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第一部
第七話 運命の番との二度目の出会い
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その後、運がいいのか悪いのか、ノルンがアーレスを見かけることはなく、時は過ぎて行ったのだ。
ノルンはその日、自分の世話を良くしてくれる人物の一人である、宰相のガレス・ダインとお茶をしていた。
ガレスは、騎士団長のダンの実の弟だった。
しかし、面倒見のいいマッチョのダンと違って、ガレスは、面倒見のいいイケメンだった。
そして、誰よりもノルンを過保護にしてしまう人物でもあったのだ。
ノルンのことを大魔導士としてだけではなく、一人の人間として大好きなのだ。
だから、ガレスはノルンの好きなお菓子を作っては、一緒にお茶を飲む日々を楽しみとしていたのだ。
その日のお茶菓子は、自信作のチェリーパイだった。
少し季節外れのサクランボとカスタードクリームがふんだんに使われたパイにノルンはニコニコとするのだ。
年齢的には年上でも、ノルンの少年のような笑顔にガレスは頬を緩めるのだ。
口いっぱいにパイを頬張るノルンの頬についたカスタードクリームをハンカチで拭ったガレスは、ノルンに言うのだ。
「ノルン様、そんなに急いで食べなくても大丈夫ですから」
「もぐもぐ。ごくっ。ふう。ごめんなぁ。ガレスの作るものは美味くて、ついついガッツいてしまう。年甲斐もなく恥ずかしい限りだ」
そう言って、恥ずかしそうにするノルンに優しい笑みを浮かべたガレスはふわりと笑って言うのだ。
「そう言っていただけると、作った甲斐があります。今度は、レモンケーキを作ってきますから、楽しみにしていてくださいね」
「おおぅ。大好きだ。レモンケーキ!」
「はい。私は、ノルン様の好物を熟知しておりますからね」
そんな、ほのぼのとした空気を破るものが現れるなど、この時のノルンは考えてもいなかったのだ。
ノルンは、知らない人間の気配にいち早く気が付き、すぐに姿を老人に変えていた。
ノルンが老人の姿になるのと同時に、その場にガレスを呼ぶ声が響いたのだ。
「ガレス? ここにいるのか?」
呼ばれたガレスは、その声の主が誰なのかすぐに理解して、慌てて部屋を出て行こうとしたが遅かったのだ。
勝手にノルンの研究室に入ってきたのは、十五歳になったアーレスだった。
ストレートに伸びた銀の髪を後ろでハーフアップに結わえたアーレスは、頬をかきながらその場に現れたのだ。
「おかしいなぁ……。こっちにティーセットを持ってきたと思ったんだけどなぁ?」
そう言って、室内を見回すアーレスからノルンが見えないように立ち上がったガレスがアーレスの元に駆け寄る。
「アーレス殿下。いかがされましたか?」
駆け付けたガレスににこりと笑みを浮かべたアーレスは、事も無げに言った。
「いや、お前がティーセットを持って歩いているのが見えて、誰と茶をするのかと気になってな」
「はぁ。殿下、だからと言って、ここは立ち入りが制限されている区画ですよ?」
「う~ん。それは悪かった。でも、俺は噂の妖精爺を必ずひっ捕らえて、父上をあっと言わせ―――」
そこまで言ったアーレスは、なんとなくガレスの後ろに視線を向けて硬直するのだ。
ソファーにちょこんと座っている老人が目に入ったのだ。
少し前髪の後退した、優しそうな老人。
その優しそうな紅い瞳と視線が合った時、全身を雷で撃たれたような衝撃を受けたのだ。
アーレスは、その老人に触れたくて堪らなかった。名前を呼んで、手で触れたいと。
そして、ノルンもまたアーレスと視線があった時に衝撃を受けていたのだ。
涼し気な碧眼に見つめられたノルンは、瞬時に理解してしまったのだ。
目の前にいるアーレスが愛しいスレイの生まれ変わりだということに。
魂で繋がった番と再び巡り合えたことに、ノルンは下腹部が疼いてしまっていた。
その動揺からなのか、完璧な変身魔術は揺らぎ、元の姿に戻ってしまっていたのだ。
そのことに驚いたノルンは、全身を真っ赤に染めて研究室を飛び出してしまっていた。
部屋に籠り、愛しい人の魂と再び出会えたことを喜ぶのと同時に、アーレスに欲情してしまっている自分に気が付き愕然とする。
駄目だと思っても、アーレスに触れたい、繋がりたい、体の奥でアーレスの精を受け止めたい。
そんなことを思ってしまう自分に気が付いてしまったのだ。
だが、ノルンにはアーレスと繋がることは決して出来なかったのだ。
きっと、アーレスの肌に触れて、その体を知ってしまったら、また辛い思いをすると心が痛くなったのだ。
だから、アーレスのことは、遠くから見守ることにしようと。そう決心したのだ。
しかし、それはノルンの心の問題だった。
ノルンが魂の番だと知ったアーレスは、すぐに行動を起こしていたのだ。
一度は、惚けてノルンを逃してしまったアーレスだったが、すぐに気を取り戻してその背を追ったのだ。
閉じられた扉越しに、ノルンに言うのだ。
「あなたが俺の運命の人なんだな……。俺は、アーレス。お願いだ、あなたの名前を教えて?」
アーレスの甘い声がノルンを誘惑するのだ。
