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第一話 聖女の復讐

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 聖女と呼ばれた少女は、遠く離れた場所での光景を魔法の力で覗き見ながら、薄笑いを浮かべていた。
 自分から愛する人を奪った憎い相手が無様に悲鳴を上げて助けを求める姿が滑稽で笑うしかなかった。
 
 憎くて憎くて仕方のない。
 だけど、簡単に殺してなんてやらない。
 苦しめて苦しめて、何度でも苦痛を与えて、それでもまだ殺さない。
 
 
 こんなものじゃ足りない。
 もっともっと苦しませてあげるから。

 憎しみに燃える紅蓮の瞳で、憎くて堪らない王太子の無様な様子を見つめ続けた。
 
 
 
 聖女は、どうしてこうなってしまったのかと空を仰いだ。
 
 聖女の荒んだ心とは正反対の、どこまでも透き通るような青い青い空には、雲が流れていった。
 とても綺麗な青空を見つめていると、最愛の人の笑顔が浮かんだ。
 
 歯を見せてにかっと笑うその顔を見ると、いつも太陽のようでとても眩しいと感じた大好きな笑顔を。
 聖女の髪を梳いて、優しく頭を撫でてくれる仕草を思い出すと、涙が溢れて止まらなかった。
 
 
 お互いに愛し合っていたのだ。
 結婚しようと約束をしていたのだ。
 
 大好きだった。
 初めて会った時、運命の人だとお互いに感じたのだ。
 
 
 
 それなのに、それなのに!!
 
 
 聖女の心は、嵐のように憎しみが渦巻いていた。
 
 憎いあいつを殺したい。
 憎いあいつを苦しめたい。
 憎いあいつを痛めつけたい。
 
 
 黒い感情に支配されていた聖女の心は、既に限界だった。
 
 カサカサに乾燥しヒビ割れて、真っ黒な血を流していた。
 だけど、そんなことどうでもよかったのだ。
 
 復讐を果たせるなら、悪魔にだってなってやるのだと聖女は誓ったのだ。
 
 
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