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第十三話 宴

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 別室で待機していた二人は、次々と他の船の船長並びに副船長が到着するのを用意されたお茶を飲みながら見ていた。
 すると、何故かドレイクが春虎を連れてやってくるのが見えたのだ。
 二人は同時に、それまで優雅に飲んでいたお茶を勢いよく噴出した。
 周りにいた他の船の船長達は、何事かと二人を見たが、その時にはすでにこの場を離れた後だった。
 二人は、ものすごい速さで春虎とドレイクの元に向かっていた。

「おい!提督、何でハルトラと一緒なんだ!!」
「提督!!何を勝手なことを!うちのクルーに何してるんですか!!」
「いやなに、どうせ今日は宴が開かれると思ってな。それに、陛下はハー坊の事を見たがると踏んで、準備して参上した訳さ」

 提督に連れられた春虎は、新しい洋服に身を包んで登場したのだ。
 確かに、現在の春虎の手持ちの洋服では王宮に上がるのに相応しいものは一着もなかったが、自分の船のクルーの衣装のことで口を出されたくはなかったウィリアムだった。
 本当ならば、時間を見つけて新しい服を買いに行く予定だったウィリアムは、ムッとしながらも新しい装いの春虎が、さらに可愛く見えて少し動揺していた。
 春虎は、シンプルな白いシャツに、黒いハーフパンツ。腰には、鮮やかな紅い布を巻いていた。シンプルながら、どれも上質な布地で出来た最上級のものだった。
 ウィリアムが無言で春虎を見つめていると、困り顔の春虎が説明をした。

「船長すみません。おじ様が、どうしてもこの服を着て欲しいというので断れなくて……。それに、王宮からの召喚もあって、勝手にお言葉に甘えてしまいました」

 ウィリアムの態度から怒っていると勘違いした春虎は、頭を下げた。しかし、それよりもウィリアムには聞き捨てならない事があった。

「おい、提督。おじ様ってなんだ?」
「ん?最初はドレイク提督と呼ばれていたんだが、もっと親しげに呼んで欲しくてな。おじちゃんって言うようにお願いしたんだが、なんやかんやでおじ様呼びになった。これも悪くないな!!」
「鼻の下を伸ばすな!!」
「別に減るもんじゃないしいいだろうが!!」

 言い争っている二人を他所に、ユリウスは春虎に他に何かなかったか確認をしていた。

「贈られたのはこの一式だけか?」
「はい。他にもあったみたいなんですが、丁重にお断りしました。新しい服は、今持っているものがあるので必要ないです。もし、今後必要になったら自分でお金をためて購入します」
「分かった。今の服は、たしか他のクルーのお下がりを自分で繕ったんだったな?」
「はい。もらったのはいいんですが、全部大きすぎて」
「ふむ。それなら、明日にでも新しい普段着をいくつか購入しに行こうか」
「えっ?別にいいですよ」
「いや、継ぎはぎだらけの服だと、うちの船の威信に関わる。クルーにきちんとした恰好をさせるのも副船長の仕事だ」
「なるほど。確かにクルーがみすぼらしい恰好をしていたら、周りに舐められてしまいますよね」
「そう言うことだ」
「分かりました。でも、お金が……」
「そこはいい。今回は俺が持つ。ただし、次の給金を渡す時にその分を少し差し引くがな」
「分かりました。ありがとうございます」

 そうこうしている間に、宴の開始となっていた。集まっていた一同は、広間に移動することになった。
 春虎は、移動する間にこの宴について、どういうものなのかユリウスに質問することにした。

「あの……、今回のお呼びって一体どういったものなんですか?」
「そうだな、私掠船乗りと海軍の懇親会のようなものだな。それと、宴で集まった者同士で、情報交換したりとな。女王陛下の気紛れでたまに開かれる」
「なるほど」

 会場に着くと、沢山の料理が並べられているのが目に入った。
 立食式で、お酒も用意されていた。
 会場に入った船乗りたちは、思い思いに宴を過ごしていた。
 これもいつものことだ。
 いつも、主催者の女王は遅れてやってきたのだ。

 春虎は、目の前にある珍しい料理に舌鼓を打った。初めは遠慮をしていたが、ユリウスから「遠慮は不要だ。好きなだけ食え」と言われてしまったため、それならばと目の前の料理にぱくついたのだ。
 春虎が、王宮の料理の美味しさに夢中でパクついていると、情報交換から戻ってきたウィリアムがいつもの調子で口を開けた。

「ハルトラ、美味しそうだな。俺にも一口くれ。あー」
「船長は、仕方のない人ですね。自分で取ってくればいいじゃないですか」

 そう言いつつ、皿にあった肉をフォークで刺してウィリアムの開いた口に入れた。

「ん~。流石は王宮の料理だ。旨いな。まぁ、俺はお前の料理も大好きだけどな」
「褒めても何も出ないですよ」

 そんなやり取りをしていると、ものすごいプレッシャーが会場内に走った。
 そして春虎は、プレッシャーと同時に背筋が凍るような謎の寒気も同時に感じていた。
 謎のプレッシャーと寒気を感じたため、ウィリアムに相談しようとしたが、ウィリアムも同じ様に思ったようで、同時に目があった。
 無言で見つめ合っていると、さらに謎のプレッシャーが強くなった。

「船長……」
「分からん。ただ、不思議と敵意は感じない」
「はい。でも……。物凄く悪寒がしますね」
「安心しろ。俺は、ゴールデン・ウルフの船長だぞ。何かあってもお前を守ってやるさ」

 そう言って、春虎の肩を抱き寄せた。しかし、謎のプレッシャーはさらに強まっていた。
 強がるわけではなかったが、ウィリアムの励ましの言葉に嬉しさを感じた春虎は、小さく微笑みながら感謝を述べた。

「ありがとうございます。でも、ボクは船長よりも強いと思いますよ?」
「言ったな?それじゃぁ、今度手合わせでもするか?」
「いいですよ」

 そんなことを話していると、急に謎のプレッシャーが霧散した。
 不思議に思っていると、情報交換から戻ってきたユリウスが近寄ってきて言った。

「そろそろ、陛下がいらっしゃるようだ」
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