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第七十二話 揉み続ける

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 ユリウスの叫び声をものともせずにレオールは、ある意味貴族らしい力技で船に乗る理由を託つけた。
 
「私の調べだと、ゴールデン・ウルフは我が国でもそこそこ名が知れている船だ」
「そうか。それが何だ?」

 名が知れていると言われて、ユリウスは満更でもない表情で続きを促した。
 
「しかし、普段の宝探しはハズレを引くことのほうが大半で、運営費は私掠船の報酬がほとんどという事だが?」

 レオールの言葉に、言い返せずに悔しそうな表情で黙った後、言い訳をした。
 
「別に、全部が全部ハズレというわけではない。たまに、お宝が手に入ることもある……」
「そうらしいな。しかし、船の運営は余裕があるわけではないだろう?そこでだ。私がスポンサーとなろう」

 レオールの提案にユリウスは、最初は目を点にしていたが、それを否定した。
 
「は?いやいやいや、それは無理だろう。お前はラジタリウス王国の人間だ。うちは、イグニスの船だ」
「無理ではないだろう?今や両国は正式に和平協定を結んでいる。私がスポンサーをすることに何ら問題はない」

 その言葉を聞いて、少し考えた後にユリウスは資金と人間関係を秤にかけて資金を選んだ。そして、ウィリアムの方をなんとも言えない表情で見た後に小さく一言言った。
 
「これからどうなろうともお前の努力次第だと思う。頑張れよ」
「何がだ?おい、俺は乗せる気はないぞ!!」
「万年金欠のうちの船のスポンサーになってくれるっていう奇特な申し出を断ることなど出来るか!!」
「この守銭奴め!!!」

 こうして、ユリウスの判断でレオールの船への乗船が許可されたんのだった。
 
 スポンサーということもあり、客室をレオール用に整えることに決めたユリウスは、部屋の内装で注文があるか確認すると既に先に家具などの調度品は手配済みだと驚くことを言ってきた。
 
 王都を出発して数日後、馬車に揺られた五人はようやくニルドニアについた。
 数週間ぶりにクルーに再開した一同は、互いに離れていた期間の報告を行っていた。
 春虎は、自分の居場所となっているキッチンに向かったが、そこは悲惨なことになっていた。
 
 すごく汚れていると言ったことではない。ただ、ジャガイモだらけだったのだ。
 そのことから、あることが頭をよぎり血の気が引いた。
 ちょうど、エルムが近くを通りがかったので恐る恐る確認をすることにしたが、エルムを一目見て確信した。
 
「エッ、エルム……。久しぶりだね。それで、これはどういうことかな?」

 そう言って、キッチンに山のようにあるジャガイモを指さして尋ねた。すると、目を泳がせたエルムが、出発前よりも幾分か・・・横幅のあるお腹周りを手で隠すようにしてから、突然地に伏した。
 そして、涙ながらに訴えた。
 
「違うんっす!!俺たち最初は、前みたいに当番制で頑張ってたっす!でも、ハルハルのうまい飯に慣れきった俺達にはその飯が不味くて仕方なかったんっす!それで、外食が続いたんっすけど、街で食べる食事も美味しくはなかったっすけど、俺達の作る飯よりはましな気がして……。でも、資金もそこまで多いわけではなくって……。そこで、水夫長が街で安いジャガイモを大量に買ってきて言ったっす。「今までの外食のせいで、預かった資金も危なくなってきている。これからはこれで凌ぐぞ!!」って!!前に、ハルハルからポテトフライとかチップスとか、コロッケとか美味しいジャガイモ料理を食べさせてもらったこともあって、頑張って簡単な、ポテトフライとチップスを作ったんっす。作り置きしてくれた、ケチャップとか、ハーブの風味のある塩とか色々付けて食べてたら……」

