上 下
15 / 40

第十五話 sideラヴィリオ

しおりを挟む
 何だこの可愛い生き物は……。
 俺の用意したケーキを俺に食べさせようとしているティアリアを見た俺の正直な感想だ。
 大き目に掬われたケーキを差し出された俺は、誘われるようにそれを口にしていた。
 
 いつもよりも甘くて、美味しいと俺は感じた。
 ケーキの甘さを噛み締めていると、ティアリアが小さな声で申し出た。
 
「ラヴィリオ皇子殿下……。どうしてわたしなんかに優しくしてくれるのですか? わたしは、皇子殿下の利益になるような存在ではありません」

 心から申し訳なさそうにそういう彼女が痛々しくて、俺は彼女を抱きしめたくて仕方なかった。
 
「利益とかそんなの関係ないよ。俺は、ただ君が好きなんだ。だから優しくしたいし、甘やかしたい。ただそれだけだよ」

「ですが……」

「う~ん。なら、確かめてみる?」

「確かめる? 何をですか?」

「それは、俺がどれくらい君が好きなのかをだよ」

「え? そんなの……」

 戸惑う彼女が可愛くて、さっきケーキを食べさせた時にちらっと見えた、可愛らしい唇を思い出してしまった俺は、理性を総動員させて彼女を口説く。
 正直、今すぐ抱きしめて、キスして、それ以上のことだってしたい。
 だけど、彼女の気持ちを無視してそんなことは出来ない。
 だから俺は、彼女自身に確かめてもらうことにしたのだ。
 
「ティアリア、どうかな?」

「手に伝わってきます」

「どんな感じ?」

「すごく早くて、手のひらに伝わってきます」

「うん。君が好きだから俺の鼓動は凄くドキドキしてるんだよ」

 俺は、自らの胸にティアリアの手のひらを当てさせていた。
 心臓の音は誤魔化しようがないからね。
 まぁ、一流の詐欺師は違うみたいだけど。
 それに、ティアリアの可愛い手が俺に触れているのに、胸が高鳴らないわけがないんだ。
 彼女の存在が、俺の恋慕を募らせる。
 
「どうかな? 俺が君にドキドキしていることは伝わったかな?」

「…………。あの……もっと近づいてもいいですか?」

「え? あ……ああ。いいよ?」

「はい。それでは、失礼いたします」

 そう言ったティアリアは、俺の胸を撫でた後に顔を近づけた。
 俺の胸に顔を埋めるようにしたティアリアは気が付いているのだろうか?
 俺の体に、ティアリアの細すぎる体が密着していた。
 心臓は胸を突き破ってしまいそうだと思った。
 
「ドクンドクンって。音が大きくなりました。でも、なんだかあんしんしますぅ…………」

 そう言ったティアリアは、そのまま寝落ちしていた。
 すぅすぅと可愛い寝息が聞こえてきていた。
 起こさないように彼女をベッドに運ぼうとしたが、そこで気が付く。
 彼女が俺のシャツを強く握っていることにだ。
 
 ティアリアへの恋を自覚する前の俺だったら、シャツを脱いでその場から立ち去っていただろう。
 でも、彼女からの甘えるような行動に、そんなもったいないことなど出来なかった。
 そう、これは仕方なかったんだ。
 言い訳だと知っている。だが、それでもこのチャンスを逃したくなかった。
 彼女を抱きしめるような格好でベッドに沈んだ俺は、彼女が俺の胸の音で安心して眠ってくれることが嬉しい反面、男として見られていないことがはっきりしてがっかりする。
 
「ティアリア。好きだよ。君の言葉で俺は救われた。そして、愚かな俺は目が覚めたんだ……。君が好きだ。だから、これから少しずつ俺のことを知っていって、出来れば少しでも好きになってくれ……」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の婚約者は失恋の痛手を抱えています。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
幼馴染の少女に失恋したばかりのケインと「学園卒業まで婚約していることは秘密にする」という条件で婚約したリンジー。当初は互いに恋愛感情はなかったが、一年の交際を経て二人の距離は縮まりつつあった。 予定より早いけど婚約を公表しようと言い出したケインに、失恋の傷はすっかり癒えたのだと嬉しくなったリンジーだったが、その矢先、彼の初恋の相手である幼馴染ミーナがケインの前に現れる。

嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍

バナナマヨネーズ
恋愛
貧乏男爵令嬢のリリル・クロケットは、貴族たちから忌み嫌われていた。しかし、父と兄に心から大切にされていたことで、それを苦に思うことはなかった。そんなある日、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴で事件は起こった。軍を率いて王国を勝利に導いた将軍、フェデュイ・シュタット侯爵がリリルの身を褒美として求めてきたのだ。これは、勘違いに勘違いを重ねてしまうリリルが、恋を知り愛に気が付き、幸せになるまでの物語。 全11話

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...