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第八十三話 人はそれを走馬灯と呼ぶのか? 秋護の場合①

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 ふわふわとしていて味わったことのないような心地いい気分を秋護は感じていた。
 例えるならば、シルクで出来た綿菓子のようだと秋護は考えた。
 甘い香りがして、マシュマロのような柔らかさ。しかし、それは雲のように掴むことは出来ず、ただただ心地よさだけを秋護に与えていた。
 
 この心地いい世界にずっといたいと思った。思い出せないが、なにか恐ろしいことがつい先程あったように思っていたが、何を恐ろしく思ったのか思い出せずにいた。
 
 この春のような、暖かな温もりに包まれていたいと思い、自分にこの暖かさを与えてくれるものは一体なんだろうと思ったが、全く心当たりがなかった。
 
 こんなにも居心地のいい場所なんて今までなかったように感じた秋護はここが夢の中だと判断した。
 微睡んでいた意識を周りに向けてみたが、たしかに夢の中のようで、周りは真っ白で雲の中のようだと思った。
 
 このまま、心地いい感覚に包まれていようと思ったが、なにか大切なことを忘れている気がしたが、思い出すことでこの空間が壊れてしまう気がして、考えるのが嫌になった。
 もう少しこのままでいたいと思っていたが、頭の隅で理性が訴えていた。
 
 このままこの空間にいるのは危険だと。
 
 何故そう理性が訴えているのか?夢の中で首をかしげるが、答えが出なかった。
 すると、理性は記憶の奥底に封印したはずの記憶を秋護に見せ始めたのだ。
 秋護は、理性に「くっ!や、やめろ!!それだけは!!」と訴えたが、理性はそれを聞いてはくれなかった。
 そして、封印したはずの高校2年のあるよく晴れた春の日の出来事が、目の前の白い空間に映し出されたのだ。
 
 
 
 
 秋護は、とある男子校に通っていた。
 クラスの中でも目立つ存在ではなかったが、それなりに友好関係もあり良好な高校生活を送っていた。
 秋護の通っていた高校は、生徒の自主性を重んじる校風で、生徒会の発言力と影響力がものすごいことになっていた。
 更に、秋護が在学中の生徒会は歴代最強と言われた面子が揃っていたという。
 中でも、生徒会副会長が影の権力者と生徒に恐れられていたりしたのだ。
 生徒会長はカリスマもあり、整った顔をしていたので、ここが共学だったらさぞやモテたことだろう。
 しかし、そんな生徒会長は実は傀儡で、地味な生徒会副会長が生徒会を牛耳っているというのがもっぱらの噂だった。
 
 そんな噂はあったが、生徒会と関わる機会のない秋護はある事件が起こるまでその噂をすっかり忘れていたのだ。
 
 それは、幼馴染に進められて始めたとあるPCゲームが面白すぎて貫徹で全クリした日の翌日のことだった。
 秋護は、授業中何度もウトウトと船を漕いでいたが、なんとか午前の授業は乗り切ったが、とうとう眠さが限界にきたため、生徒に人気のない図書室で昼休みの間仮眠を取ることにしたのだ。
 秋護は、制服の上着を枕代わりにし、図書室の一番奥で、死角になるような位置に横になった。
 横になってすぐに、意識は夢の中へと旅立っていった。
 どのくらいそうしていたのだろうか。
 微かな物音ではあったが、何故か秋護はその音で目が覚めたのだ。
 あくびを噛み殺しつつ、どのくらい寝ていたのかと腕時計を眠い目をこすりながら確認した。
 
(げっ、もう5限始まってるじゃん。はぁ、ちょっとのつもりがマジ寝した。はぁ~、でもスッキリしたかな?)

 そんなことを考えていると、秋護のいる場所の、本棚を挟んだ向こう側で誰かが話す声がかすかに聞こえた。
 秋護は、自分以外にも授業をサボっている人間がいることに、苦笑いをした。
 そして、いつもなら相手が去るのをじっと待つところなのだが、このときは何故か誰がサボっているのかと興味が湧いてしまったのだ。
 そして、ちょうど本棚の隙間から向こう側が見えたため、こっそりと覗き込んだ。
 
 そこには、生徒会長と副会長がいたのだ。
 二人は、息がかかりそうなほどの近距離で真剣な表情で何かを話していた。
 
 このとき、既に不治の病に罹っていた秋護は、(ウホっ!!リアルBL!!しかも、カリスマイケメン生徒会長と地味メン副会長!!)と、ウキウキ気分で食い入るようにその場面を見つめたのだった。
 
 しかし、食い入るように見つめた視線は、副会長の射殺さんばかりの殺意に満ち目視線とぶつかったのだ。
 秋護は、(あっ、死んだ)とその時直感した。
 しかし、死ぬことはなかった。
 視線の合った副会長は、先程の視線が嘘だったかのような、いつもの穏やかそうな雰囲気で秋護に話しかけてきたのだ。
 
「こんにちは。君もさぼり?ここはお互い様だし、ここだけの話ってことでいいかな?」
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