだよ!」
そんなノルンに、アーレスはニコリと微笑んで言うのだ。
「ヤダ。でも、ノルンを困らせたくないから、えっちなことはしないって今は約束する。でも、ハグと抱っこは譲れないからね?」
「うぅ~~」
こうして、よくわからないアーレスの譲歩から、ノルンはアーレスにハグと抱っこをされることが、日常となることとなったのだ。
それからと言うもの、ノルンは少しずつ外に出るようになっていた。
そんなノルンの変化を友人のアーノルドは、心から喜んだのだ。
そして、大好きなノルンと、大好きな息子が仲良くしている姿ににっこりと微笑みを浮かべるのだった。
そんな二人を見ることとなる、城仕えの者たちは目を丸くするのだ。
「えっ? あれって噂の妖精爺?」
「本当にいたんだ……。王国を守ってくれているっていう、妖精爺……」
「あれが噂の妖精爺?!」
そんな噂話を耳にしたノルンは、はて? と、首を傾げるのだ。そして、昔アーレスも同じようなことを口にしていたと思い出すのだ。
「なぁ、アーレス? みんなが口にする妖精爺って?」
小さく首を傾げる老人姿のノルンを膝にのせていたアーレスは、その小動物的な仕草に思わず頬を擦り合わせるのだ。
「はぁ~。ノルンは本当に可愛いなぁ」
「やめなさい。それで、妖精爺って?」
ノルンに顔を押されたアーレスは、残念そうにしながらもしつこくすることはなかった。
膝の上のノルンを抱きしめながら、楽しそうに言うのだ。
「ノルンのことだよ」
「えっ? えーーーーー?!」
まさか自分がそんな風に呼ばれているなど知る由もなかったノルンは大声を出してしまっていた。
そんなノルンの頭を撫でながら、アーレスは、楽しそうに説明した。
「ノルンは、ここ数十年部屋に籠って姿を現してなかったよね? それも、国を守護する魔導士のことはみんな知っていて。だから、姿の見えない大魔導士のことをいつしかおとぎ話の中の人物のように言うようになったらしいんだ。その結果が、妖精爺」
「…………」
なんとコメントしていいのか分からなかったノルンは、無言になってしまっていた。
そして、何も聞かなかったことにして、用意されていた甘いお菓子を口に放り込むのだ。
「あぁ、今日の菓子も美味いなぁ……。あはははぁ……」
そんなノルンの心情を知ってか知らずか、アーレスは、ノルンのためにテーブルの上のお菓子を摘んでノルンの口に運んであげるのだった。
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