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第三十八話 sideラヴィリオ

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 ゴミカス? まさかこの女、ティアリアのことをそう呼んでいるんじゃないよな?
 そう思ったのと同時に、俺はマリーデ・ディスポーラの髪を掴む力が強まっていた。
 
「あぎゃーー!! いだい!! はなぢで!!」

 マリーデ・ディスポーラは、涙と鼻水を流しながらそう言って許しを請う。
 そんな物は聞き流した俺は、マリーデ・ディスポーラに質問という名の尋問をする。
 
「正直に答えろ。さもないと、容赦しない。嘘を言っていると俺が感じたら、その時点で手足をへし折るからな」

「ひっ! わ、分かりました! だから手を放してください!!」

「駄目だ。それよりも、早く楽になりたいのなら正直に聞かれたことにだけ答えろ」

「ぁぁ……。わかりました……」

 大人しくなったマリーデ・ディスポーラに俺は、ティアリアのことを質問してく。
 
「ティアリアの腕を奪った理由は?」

「あのご……」

 マリーデ・ディスポーラがティアリアのことをゴミカスと呼ぶことが許せない俺は、髪を掴む力を強くする。
 
「あの子は、生まれた時から信じられないくらいの魔力を持っていました。その魔力がわが国には必要だったのです。だから、あの子から腕を奪いました……」

「魔力なら魔鉱石で賄えるはずだ」

「魔鉱石ではダメなのです」

「何が駄目なのだ」

「…………」

「言え」

 言い渋るマリーデ・ディスポーラは、ディスポーラ王国の重大な秘密を吐き出す。
 
「我が国を守っている結界が弱ったのです! そんな時、あの子が生まれたのです。しかも、巨大な魔力を持って! 誰もが思ったわ! あの子がこの国を守る結界の力を強奪して生まれてきたのだと!! だから、あの子は償わなければならないのよ!! 仕方がなかったのよ。我が国は結界がなければすぐに近隣の国に攻め入られて滅んでしまう! だからあの子が三つになった時、結界の核となるように儀式を執り行ったのよ!! 儀式は成功したわ!! 近年弱り続けていた結界の硬度が蘇ったわ!! だけど、人間を生きたまま核にするのは向かなかった……。だから、あの子の左目に魔力を込めさせて、左目を核に据えることにしたのよ。想像通り、結界は安定して硬度を保ったわ。でも、魔力の込め方が弱かったみたいで、数年で硬度が弱っていくのが分かった。だから、次は右目を!」

 マリーデ・ディスポーラの話が頭に入らなかった。
 生きたまま核にした? 核にするために左目を奪った? 力が弱まったから今度は右目を奪った?
 この女は何を言っているんだ……。
 何を……。
 
「それで、今度は腕に魔力を込めさせて、腕を奪ったとでも言うのか?」

「ええ、そうよ。今まで、中途半端に魔力を込めさせたから長持ちしなかったんだと結論付けたわ。だから、根こそぎ奪うことにしたわ。そのお陰で結界は全盛期の硬度を取り戻したはずだった……。なのに……。なのにどうして? 結界は生きているはずよ? どうして帝国軍がここまで入ってこられたのよ!!」

「知らん。それよりも、ティアリアから奪ったものを返してもらうぞ」

「い……。嫌よ! 駄目よそんなの!!」

 今この状態でもそんなことをほざくマリーデ・ディスポーラへの憎悪が限界に達していた。
 右手を振り上げて、マリーデ・ディスポーラの両手を拳で打ち抜く。
 
 骨の砕ける感覚が拳にあったが、俺は何度も拳を振り降ろしていた。
 気が付くと、ジーンに後ろから羽交い絞めにされていた。
 
「悪い。我を忘れていた。マリーデ・ディスポーラは?」

「生きてます。辛うじて……」

「はぁ……。水をかけてマリーデ・ディスポーラを叩き起こせ」

「承知しました」

 水を掛けても頬を打っても目を覚まさないマリーデ・ディスポーラは放置することに決めた俺は、ベッドの上で放心状態の国王の元に近づいた。
 
「結界の核の場所を言え」

「ひっーーっい!!」

 震える国王にもマリーデ・ディスポーラと同様に拳を振り上げたが、その拳を振り下ろすことはなかった。
 
「城の地下だ! 一番奥深いところにある!!」

「分かった。そこまで案内しろ」

 そう言って、震える王を引きずって結界の中心だという場所に向かった。
 王城の地下深くにその扉はあった。
 禍々しい紋様が施された巨大な石造りの扉。
 帝国兵が数人がかりでそしても開かないそれは、王が扉に触れると簡単に開いたのだ。
 そして俺はその光景に目を見開く。
 
 赤黒く禍々しい光を帯びる魔方陣の中心に、キラキラと輝く二つの宝石と華奢な腕があったのだ。
 紫色に輝く二つの宝石……。その正体は、ティアリアの瞳だった。
 俺がティアリアの両目と右腕に近づくと、それまで禍々しい光を放っていた魔方陣がチカチカと明滅し始めた。
 不思議には思ったが、何故かそれが俺を害する気がしなかった。
 だから、惹かれるように俺はその魔方陣の中に進んで入っていたのだ。
 
 その中は信じられないくらい温かく、優しい空気をまとっていた。
 俺は、マントにティアリアの両目と右腕を包んでその場から立ち去る。
 
 そのとたん、魔方陣は光を失い、それまで感じていた魔力も全く感じられなくなっていた。
 
 王は、俺が魔方陣の中心からティアリアの両目と右腕を持ち出したのを見るとその場に崩れ落ちていた。
 
 
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