上 下
40 / 40

第四十話

しおりを挟む
「夢でも嬉しい……。ラヴィリオ皇子殿下……、夢の中なら言えます。わたしは、貴方様をお慕いしております……。ああ、死ぬ前に夢の中とは言え、お伝え出来てよかったです」

「ティアリア……。好きだ。愛している。だから、死ぬなどと悲しいことは言わないでくれ。ずっと俺の傍にいると誓ってくれ」

「はい。わたしは、ずっとラヴィリオ皇子殿下のお傍に居たいです」

「ああ、言質はとった。ジーンもローザも聞いたな」

「はい」

「ええ、しっかりとお聞きしました」

「そう言う訳で、もう二度と放さないからな」

「はい……。えっ?」

 返事をした後、わたしは何かがおかしいと、そう思ったのだ。
 夢の中だとしても、こんなのわたしに都合が良すぎるもの。
 それに、夢にしては手に伝わる感触が……リアルすぎる。匂いもするし……。
 夢の中のラヴィリオ皇子殿下の匂いを嗅いでいると、頭の上から笑い声が聞こえた。
 
「くすっ。ティアリア。くすぐったい」

「ふにゃ? ………………。えっ?」

 夢にしてははっきりとした視界。
 そして、その視界の中には、金の髪と青い瞳の美しい男性。
 手を伸ばして、その輪郭をなぞる。
 
「ラヴィリオ皇子殿下……?」

「ああ」

 え? えーーーーーーーーー?!
 これは、夢? 
 そう思って、それを確かめるために自分の頬を強めに抓ってみる。
 痛い……。
 えっ? えっ?
 どうして、目が見えているの? 右手があるの? わたしは生きているの?

「な……なんで?」

 混乱するわたしがそう口にすると、ラヴィリオ皇子殿下がさらにぎゅっと抱きしめてから教えてくれた。
 
「ティアリアの奪われていた両目と右手を取り戻したんだ」

「でも、ありえません……。どうして?」

「奇跡……。そう、奇跡としか思えないことだが……。ティアリアが眠っていた間のことを話すから聞いて欲しい」

 そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、わたしの意識がない間のことを教えてくれた。
 
 わたしの右腕を奪ったのがディスポーラ王国の仕業だと確信したラヴィリオ皇子殿下は、王国に攻め入って、なんと王国を支配下に置いたのだというのだ。
 現在は、ディスポーラ王国は解体されて、その土地はいくつかの領地に分けられて、帝国の貴族が納めているのだというのだ。
 そして、ディスポーラ王国の王族は全員が斬首刑となったのだという。
 
 王国に攻め入った際に、結界の礎として捧げられたわたしの両目と右手を見つけて、回収されたラヴィリオ皇子殿下は、持ち帰ったわたしの体をなんとかして戻せないかと考えたのだというの。
 それで、両目と右手を持ち帰ったラヴィリオ皇子殿下は、わたしの元を訪れて、なんとなくわたしの体に、奪われた両目と右手を触れさせたそうなの。
 そうしたら、突然光りだして、気が付いたら奪われていた体が元に戻ったのだというの。
 体が元に戻ると、それまでにわたしの体に浮き出ていた赤い紋様のようなものも消えていたのだというのだ。
 赤い紋様……。
 恐らくだけど、背中に刻まれた礎の印と関係して居そうだけど、どう関係しているのかはわたしには分からなかった。
 でも、背中の印とわたしの奪われていた両目と右手は魔力的に結びついていたと思うから……。
 難しいことは分からないけれど、体が元に戻ったことだけはわかった。
 でも、これこそバケモノのようだわ……。
 失くしたはずの体がくっつくだなんて……。
 だけど、ラヴィリオ皇子殿下は、そんなわたしのことも喜んでくれた。
 
 だったら、バケモノでもわたしはいい。
 ラヴィリオ皇子殿下と共にいられるのなら。


 その後、体が完全に回復したわたしは、ラヴィリオ皇子殿下によってマルクトォス帝国を見せてもらった。
 とても豊かで、人々の笑顔に溢れたとてもいい国だと肌で感じた。
 
「ラヴィリオ様……。わたしに出来るでしょうか?」

「大丈夫だ。ティアリアが支えてくれれば、俺は次期皇帝として頑張れる。ティアリアは俺のこと支えてくれるんだろう?」

「はい。頑張ります。これから、沢山のことを学んで、ラヴィリオ様をお支えします!」

「ありがとう。でも、頑張りすぎないでくれ。ティアリアが倒れてしまったら大変だ」

「……。はい。でも、それでも頑張りたいんです。わたしは、わたしのことを受け入れてくれた帝国の皆さんに少しでもお返しがしたいんです」

「そうか……。民のことを思ってくれるのは嬉しい。だが、一番に俺のことを考えて欲しいかな?」

 そう言ったラヴィリオ様は素早い動きでわたしの頬にキスをする。
 恥ずかしさもあったけど、嬉しさもあったわたしは、キスされた頬を手で押さえるようにして下を向いてしまう。

「恥ずかしがるティアリアも可愛い。なぁ……」

 そう言って、ラヴィリオ様はわたしの顔を上に向けさせた。そして、わたしの瞳をじっと見つめるの。
 この仕草は、わたしの目が見えるようになってからの習慣と言うか……。
 ラヴィリオ様のその仕草にわたしは、いつものように瞼を伏せた。
 それが二人の中の合図だった。
 ゆっくりとわたしに近づいたラヴィリオ様は、そっとわたしの唇に唇を合わせる。
 柔らかい温もりにわたしは、幸せだとそう感じていた。
 そして、この幸せをラヴィリオ様と分かち合い、この命が尽きるその時まで共にいようと。
 そうわたしは誓ったわ。


『軟派チャラ皇子はバケモノ王女を溺愛中!?』 おわり
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

わたしの好きなひと(幼馴染)の好きなひと(わたしの姉)から惚れ薬を渡されたので、

やなぎ怜
恋愛
魔が差して好きなひと(幼馴染)に惚れ薬を盛ってしまった。 ……風花(ふうか)は幼馴染の維月(いつき)が好きだが、彼の想い人は風花の姉・雪子(ゆきこ)だった。しかしあるとき雪子に惚れ薬を渡される風花。半信半疑ながら思い余って維月に惚れ薬を盛ったところ効果はてきめんで、風花は彼とキスをする。しかし維月の中にある己への愛情は偽りのものだと思うと、罪悪感で苦しくなってしまう。それでもズルズルと騙し続けていたが、風花自ら惚れ薬の効能を解く出来事が起こり――。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...