 そこまで一気に言ったエルムは、悲しそうに自分の腹部を摘んだ。
 
「ハルハル~。美味しくて、安くて、簡単に作れるから、毎日毎日食べてたっす。パンは作れないから仕方なく街で買って。そんな食生活が続いていたっす」

 そこまで聞いた春虎は、恐るおそおるエルムの腹部に触れた。
 ぷにぷにとしていて、お餅のようだった。出発前のエルムは、割れるほどではなかったが、スリムな体型だったことを考えると、離れていた間の乱れた食生活の酷さが伺えた。
 更に、肌は荒れて顔色も悪かった。これは、完全に栄養不足だと考えた春虎は、無意識にエルムの腹を揉み続けていた。
 
 エルムは、最初は悲しそうな表情で自分の腹を揉んでいた春虎が、何かを考えながら真剣な表情で自分の腹を揉み続けることが恥ずかしくなり、両手で顔を覆ってそれに耐えた。
 
 傍から見ると異様な光景ではあったが、それを突っ込む者はこの場にはいなかった。
 ようやく考えが纏まった春虎は、エルムの目を見て言った。ただし、揉むことはやめずに。
 
「よし、これから食生活改善プログラムを開始するよ。それで、みんなの体型がもとに戻ってから、王都で調達した材料で新しい料理を振る舞うことにするよ」

 新しい料理と言われたエルムは、顔を覆っていた両手を解いて春虎を見つめて期待のこもった表情で言った。

「えっ!!新しい料理っすか!!どっ、どんなものっすか!」
「えっと、美味しいけど今のエルムたちにはカロリーが致死量になるかも?」
「つまり、死ぬほど美味いってことっすね!!」
「そうとも言うのかな?」
「俺!頑張って、元の体型に戻すっす!!」
「うん」
「……。それよりも……」
「どうしたの?」
「ハルハルのエッチ」

 そう言って、エルムは顔を赤くして再び両手で顔を覆った。
 そこで、今までずっとエルムのぷよぷよなお腹を揉み続けていたことに気が付いた春虎は、慌てて手を離した。
 
「ごっ、ごめん!!なんだか気持ちよくって。何ていうか、ずっと揉んでいたいようなそんな魅力のある弾力があって……」
「ハルハル~。酷いっす。俺、恥ずかしくてお嫁に行けないっす!!責任とって美味しいご飯を食べさせて欲しいっす」

 エルムは、冗談めかしてそう言った。春虎もエルムの冗談に気が付いて、それに乗って冗談めかして返した。
 
「本当に、エルムは可愛いね。よし、僕が責任を持って美味しい食事を振る舞おう。今日は、エルムのために特別にだよ?明日から本気の改善メニューで行くからね」

 二人は、久しぶりのやり取りにいつもよりも楽しそうに、いつもどおりの軽口を言い合っていた。
 しかし、恋する男達はその会話を歪曲してしまっていた。
 
 そう、春虎に会いに向かったウィリアムとレオールはキッチンの入口で鉢合わせをしてしまい、お互いに牽制しあっていたところ入るに入れずに、二人の楽しそうな会話をキッチンの外で盗み聞きしていたのだ。
 妄想の入り混じったピンク色の思考の中で、二人の会話はこう変換されていた。
 
「お前のここ、気持ちいな。魅力的なお前のここをずっと揉んでいたいよ」
「ハルハル~。弄ぶなんて酷いっす。もう、責任とってお嫁にしてっす。そして毎日、美味しいご飯を食べさせてっす」
「可愛いエルム。僕が君をお嫁に貰ってあげるよ。そして、毎日エルムを美味しくいただくよ。今夜は寝かせないぜ」

 と、完全に誰それ?状態の妄想上の春虎とエルムは完全に春虎が悪い男でエルムが悪い男に騙されている乙女のような構図になっていた。
 春虎のことを女の子とは気が付いていないウィリアムならまだしも、気が付いているレオールまでもがそう想像してしまったのだから、二人の中の春虎像は強くて格好良いというイメージが大半を占めている事がよく分かる一幕だった。
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