心を揺さぶられたノルンは、拳をぎゅっと握り、小さな声で扉越しに言うのだ。
「私は……ノルン」
「そうか、ノルン。ああ、可愛い名前だ。俺の魂の番」
ノルンはその日、自分の世話を良くしてくれる人物の一人である、宰相のガレス・ダインとお茶をしていた。
ガレスは、騎士団長のダンの実の弟だった。
しかし、面倒見のいいマッチョのダンと違って、ガレスは、面倒見のいいイケメンだった。
そして、誰よりもノルンを過保護にしてしまう人物でもあったのだ。
ノルンのことを大魔導士としてだけではなく、一人の人間として大好きなのだ。
だから、ガレスはノルンの好きなお菓子を作っては、一緒にお茶を飲む日々を楽しみとしていたのだ。
その日のお茶菓子は、自信作のチェリーパイだった。
少し季節外れのサクランボとカスタードクリームがふんだんに使われたパイにノルンはニコニコとするのだ。
年齢的には年上でも、ノルンの少年のような笑顔にガレスは頬を緩めるのだ。
口いっぱいにパイを頬張るノルンの頬についたカスタードクリームをハンカチで拭ったガレスは、ノルンに言うのだ。
「ノルン様、そんなに急いで食べなくても大丈夫ですから」
「もぐもぐ。ごくっ。ふう。ごめんなぁ。ガレスの作るものは美味くて、ついついガッツいてしまう。年甲斐もなく恥ずかしい限りだ」
そう言って、恥ずかしそうにするノルンに優しい笑みを浮かべたガレスはふわりと笑って言うのだ。
「そう言っていただけると、作った甲斐があります。今度は、レモンケーキを作ってきますから、楽しみにしていてくださいね」
「おおぅ。大好きだ。レモンケーキ!」
「はい。私は、ノルン様の好物を熟知しておりますからね」
そんな、ほのぼのとした空気を破るものが現れるなど、この時のノルンは考えてもいなかったのだ。
ノルンは、知らない人間の気配にいち早く気が付き、すぐに姿を老人に変えていた。
ノルンが老人の姿になるのと同時に、その場にガレスを呼ぶ声が響いたのだ。
「ガレス? ここにいるのか?」
呼ばれたガレスは、その声の主が誰なのかすぐに理解して、慌てて部屋を出て行こうとしたが遅かったのだ。
勝手にノルンの研究室に入ってきたのは、十五歳になったアーレスだった。
ストレートに伸びた銀の髪を後ろでハーフアップに結わえたアーレスは、頬をかきながらその場に現れたのだ。
「おかしいなぁ……。こっちにティーセットを持ってきたと思ったんだけどなぁ?」
そう言って、室内を見回すアーレスからノルンが見えないように立ち上がったガレスがアーレスの元に駆け寄る。
「アーレス殿下。いかがされましたか?」
駆け付けたガレスににこりと笑みを浮かべたアーレスは、事も無げに言った。
「いや、お前がティーセットを持って歩いているのが見えて、誰と茶をするのかと気になってな」
「はぁ。殿下、だからと言って、ここは立ち入りが制限されている区画ですよ?」
「う~ん。それは悪かった。でも、俺は噂の妖精爺を必ずひっ捕らえて、父上をあっと言わせ―――」
そこまで言ったアーレスは、なんとなくガレスの後ろに視線を向けて硬直するのだ。
ソファーにちょこんと座っている老人が目に入ったのだ。
少し前髪の後退した、優しそうな老人。
その優しそうな紅い瞳と視線が合った時、全身を雷で撃たれたような衝撃を受けたのだ。
アーレスは、その老人に触れたくて堪らなかった。名前を呼んで、手で触れたいと。
そして、ノルンもまたアーレスと視線があった時に衝撃を受けていたのだ。
涼し気な碧眼に見つめられたノルンは、瞬時に理解してしまったのだ。
目の前にいるアーレスが愛しいスレイの生まれ変わりだということに。
魂で繋がった番と再び巡り合えたことに、ノルンは下腹部が疼いてしまっていた。
その動揺からなのか、完璧な変身魔術は揺らぎ、元の姿に戻ってしまっていたのだ。
そのことに驚いたノルンは、全身を真っ赤に染めて研究室を飛び出してしまっていた。
部屋に籠り、愛しい人の魂と再び出会えたことを喜ぶのと同時に、アーレスに欲情してしまっている自分に気が付き愕然とする。
駄目だと思っても、アーレスに触れたい、繋がりたい、体の奥でアーレスの精を受け止めたい。
そんなことを思ってしまう自分に気が付いてしまったのだ。
だが、ノルンにはアーレスと繋がることは決して出来なかったのだ。
きっと、アーレスの肌に触れて、その体を知ってしまったら、また辛い思いをすると心が痛くなったのだ。
だから、アーレスのことは、遠くから見守ることにしようと。そう決心したのだ。
しかし、それはノルンの心の問題だった。
ノルンが魂の番だと知ったアーレスは、すぐに行動を起こしていたのだ。
一度は、惚けてノルンを逃してしまったアーレスだったが、すぐに気を取り戻してその背を追ったのだ。
閉じられた扉越しに、ノルンに言うのだ。
「あなたが俺の運命の人なんだな……。俺は、アーレス。お願いだ、あなたの名前を教えて?」
アーレスの甘い声がノルンを誘惑するのだ。
心を揺さぶられたノルンは、拳をぎゅっと握り、小さな声で扉越しに言うのだ。
「私は……ノルン」
「そうか、ノルン。ああ、可愛い名前だ。俺の魂の番」
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