上 下
65 / 91

第六十五話 突然の……

しおりを挟む
 覚悟を決めて二人が待っている部屋に行くと、レオールは至って普通に春虎を迎えた。
 普通にしてくれるのはいいのだが、先程の様子からは想像もできないくらいの普通な様子に拍子抜けした春虎は、レオールの調子に合わせることにして、彼の座るソファーの横に座った。
 
「ダディオス様、バスルームとこちらのワンピースをお貸しいただきありがとうございます。こちらのお洋服は後日お返しに参りますわ」

 春虎が、リユートに向かって言うと、彼は首を振ってから言った。
 
「その服はお嬢さんに差し上げます。どうぞお気にせずに」
「そういう訳にはいきませんわ」

 ワンピースをくれるというリユートに対してもらう理由がないと否定したが、横に座っていたレオールが「今回の騒動で、リアのドレスが駄目になったんだ。貰っておけばいい」と、窓の外の景色見ながら言ってきた。
 着物は少し汚れたが、確認したところ破けてはいなかったので、駄目になったわけではなかったのだが、ここで断ってもリユートは聞き入れてくれないと感じた春虎は、迷惑料ということにして受け取ることにした。
 ただし、今後着る予定は一切ないので箪笥の肥やしではないが影の中に入れっぱなしになることは間違いなかった。
 
「わかりました。それでは、こちらは有り難く頂戴いたしますわ」
「そうしてくれ」
「それでは、レオール様戻りましょうか」

 用はすんだとばかりに、この場を去ろうとした春虎にリユートが声をかけた。
 
「見たところお嬢さんはとても疲れているように思う。少し休んでいくといい」

 リユートの言葉は有難かったが、いつまでもここにいると家で留守番しているみんなが心配するだろうな、と考えていた春虎は丁重にそれを断った。
 先程のこともあり、バスルームを出る前に目覚まし用の丸薬を飲んできたので、家に帰るまでは十分持つと考えての発言だった。
 
 リユートは、レオールが頷いたのを見て無理に引き止めることはしなかった。それでも、家まで送ると馬車に乗るように言ってきたが、これも春虎が断った。
 
「お言葉は有り難いのですが、今は歩きたい気持ちなので……」
「私も歩きたい気持ちだった。だからそこまでしなくてもいい」

 春虎だけではなく、レオールにまで断られたリユートは渋々といった様子で二人の意思を受け入れた。
 去り際に、レオールが「またな」という短い言葉にリユートは泣きそうなそれでいて嬉しそうな複雑な表情で短く「ああ」とだけ返した。
 
 リユートの屋敷を後にした二人は、帰路をゆっくりと歩いた。
 色々とレオールに先程のリユートへの対応について聞きたかった春虎は、敢えて送ってもらうことはせずに、家に帰る前に二人っきりで話がしたかったのだが、話をできる雰囲気ではなかった。
 屋敷を出てからのレオールの様子が変だったのだ。やけに春虎のことをちら見してくるのだ。そして、何か言いたそうにしているが一向に話しかけてくる気配がなかった。
 流石に、その挙動不審な行動が気になった春虎は、面倒な予感しかしなかったが話しかけることに決めて、レオールの方を見た。
 
「あの、レオール様?何かおっしゃりたいことがあるのではないですか?」

 春虎の問いかけに少し身を固くしたレオールは、数歩無言で歩いた後、急に立ち止まった。隣を歩くレオールが急に立ち止まったため、春虎も歩くのをやめて数歩先で立ち止まりレオールを振り返った。
 そこには、真剣な表情をしたレオールが春虎を見つめている姿があった。
 そして、レオールは少し距離の空いた春虎に近づきその小さな手を取って言った。
 
「君が、正体を隠している事情はわからない。だが、私は男として責任を取るつもりだ。今後も君が正体を隠したいというのであれば、私はそれに協力する。だから私の妻になってくれ。いや、妻になってください。リアを大切にする。世界一幸せにすると誓うよ」

 そう言って、昨日の夜のように春虎の目の前で片膝をついて真剣な瞳で言ってきたのだ。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

拝啓。聖女召喚で得た加護がハズレらしくダンジョンに置いてきぼりにされた私ですが元気です。って、そんな訳ないでしょうが!責任者出て来いやオラ!

バナナマヨネーズ
恋愛
私、武蔵野千夜、十八歳。どこにでもいる普通の女の子。ある日突然、クラスメイトと一緒に異世界に召喚されちゃったの。クラスのみんなは、聖女らしい加護を持っていたんだけど、どうしてか、私だけよくわからない【応援】って加護で……。使い道の分からないハズレ加護だって……。はい。厄介者確定~。 結局、私は捨てられてしまうの……って、ふっざけんな!! 勝手に呼び出して勝手言ってんな! な~んて、荒ぶってた時期もありましたが、ダンジョンの中で拾った子狼と幸せになれる安住の地を求めて旅をすることにしたんですよ。 はぁ、こんな世界で幸せになれる場所なんてあるのかしら? 全19話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍

バナナマヨネーズ
恋愛
貧乏男爵令嬢のリリル・クロケットは、貴族たちから忌み嫌われていた。しかし、父と兄に心から大切にされていたことで、それを苦に思うことはなかった。そんなある日、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴で事件は起こった。軍を率いて王国を勝利に導いた将軍、フェデュイ・シュタット侯爵がリリルの身を褒美として求めてきたのだ。これは、勘違いに勘違いを重ねてしまうリリルが、恋を知り愛に気が付き、幸せになるまでの物語。 全11話

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...